【初めての論文投稿④】アウトラインの作り方
論文の質を決めるアウトライン作り
論文の執筆にとりかかる際、必ず行ってほしいのが「アウトライン」の作成です。アウトラインはいわば論文の設計図。この設計図作りの段階で方針や主張を固め、掲載するデータを取捨選択します。論文のメッセージをしっかり伝える構成にするためにも、この作業は欠かせません。
指導教員や共同研究者たちと議論をするときは、作成したアウトラインを叩き台に行えばスムーズです。アウトラインがあれば自分の考えも整理した形で伝えられます。その結果、論理の矛盾やブラッシュアップの方策など、論文投稿の初心者が見落としがちな観点から、さまざまなアドバイスが得られるでしょう。
以下、アウトラインの作り方について詳しく解説していきます。
アウトラインはパワーポイントで作成する
アウトラインはパワーポイントで作成するとよいでしょう。ワードファイルで作ることはおすすめしません。文章が長くなってしまうからです。設計図ですから、シンプルでわかりやすくを最優先に。これは、ラボミーティングでの進捗報告や学会の口頭発表に近い作業です。
また、ネイティブレベルでもないかぎり、いきなり英語で書き始めるのは避けましょう。まずは慣れた日本語でメッセージをはっきりさせ、論文の内容自体を洗練させることに注力します。英語がネイティブの研究者たちも、アウトライン作りの段階でかなり時間をかけてディスカッションを行っています。ネイティブと同じフィールドで戦うためには、内容をしっかり検討することが必要不可欠なのです。
アウトラインで書くべきことは、論文と同じく以下のような項目です。
- 仮タイトル
- イントロダクション
- 研究方法
- 結果
- ディスカッション
それでは、これらを個別に見ていきましょう。
アウトラインで書くべきこと① 仮タイトル
タイトルはその論文で伝えたいメッセージそのものです。まだ形もできていない状態でタイトルを考えるのは難しいと思いますが、仮タイトルでいいので付けてみることをおすすめします。これにより伝えたいことが自分の中ではっきりし、アウトライン作りの方向性が見えてきます。
「論文はまず日本語で書きましょう」と前述しましたが、タイトルだけは英文で書くことをおすすめします。字数やキーワードの入れ方を検討するには英語の方が都合が良いからです。できれば、投稿したいジャーナルのAims and Scopeを踏まえて考えたいところです。自身の研究と近い内容がどんなタイトルで掲載されているのかを見ておくと参考になります。どういう観点でどのような主張をすべきかが、いっそうクリアになるはずです。投稿規定にタイトルの字数制限や内容の規定があるかどうかも、アウトラインの作成時に確認しておきましょう。
アウトラインで書くべきこと② イントロダクション
イントロダクションは、自分の研究結果を説明するだけのセクションではありません。読む人の興味を喚起し、研究内容に納得してもらうための大切なパートです。どういう戦略でどのようにアピールすればよいかをしっかり考えて作成しましょう。読者を惹きつける論文になるかどうかは、ここで決まります。
たとえば、「新たな治療薬Aの効果を述べる論文」の場合、以下のようなことを書き出します。
- 本研究の目的
- 治療薬Aの特徴
- 従来の治療薬に対するAの優位性(効果、投薬方法、副作用、対応疾患など)
- 本研究の新規性
- 本研究の重要性
長く書く必要はなく、パワーポイント1枚におさまる箇条書きで充分です。しかし、いざ書き出そうと思うとすぐに言葉は出てこないはずです。逆にだらだらと書いてしまう場合は、頭の中で考えがまとまっていない可能性が高いでしょう。
この作業を通して自分の研究の意義を客観的に見つめることができます。書き終えたら、今回の研究内容に無関係のことが含まれていないか、また飛躍した結論になっていないかなどを見直しましょう。
アウトラインで書くべきこと③ 方法
実験方法は、論文執筆初心者にとって取りかかりやすい項目のひとつかもしれません。何をしたか、手法を箇条書きでまとめましょう。
ただし、これまで実験したすべてのデータを載せるわけではなく、論文のメッセージに合わせて取捨選択していきます。よく起こりがちなのが、結果に載せていない実験方法が残っていること。アウトラインの段階でしっかりと見直し、両方を対応させるようにしましょう。
