バッファー交換は限外ろ過で効率的に!

バッファー交換は限外ろ過で効率的に!

限外ろ過を用いたバッファー交換なら作業時間を短縮できる

「限外」とは、制限範囲の外、限度以上という意味を表します。英語では「ultra」。「過度の」「極度の」「超」などの意味を表す接頭語です。たとえば「限外顕微鏡」は、普通の顕微鏡では見分けられない微粒子に、特殊な照明装置による光を当て、その散乱光によって存在や運動状態を知る顕微鏡のこと。同様に、今回の記事で取り上げる「限外ろ過」は、1 nm〜0.05 µmの極めて微小な物質を捕捉するための技術です。

1 nm〜0.05 µmで捕捉されるのは、タンパク質、ウィルス、マイコプラズマなどです。糖、アミノ酸、塩は透過します。そのため、ライフサイエンス実験では、ウィルス濃縮、タンパク質濃縮、核酸精製などによく用いられます。

また、脱塩やバッファー交換など、透析法で行う実験手法の代替法としても有用です。

限外ろ過は透析と比較すると処理時間が極めて短いという特長を持ちます。透析チューブを用いると数時間から一晩もの時間がかかる脱塩・バッファー交換が、遠心式限外ろ過デバイスを使えば、作業時間を大きく短縮することができるのです。特に遠心式フィルターユニットによるダイアフィルトレーションは手軽で安価な方法です。

この記事では、限外ろ過を用いたバッファー交換について紹介します。

ダイアフィルトレーションによるバッファー交換

限外ろ過膜を用いた脱塩やバッファー交換を、「ダイアフィルトレーション」と呼びます。ダイアフィルトレーションでは、溶媒は、ろ過と同じペースでろ液側に移動し、溶液中から低分子がコンスタントに除去されます。膜の上には高分子が相対的に濃縮されていくため、高分子精製に用いられます。

ろ過方式には「ノーマルフローろ過(NFF)」と「タンジェンシャルフローろ過(TFF)」と呼ばれるものがあります。NFFは垂直の方向にろ過される通常(ノーマル)のろ過方式で、TFFは液体が膜表面に沿って水平方向(=tangential)にポンプで送られるろ過方式。NFFは「全量ろ過方式」、TFF は、「クロスフローろ過」とも呼ばれていますが、液流の方向を的確に示したNFFやTFFのほうが適切な名称といえるでしょう。

NFFの場合、液体は加圧状態で膜方向に送られます。大きすぎて膜を通過できない粒子状物質は、膜表面またはろ過材のデプス内に蓄積しますが、小さい分子は膜を通過して二次側へと移ります。NFFは、清澄液流の滅菌ろ過、前ろ過産物の清澄化、およびウィルス /タンパク質分離に利用できます。

一方、ラージスケールのろ過系で実施するダイアフィルトレーションでは、TFFを採用した循環式ろ過が一般的です。TFFの場合、液体を膜表面に沿って水平方向にポンプで送りながら加圧して、液体の一部を強制的に膜を通過させてろ液側に送ります。NFFの場合と同様、大きすぎて膜孔を通過できない粒子状物質や巨大分子は一次側に保持されます。ただし、保持された成分が膜表面に溜まることはなく、液の流れによって掃引されます。こうした特長から、TFFは精巧なサイズ分画に理想的な方法といえます。

ダイアフィルトレーションの様式の選び方

ダイアフィルトレーションでは、保持したい高分子と除去したい低分子のサイズに十分な差があることが必要。大まかな目安は、分子量で10倍以上のサイズ差です。そのため、ダイアフィルトレーションでは、ろ過の前後でバッファー組成に変化はなく、変化するのは高分子画分の濃度のみ。たとえば塩濃度100 mMのバッファーは、遠心後も100 mMの塩を含んだままです。

限外ろ過によるダイアフィルトレーションは、サンプルの量や性質に応じて適したろ過様式が異なります。まずプロセスが2種類あり、サンプル量が少ない時は「非連続的ダイアフィルトレーション」、多い時は「連続的ダイアフィルトレーション」を選択します。

