界面活性剤を選ぶときのポイントと界面活性剤を除去する方法

界面活性剤を選ぶときのポイントと界面活性剤を除去する方法

界面活性剤は先の実験も見据えて選ぼう

細胞や組織からタンパク質サンプルを調製するとき、疎水性タンパク質を可溶化する目的で用いられる界面活性剤。化学構造の微妙な調整でその特性が大きく変わるため、目的とするアプリケーションを考慮しつつどれを選ぶべきか、研究者は頭を悩ませがちです。

また、下流の実験によっては界面活性剤が阻害因子となるため、サンプルから除去しなければならない場合があります。せっかく苦労して膜タンパク質を抽出したのに界面活性剤の可溶化によって天然脂質相互作用が破壊されてしまった……そんな経験をした人もいるかもしれません。

この記事では、界面活性剤を選ぶときのポイントとあわせて界面活性剤の除去方法について解説します。

界面活性剤選定における10のポイント

現在、多数の界面活性剤が利用できる一方、適切な界面活性剤の選定が難しいという課題があります。以下に、界面活性剤を選ぶときの10のポイントを概説します。ぜひ適切な界面活性剤の選択に役立ててください。

  1. 文献を調査する
    以前に同様の生化学的または 酵素学的特性を有するタンパク質の単離や特性解析に使用された界面活性剤を試してみます。タンパク質の可溶化と分析の両方を行うときは、最適の界面活性剤を見つけるのが難しい場合があります。まずは1種の界面活性剤で可溶化して、その後分析への干渉が最小の他の界面活性剤で置き換える方法を試してみましょう。

  2. 動作温度での界面活性剤の溶解度を考慮する
    例えば、ZWITTERGENT3-14界面活性剤は4℃で水に不溶性である一方、TRITON®X-114界面活性剤は室温で相分離します。

  3. 界面活性剤の除去法を考慮する
    透析を使用するならば、CMCが高い界面活性剤が有効です。イオン交換クロマトグラフィーを使用するならば、非イオン性界面活性剤またはZWITTERGENT界面活性剤が最適です。

  4. 複数の界面活性剤を使う場合もある
    生物学的または酵素学的活性の保存には、複数の界面活性剤が必要な場合があります。その際、界面活性剤の種類だけでなく、その品質もタンパク質活性に影響を及ぼします。いくつかのタンパク質では、酵素活性が保存されるのは非常に狭い界面活性剤濃度範囲に限られ、この範囲より界面活性剤濃度が低いとタンパク質が可溶化せず、特定の濃度を超えると、タンパク質が不活化します。

  5. 下流の工程を考慮する
    例えば、TRITON®X-100界面活性剤は260~280nmの光を吸収する芳香環を含有しているため、タンパク質濃度のUV測定を必要とするプロトコルを使用する場合にはこの界面活性剤を避ける必要があります。同様に、等電点電気泳動法によりタンパク質を分離する場合には、イオン性界面活性剤を避ける必要があります。タンパク質のゲルろ過には、低凝集数の界面活性剤を考慮しましょう。

  6. 界面活性剤の精製度を考慮する
    TRITON®X-100界面活性剤など一部の界面活性剤は一般的に汚染物質として過酸化物を含有しているため、最も精製度の高い界面活性剤を使用する必要があります。これらの酸化汚染物質を最小化すべく精製したCalbiochem®、PROTEIN GRADE、ULTROLグレードまたはシグマ・アルドリッチの界面活性剤がおすすめです。

  7. 汚染物質を考慮する
    DNase、RNaseおよびプロテアーゼなどの汚染物質が問題となる研究には、OmniPur®グレード生化学試薬ラインナップなど分子生物学グレードの界面活性剤がおすすめです。

  8. 毒性か非毒性かを考慮する
    毒性のある界面活性剤よりも非毒性界面活性剤が好まれます。例えば、強心配糖体であるジギトニンは細心の注意を払って取り扱う必要があります。

  9. 特異的な界面活性剤が作用することがある
    例えば、n-ドデシル-β-D-マルトシド(カタログ番号:324355)は、シトクロムCオキシダーゼの単離に最適な界面活性剤であることがわかっています。このように、生物学的に活性型の膜タンパク質の単離に最適の条件を決めるには「試行錯誤」が必要なのです。

  10. 非界面活性剤スルホベタイン(NDSB)を活用する
    分離バッファー中の界面活性剤とともにNDSBを組入れることにより、可溶化した膜タンパク質の収量が劇的に改善される例が観察されています。

