抗体試薬を長持ちさせるコツ【保存と取り扱いのポイント】
正しい保存と取り扱いで長持ち
抗体の機能を維持し、寿命を長く保つためには、適切な保存や取り扱いが非常に重要です。適切に保存された抗体は、時間が経ってもほとんど分解されないため、数ヵ月、場合によっては数年間にわたって使用することができます。一方、不適切に保存された抗体は、数時間単位で変性してしまうこともあります。
この記事では、抗体やその他の生物学的試薬の保存および取り扱いに際して、注意すべきことをまとめました。
抗体保存の基本的な注意点
抗体を保存し、取り扱う際には、以下の点を考慮しましょう。
- 最大限の反応性を保つため、試薬は製造業者の指示に従い保存しましょう。(例:2〜8℃で保存とされている場合には、室温で保管することは避けましょう)
- 抗体は密閉された容器に入れ、霜取り不要ではない冷蔵庫または冷凍庫で保存しましょう。このとき、組織固定液や架橋試薬とは離しておきましょう。
- 抗体は、比較的安定したタンパク質で、軽度の変性条件には耐性があります。ほとんどの抗体は、製造業者の推奨に従い適切に保存した場合、数年間にわたり安定です。
- ほとんどの場合、抗体は-20℃で結合能を損なわずに保存が可能です。
- 抗体溶液は、繰り返し凍結・融解しないようにしましょう。これは、凍結・融解の繰り返しによって抗体分子の凝集が起こり、活性が損なわれる可能性があるためです。凍結・融解の繰り返しを避ける、または最小にするため、抗体を霜取り不要の冷凍庫で保管することは避けましょう。
- 未希釈の抗体は、凍結・融解の繰り返しを最小にするため、-20℃で保存する前に必ず分注しましょう。抗体を濃縮された状態で保存すると、分解が防止または最小化されます。グリセリンなどの凍害保護物質を、最終濃度が50%になるよう抗体溶液に加えると、凍結・融解によるダメージを防ぐことができます。グリセリンを含有する抗体は、-80℃で保存しないようにしましょう。
- BSA(1% w/v)などの安定化タンパク質が添加されていない限り、作業のために希釈した抗体を長期間保存すべきではありません。希釈した抗体を長期間保存することは避けましょう。
- 保存中に起こる主な問題のひとつに、細菌または真菌によるコンタミネーションがあります。抗体を2〜8℃で2〜3日以上保存する場合には、ろ過滅菌や、0.05%アジ化ナトリウムまたは0.1%チメロサールなどの静菌剤/保存剤を添加することが推奨されています。
- アジ化ナトリウムは、様々な生物学的アッセイや一部の結合方法に干渉する恐れがあります。したがってこのようなアプリケーションでは、アジ化ナトリウムを、遠心ダイアフィルトレーション、透析、またはゲルろ過のいずれかによって除去するか、アジ化物を含有しない抗体を用いましょう。なお、アジ化ナトリウムは有毒なので注意が必要です。すべての実験用試薬と同様、取扱いに関する注意については、化学物質等安全データシート(MSDS)を確認してください。
- 一般的に、酵素標識した抗体は酵素活性や結合能の損失を防止するため凍結させません。この様な抗体は4℃で保存しましょう。
- 蛍光標識した抗体は光褪色しやすいため、暗色のバイアルに入れ、遮光して保存しましょう。
- 長期間保存した場合、一部の抗体溶液では不溶性の脂質成分が生じる場合があります。10,000 x gで急速に遠心分離すると、沈殿物を除去することができます。
標識抗体の保存について
シグナル増幅や検出のために、精製された抗体をしばしば標識して使用することがあります。標識には、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)、ローダミン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、またはビオチンなどの酵素、蛍光プローブ、またはハプテンが使用されます。
標識抗体の種類によって安定性が異なり、長期間にわたり最大の活性を保持するために必要なバッファーや保存条件も異なります。以下に標準的な抗体バッファーおよび保存条件(メルク社製の精製済みの抗体および標識抗体の場合)を示します。
これはあくまで全般的なガイドラインであり、特定の抗体の保存条件については必ずその抗体に添付されたデータシートを参照する必要があるので注意しましょう。
<抗体バッファー>
- アフィニティー精製されたポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体
0.02 Mリン酸バッファー、0.25 M NaCl、0.1% NaN3、pH 7.6
必要に応じて、NaN3を含有しない同一のバッファーを用いることもできます。 - FITC標識体
0.02 Mリン酸バッファー、0.25 M NaCl、15 mg/mL BSA、0.1% NaN3、pH 7.6 - HRP標識体
0.01 M PBS、15 mg/mL BSA、0.01%チメロサール、pH 7.1 - アルカリホスファターゼ標識体
0.05 M Tris、0.1 M NaCl、0.001 M MgCl2、15 mg/mL BSA、0.1% NaN3、pH 8.0 - ビオチン標識体
0.01 M PBS、15 mg/mL BSA、0.1% NaN3、pH 7.1
<標準的な抗体濃度>
精製された標識モノクローナル抗体:1 mg/mL
アフィニティー精製されたポリクローナル抗体:2 mg/mL
FITC標識ポリクローナル抗体:2 mg/mL
HRP/アルカリホスファターゼ標識ポリクローナル抗体:1 mg/mL
<抗体の保存条件>
アフィニティー精製されたポリクローナル抗体:4〜8℃
蛍光標識抗体(暗所で保存):4〜8℃
酵素標識抗体(凍結禁止):4〜8℃
ハプテン標識抗体(凍結禁止):4〜8℃
以上、抗体保存の基本的な注意点と標識抗体の保存方法について解説しました。抗体の変性による実験結果の不備を避けるためにも、予算を節約するためにも、適切な保存・取り扱い方法を実践するようにしましょう。
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この記事以外にも抗体そのものの理論や選び方が分かる記事あります。
理論
- 【研究ツールとしての抗体技術】抗原とエピトープ
- 抗体の仕組みと種類を理解しよう
- 抗原と抗体の相互作用とは【抗体技術の基本原理】
- モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の作製と特徴
- 用途に合わせて使い分け。抗体のフォーマットと精製方法
実用
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