臨界ミセル濃度からHLBまで。界面活性剤の用語解説

臨界ミセル濃度からHLBまで。界面活性剤の用語解説

界面活性剤の性能に影響を及ぼす因子

多くの研究室で利用されている界面活性剤。様々な種類が市販されていますが、その性能は、実験に使用する際の濃度やイオン強度、pH、反応温度などによって異なります。

中でも、臨界ミセル濃度(Critical Micelle Concentration: CMC)は界面活性剤の特徴を示す重要な数値です。

この記事では、CMCをはじめ界面活性剤について理解する上で押さえておきたい用語について詳しく解説します。

界面活性剤の特性を示す重要な指標「CMC」

CMCは「モノマーが塊となってミセルを形成する最低濃度」または「モノマーがモノマーとして存在」できる最大化学ポテンシャル(濃度)」と定義することができます。実際には特定の濃度ではなく、狭い濃度範囲にわたってミセル化が起こります。

CMCは界面活性剤の種類によって異なり、また、以下の因子で上昇したり、低下したりすることがわかっています。

<CMCを上昇させる因子>

  • 短いアルキル基
  • 二重結合
  • 化学構造における分岐点(胆汁酸などで起こる)
  • 非イオン性界面活性剤について、温度の上昇

<CMCを低下させる因子>

  • 長いアルキル基
  • イオン性界面活性剤について、対イオン濃度の増加

結晶、ミセル、モノマーが平衡して存在する温度「クラフト点」

図1に示すように、界面活性剤溶液中に結晶、ミセルおよびモノマーが平衡して存在する温度を「クラフト点」と呼びます。

図1 界面活性剤溶液についての温度組成位相図

クラフト点では、界面活性剤溶液は透明になり、界面活性剤の濃度はCMCに達します。一方、非常に低い温度では、界面活性剤は主に不溶性の結晶状態にとどまり、少量の溶解モノマーと平衡状態になります。温度が上昇すると、界面活性剤の濃度がCMCに達するまで、溶液中の界面活性剤モノマーの数は増えていきます。この時点ではミセル形態が主流です。

また、モノマー濃度がCMCに達する温度を「臨界ミセル温度(CMT=Critical Micelle Temperature)」と呼びます。ほとんどの界面活性剤について、クラフト点はCMTと同一です。

界面活性剤水溶液の温度を上昇させたとき白濁し始める温度「曇点」

CMTを上回る特定の温度で、非イオン性界面活性剤は不透明な濁った溶液となり、界面活性剤を豊富に含む層と水溶性の層とに分離します。この温度を「曇点」と呼びます。TRITON®X-100界面活性剤の曇点は64℃、TRITON®X-114界面活性剤の曇点は約22℃です。

曇点が低いTRITON®X-114は、膜タンパク質の抽出に利用できます。最初に膜タンパク質を0°Cで可溶化し溶液を約30℃に温めると相分離が起こり、膜貫通タンパク質が界面活性剤を豊富に含む層に移動します。その後、遠心分離により膜タンパク質を分離させることができます。

単一のミセル中に含まれるモノマーの界面活性剤分子数「凝集数」

凝集数はミセルの分子量をモノマーの分子量で割って算出することができます。ミセルの分子量は、ゲルろ過法、光散乱法、沈降平衡法および小角X線散乱法など種々の測定法から得られます。

胆汁酸塩が形成するミセルは凝集数が低い一方、TRITON®が形成するミセルは高い凝集数を示します。ミセルサイズと同様、凝集数もイオン強度の影響を受けます。

界面活性剤の水及び油への親和性の程度を表す値「親水性-親油性バランス(HLB)」

HLB値 (Hydrophilic Lipophilic Balance) は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなります。例えば、D-アラニンカルボキシペプチダーゼの溶解度はHLB数と良く相関する一方、CMCや表面張力とは相関しません。HLB数が12~14の界面活性剤が最も有効でした(Umbreit and Strominger, 1973)。この範囲内でHLB値が最も高い界面活性剤が、外因性タンパク質の可溶化に好まれています。

HLBは付加的であることに注意が必要です。例えば、HLB値が異なる2つの界面活性剤AとBを使用する場合、以下に示す式が適用されます。

HLB(A+B)=(Ax+By)/ x+y

ここで、xおよびyは各界面活性剤の比率を表します。酵素活性に影響を及ぼす他の因子が存在しないのであれば、上述の式を使い、2種の界面活性剤を混合して望ましいHLB値を実現することも可能です。

以上、界面活性剤関連用語について解説しました。界面活性剤は細胞溶解や膜タンパク質の抽出に有効ですが、抽出後のタンパク質を用いる実験では界面活性剤を除去しなければならない場合があります。この記事で紹介した用語を理解しておくと、実験条件に応じて適切な界面活性剤を選択できるようになるでしょう。

HLB値についての参考文献:
Umbreit, JN and Strominger, JL. 1973. Proc. Natl. Acad. Sci. USA; vol. 70:2997.