非連続的ダイアフィルトレーションの場合、あらかじめ希釈したサンプルを濃縮し、再び希釈・濃縮するプロセスを繰り返します。一方、連続的ダイアフィルトレーションでは置換対象のバッファーを追加してろ過デバイス中の総サンプル量を一定に保ち、バッファーだけをろ過します。

ダイアフィルトレーションの様式と選択の目安を表にしましたので、参考にしてみてください。

  1. サンプル量50 µL~100 mL

    非連続的ダイアフィルトレーションを選択し、標的分子のロスが極めて少ない遠心式のAmicon Ultraシリーズを用いることをおすすめします。この方式では、限外ろ過によって濃縮された高分子を含む溶液を、置換対象のバッファーで希釈後に再び限外ろ過を実施し、バッファー交換を進めます。たとえば、100 mMの塩を含むサンプル4,000 μLを、Amicon Ultraで50 μL(80倍)に濃縮後、水3,950 μLで希釈し、再び限外ろ過を実施して50 μLに濃縮した場合、塩濃度は1/80の1.25 mMとなります。同じ工程を繰り返せば、初期濃度の1/6400(1/80×1/80) 倍である0.015625 mMとなります。以上のような遠心と希釈の繰り返しによって、塩の完全な除去が可能です。

    また、精製とダイアフィルトレーションを同時に実施する実験系のために最適化されているAmicon Proは、遠心と希釈の繰り返し回数を減らすことができるツールです。限外ろ過デバイス上部にファネルが付属した構造になっており、遠心力が働くと上部のバッファーが株の限外ろ過デバイスに補充されるため、連続的ダイアフィルトレーションに近い限外ろ過が実現します。たった一度の遠心ろ過によって、99%以上のバッファーを交換することが可能です。

    以下にAmicon Proの模式図を示します。

  2. サンプル量3 mL~1200 mL
    プロセスはサンプル量が少ない場合は非連続的、多い場合は連続的ダイアフィルトレーションを選択します。加圧式の撹拌式セル8000シリーズがおすすめです。粘性の少ない試料に適しています。

  3. サンプル量1L以上
    連続的ダイアフィルトレーションを選択します。高精度なろ過を実現する循環式のPelliconを用いることをおすすめします。製薬企業の製造用途などでも使われます。

界面活性剤の除去で気をつけるポイント

界面活性剤はタンパク質の抽出や精製過程でよく使われる試薬です。しかし、最終的な検出や解析の段階でアッセイを阻害する場合は、精製サンプルから界面活性剤を除去する必要が生じることがあります。

界面活性剤の除去で気をつけるポイントは、①界面活性剤の臨界ミセル濃度(Critical Micelle Concentration:CMC)とミセル化した時の見かけの分子量を把握しておくことと、②サンプル中の初期界面活性剤濃度を確認しておくことです。界面活性剤濃度が CMCを超えると、ミセル化した界面活性剤は限外ろ過膜を透過できずに膜上に捕捉されてしまうからです。

たとえば、Triton®X-100のモノマーは分子量500~650 Daです。この状態のTritonX-100は、NMWLが 10 kDaの限外ろ過膜を容易に通過します。しかし、TritonX-100は濃度が0.01%(0.2 mM)を超えると約140個のモノマーで構成されるミセルを形成します。限外ろ過時には、このミセルは分子量70~90 kDaの球状タンパク質に近い挙動を示します。ミセル形成したTritonX-100は、その90%以上が限外ろ過膜に保持されます。CMCを超えるTritonX-100を除去するには、NMWLが100 kDa以上の限外ろ過膜を選択する必要があります。

界面活性剤ミセルと目的高分子の分子量に十分な差がない場合や、目的成分よりも界面活性剤ミセルの分子量が大きい場合には、限外ろ過膜による界面活性剤の分離が困難になるため、界面活性剤をモノマー化しなければなりません。ミセル形成後の界面活性剤をモノマー化するためには、CMCの1/10程度の濃度まで希釈することが推奨されます。

遠心型デバイスを使用して界面活性剤を除去する場合は、合計3~5回の限外ろ過を繰り返すことで十分に界面活性剤を除去できます。

以上、限外ろ過による効率的なバッファー交換について紹介しました。ポイントを押さえれば、限外ろ過によるバッファー交換は手軽かつ高効率な極めて有用な技術です。目的にあった適切なツールを選択して、実験を効率的に進めましょう。