界面活性剤は、その特有の性質(疎水性・CMC・凝集数・電荷)を利用して除去することができます。その除去方法は大きく分けて次の5つです。

  • 疎水性吸着
  • ゲルクロマトグラフィー
  • 遠心限外ろ過
  • 透析
  • イオン交換クロマトグラフィー

では、この5つの方法について具体的にみていきましょう。

  • 疎水性吸着

    この方法では、界面活性剤の疎水性樹脂への結合能を利用します。例えば、一定の不溶性疎水性樹脂をバッチ式で使用すると、過量の界面活性剤を除去することができるのです。

    一般的に、界面活性剤を含有する溶液を特定量の樹脂と混合し、混合液を4℃または室温で静置します。その後、遠心分離またはろ過により、界面活性剤が結合した樹脂を除去します。この方法はほとんどの界面活性剤の除去に有効です。
    「タンパク質が樹脂に吸着するのでは?」と気になる場合、樹脂を透析バッファー中に組入れ、タンパク質を透析してください。しかし、樹脂の透析には長い時間がかかる可能性があることを覚えておきましょう。

  • ゲルクロマトグラフィー

    ゲルクロマトグラフィーは分子を大きさの違いによって分離する手法です。界面活性剤の除去においては、タンパク質-界面活性剤ミセル、界面活性剤-脂質ミセルおよび界面活性剤のみから成るミセルのサイズ差を利用します。

    ほとんどの場合、タンパク質-界面活性剤ミセルは初出排除体積中に溶出します。溶出バッファーには、タンパク質の凝集や沈殿を防ぐために、CMC値未満の界面活性剤を含める必要があります。また、実験間で再現性のある結果を得るには、ミセルサイズに影響を及ぼすパラメータ(イオン強度、pHおよび温度)を一定に保つ必要があります。

  • 遠心限外ろ過

    限外ろ過は、半透膜を用いて高分子サンプルと低分子物質を分離する方法です。濃度差を利用した受動拡散の透析法と異なり、圧力をかけるか遠心操作によって強制的に低分子物質の膜通過を行います。

    界面活性剤の除去で気をつけるポイントは、界面活性剤のCMCとミセル化した時の見かけの分子量を把握しておくことと、サンプル中の初期界面活性剤濃度を確認しておくことです。界面活性剤濃度が CMCを超えると、ミセル化した界面活性剤は限外ろ過膜を透過できずに膜上に捕捉されてしまうからです。

    例えば、TRITON®X-100のモノマーは分子量が500~650Daです。この状態のTRITON®X-100は、公称分画分子量(NMWL=Nominal Molecular Weight Limit、公称分画分子量についての詳細はこちらの記事を参照)が10kDaの限外ろ過膜を容易に通過します。しかし、TRITON®X-100は濃度が0.01%(0.2 mM)を超えると約140個のモノマーで構成されるミセルを形成します。限外ろ過時には、このミセルは分子量70~90kDaの球状タンパク質に近い挙動を示します。その結果、ミセル形成したTRITON®X-100は、その90%以上が限外ろ過膜に保持されます。CMCを超えるTRITON®X-100を除去するには、NMWLが100kDa以上の限外ろ過膜を選択する必要があります。

    遠心限外ろ過には、非連続的ダイアフィルトレーションを選択し、標的分子のロスが極めて少ない遠心式のAmiconUltraシリーズを用いることをおすすめします。

  • 透析

    界面活性剤溶液がCMC未満に希釈された場合、ミセルはモノマーに分散します。モノマーの大きさは通常、ミセルの大きさより1桁小さく、透析により容易に除去できます。CMCが高い界面活性剤については、透析が好ましい選択肢となります。

    大規模な希釈が実用的でないならば、胆汁酸塩の添加など他の方法でミセルを分散することが可能です。

  • イオン交換クロマトグラフィー

    タンパク質は全体として電荷をもっています。界面活性剤の除去においては、タンパク質-界面活性剤ミセルとタンパク質を含まない界面活性剤ミセルとの間の電荷の差を利用します。

    非イオン性または両性イオン性界面活性剤を使用する場合、タンパク質含有ミセルがイオン交換樹脂に吸着し、タンパク質を含まないミセルを通過させることができます。吸着したタンパク質を界面活性剤を含まないバッファーで洗浄し、イオン強度またはpHのいずれかを変えることにより溶出します。あるいは、非イオン性界面活性剤をイオン性界面活性剤と置き換えることにより、タンパク質を溶出させることも可能です。

 

以上、界面活性剤を選ぶときのポイントと除去方法について解説しました。界面活性剤は多様な可能性を秘める試薬です。目的にあった適切な界面活性剤を選択して、実験を効率的に進めましょう。