【初めての論文投稿⑥】本文の書き方のポイント
英語で論文を書く作業は、慣れないうちはなかなかハードです。何から手を付ければいいのかわからず途方に暮れる人もいるかもしれません。しかし、論文の設計図である「アウトライン」とメインのメッセージを伝えるための「図表」さえ準備できていれば、後はそれに従って書いていくだけです。実際に執筆してみると計画通りにいかないことも出てきますが、そのときは最初の設計図を見直しながら進めましょう。
完成した論文は「イントロダクション」「実験方法」「結果」「ディスカッション」の順に並びますが、執筆はこの順番にこだわる必要はありません。
初心者が比較的着手しやすいのは、すでに書くことが決まっている「実験方法」や「結果」のセクションかもしれません。「ディスカッション」は「結果」に沿って書いていけるため、その次に書くことが多いでしょう。慣れるまでは、時間のかかる「イントロダクション」を最後に執筆するのがおすすめです。
それでもなかなか筆が進まないという人は、細かいことを気にせず、書けるところから書き始めましょう。最初は真っ白な画面を埋めていくだけのつもりで書いても構いません。これから何度も直していくので、最初から完璧である必要はないでしょう。
それでは、具体的な論文の本文の書き方について、上記に挙げたおすすめの順序で説明していきます。
実験方法
実験方法は、たとえば「実験動物」「試薬」「統計解析」のように、妥当なセクションに分けて書いていきます。研究分野によってその設定は異なりますが、いずれの場合もわかりやすく簡潔に書くことが重要です。できれば結果のセクションに合わせた順で書いていくとよいでしょう。もちろん、特に最初に言いたいということがあれば、順番が前後しても構いません。
方法と結果の記述は正しく対応している必要があります。試行錯誤しているうちに結果で言及していない実験方法が残ってしまったり、逆に結果が示されているのに方法が書かれていなかったりすることがよく起こります。結果を書き終えたら、改めて方法の記述を見直しましょう。
実験方法には必要な事項をすべて書き出しますが、だらだらと書くのは禁物です。推敲時に、わかりやすく簡潔な表現になるようブラッシュアップしていきましょう。
ちなみにジャーナルが規定している単語数制限を超えてしまった場合、削除して分量を調整する必要があります。実験方法のパートは調整先の第一候補となることが多いですが、この作業は完成後に行えばいいので、初稿の段階ではすべて漏れのないように書くことを心がけてください。
そのほか、以下のことにも注意しましょう。
- 論文を読んだほかの人が実験を再現できるよう、試薬や機械の製造元も書く。
- ジャーナルの投稿規定をしっかり読み、必要な倫理規定を書く。
- 略語は初出時に必ず正式名を記す。
結果
結果のセクションを書くためには、論文全体のメッセージをしっかりと精査することが大切です。どの結果を載せて、何を載せないか。何を強調するべきか。どの結果をどの順番で述べたらわかりやすいか。これらのことはアウトラインを作成するときにすでに考えていますが、本文を書く段階でも改めて検討していきます。
たとえば、データがあまりにも多すぎる場合や、主題から少し逸れたデータがある場合は、シンプルに整理が可能か検討してみましょう。場合によっては、無理に組み入れるよりも、不採用にしたデータと他のデータを合わせて別の論文をもう1本書いたほうがよいこともあります。
これに加え、「明快でない主張」「矛盾がある書き方」「誇張した表現」などは、レビューワーから指摘を受けやすいので気をつけましょう。クリアカットにメッセージを示せない実験については、論文での使用を見送る決断も必要です。
ディスカッション
ディスカッションでは、提示した複数の結果をつなげて一貫したストーリーを構成していきます。まずは、アウトライン作成時に考えておいた以下の内容を詳しく述べていきましょう。
- 結果から何が言えるのか
- 研究の意義をどう述べるか
- 研究の限界(Limitations)
- 最初の一文
- 最後のまとめ
このとき、自分たちの主張を述べるだけでなく、ほかの研究を引用して比較・考察することで、研究の意義をさらに強調することができます。ただし、引用するときは、デザインが全く異なる実験データなど、本来比較できないものを並べて論じないように注意しましょう。
また、ディスカッションは論文の最後を締めくくる重要なセクションです。ここでメッセージが伝わらなければ、論文全体がぼやけたものになってしまいます。ディスカッションの内容を印象付ける方法はいくつかありますが、そのひとつが最初の文を徹底して洗練させることです。論文でもっとも伝えたいことをディスカッションの冒頭に書くと、読む人にメッセージを強く印象づけることができます。
もうひとつは、少しずつ小出しに説明して証拠を積み重ねていき、最後にメッセージを提示する方法です。ぜひ、いろいろ工夫してみてください。
イントロダクション
イントロダクションでは、アウトライン作成時に簡単に考えておいた以下のことを、詳しく書いていきます。
- 研究の目的
- 研究対象の特徴・背景
- 従来の研究との比較
- 研究の新規性
- 研究の重要性
どの項目にどのくらい言及するかはケースバイケースです。たとえば、今までに発表されていない動物モデルについて報告する論文の場合は、どういうモデルなのかを詳しく書かないと読む人に研究内容を理解してもらえません。逆に、すでに一般的に知られているモデルを使っている場合、動物モデルについては長々と説明する必要はありません。
イントロダクションは、もっとも脱線しやすいセクションとも言えるでしょう。何度か推敲を重ね、必要不可欠なことが簡潔に書いてあるかどうかを厳しくチェックしてください。
意義を説明するために必要な前提知識も、記しておく必要があります。たとえば、広く使われている薬Xに重篤な副作用があった場合、新しく開発した薬Yに副作用がなければ、それは意義深い報告です。ですが、薬Xの副作用の話をせずに、薬Yには副作用がなかったと書いた場合は、研究の意義が充分に伝わりません。
自分の研究の意義について伝えるのはなかなか難しいものです。意義を語る切り口はさまざまです。世の技術発展にどれだけ貢献するかという応用の観点から書く人もいますし、解明すること自体が大切だと書く場合もあります。自分の研究の中で何が一番「売り」なのかは、ひとりで考えるのではなく、指導教員やほかの研究室の人と話してみると見えてくるものがあるでしょう。
以上、論文の本文の書き方のポイントについて紹介しました。慣れないうちはとても時間がかかります。しかし、時間がかかってもコツコツやれば着実に進んでいきます。ここでのアドバイスを参考に、まずは手をつけやすいセクションから取りかかってみてください。
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