また、ほかの人が実験内容を理解しやすいように、実験デザインをわかりやすく示した図を作っておくとよいでしょう。たとえば、動物実験なら何日目にどんな実験をして何を投与するのかを図で表せば、実験デザインは一目瞭然です。指導教員とのディスカッションにも役に立ちますし、文章化するときの書き漏れやミスも防げます。
さらに、その図はブラッシュアップして論文に掲載することにもなるかもしれません。特に多くの分野からの投稿があるジャーナルの場合、わかりやすい試験デザインの図の有無で、エディターの印象が変わることが多々あります。アウトラインの段階で作っておいて損はないでしょう。
アウトラインで書くべきこと④ 結果
結果はまず、グラフや図をパワーポイントに貼ってまとめていきます。プログレスや学会の口頭発表の準備に似た作業です。ただし、これまで行った実験の結果をすべて貼ってはいけません。これから書こうとしている論文のメッセージを考え、どの結果を載せるかを取捨選択してください。
載せるべき結果を選んだら、どの順番で提示していくのかも考えましょう。また、グラフを貼って終わりにするのではなく、その結果から何が言いたいのかを一緒に書き添えておくことも重要です。これにより、ディスカッションが行いやすくなるだけでなく、効果的な構成かどうかの判断もしやすくなります。併せて解析方法についても記しておくと議論がよりクリアになります。指導教員と何を話し合いたいかもメモしておくとよいでしょう。
もし掲載すべきかどうか迷う結果があれば、相談のために貼り付けておいてもよいでしょう。ただし、「これは使わない」などのメモを添え、現状の自分の考えをはっきりさせておくことが重要です。すべてのデータを全部貼りつけて「先生、どうしましょう?」と相談しないように。自分の論文なので責任をもって考えましょう。
アウトラインで書くべきこと⑤ ディスカッション
ディスカッションのアウトラインを書く上で考えていくのは次のような内容です。
- 結果から何が言えるのか
- 研究の意義をどういうふうに述べていくか
- どういう戦法で、この研究が有意義であることを述べるか(何を強調するかなど)
- 研究の限界(Limitations)
- 最初の一文
- 最後のまとめ
これらも箇条書きで書いていくとよいでしょう。最初から完璧なものを目指す必要はありません。自分の考えを整理しておくことで指導教員と議論しやすくなります。また、指導教員も論理の矛盾や足りない点を見つけやすくなり、アドバイスをスムーズに行えます。
「研究の限界」(Limitations)については実際の論文にどの程度記すかは後で考えるにしても、アウトラインの時点でしっかりと把握しておく必要があります。データの選択の見直しや、ディスカッションの組み立てにも影響するからです。
ディスカッションの最初の一文は、読者に最も伝えたいメッセージです。タイトルと同様に大切にしたいところ。アウトラインのときに考えておくと、論文の全体像が見えてきます。執筆過程で変わっていくと思いますが、戦略的に研究の意義を伝えていこうという意識をもつためにも、ぜひアウトラインの段階でインパクトがある一文を考えてみてください。
また、最後のまとめも重要です。力尽きて決まり文句を添えただけになってしまわないよう、しっかり考えましょう。論文全体から何を言いたいのかを自分なりに考えて、書き出しておくとよいでしょう。
アウトライン作りは1回では終わらない
アウトラインを作成できたら、それをもとに指導教員に相談をしましょう。この時点で自分の言いたいことを理解してもらえなければ、アウトラインの作り直しです。また、たとえ理解してもらえても、さまざまな指摘を受けることでしょう。
たとえば次のような指摘が考えられます。
- アイデアは面白いが無理がある
- この主張をするには根拠が足りない
- データが多すぎて主張がわかりづらい
- この点をもっとアピールしたほうがよい
- 考察が不十分
厳しい指摘を受けても、落ちこんでいる暇はありません。論文をブラッシュアップするチャンスだと捉えましょう。何度か試行錯誤をしていくうちに、メッセージがはっきりと伝わるアウトラインが完成していくはずです。アウトラインができれば、いよいよ論文執筆。アウトラインを作成したおかげで考えがしっかりまとまってスムーズに取りかかれるでしょう。
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