【初めての論文投稿②】論文執筆前の準備、まずはここから始めよう!
論文執筆で最初に行うべきこととは
論文執筆は時間も手間もかかる大変な作業です。「そろそろ始めなくては」と思っていても、その長大な道のりを想像するだけで取りかかるのが億劫になってしまいます。また、初心者の時期は何から手をつけていいのかわからず、途方に暮れてしまうこともあるでしょう。
そんなときは、まず、日々の研究生活で少しずつ準備をしていくことから始めてみましょう。というのも、メッセージがきちんと伝わる論文を書くためには、実験データの示し方や議論の運び方などを、事前にしっかり考えて準備する必要があるからです。そのためには、いきなり英語で本文を書くのではなく、まずは日本語で伝えたい内容を取捨選択し、論文の骨格(アウトライン)を作るとよいでしょう。
この記事では、以下にアウトラインを作る前段階の準備について紹介していきます。毎日の研究生活の中で、論文執筆のためにできることはたくさんあります。ぜひ、参考にしてみてください。
論文執筆を意識してデータ整理をしよう
論文準備の第一歩としておすすめなのは、データ整理です。集めたデータを数値化し、平均値や傾向などを見ていきます。この時点では、複雑な統計を用いたり、見栄えのいい図表を作ったりする必要はありません。自分の頭を整理し、論文として発表できるかどうかを指導教員と議論するため、簡単なグラフなどにまとめるとよいでしょう。
学会やラボミーティングで定期的に発表をしている人は、その都度データ整理を行っているので、論文執筆にスムーズにとりかかれるはずです。一方、そうした機会が少なく、データが溜まりがちな人は、数ヶ月に1度はデータ整理をする時間を設けましょう。
ついつい先延ばしにしてしまうという人は、定期的に学会発表をスケジュールに組み込み、強制的に自分に「締切」を与えるとよいかもしれません。
集中して実験をしていると、少しでも多くのデータを取りたくなります。夜遅くまで粘って実験をすると、くたくたになってデータ整理まで手が回らなくなるもの。そうして「もっと良い結果が出てから」「データがもっと集まってから」と、どんどんデータ整理が後回しになってしまいます。
「期限を意識すること」で、これは解消します。いつまでに論文を受理されたいのかを考えるのです。次の進路を考える時期までか、学振に応募する時期か。論文を完成させてから受理されるまで数ヶ月かかるとして、執筆期間がどのくらいで、準備をいつから始めるべきなのか。このように期限を意識すれば、現在どの段階まで進めておくべきかがわかります。まだまだ先だと思っていたけれど、今すぐ取りかからないと間に合わないということがわかれば、危機感が湧き、言い訳も吹き飛んでしまいます。
まだはっきりとした結果が見えていない場合も、データを整理すれば足りないものや進むべき方向が見えてくるはずです。新しい発見もあるかもしれません。実験をすること自体が目的にならないよう、ゴールを見据えて、日々の研究計画を立てていきましょう。
文献収集は一日にして成らず
論文執筆の準備段階からやっておきたいことは、研究に関連する文献の収集です。普段から抄読会や実験方法を調べる中でさまざまな論文に触れていると思いますが、論文執筆のためにはさらに範囲を広げて論文を読んでおく必要が出てきます。
たとえばアルツハイマー病の原因物質と考えられている「アミロイドβ」が、「受容体X」を介して神経毒性を引き起こしているという仮説を立てて研究をしていたとします。普段は、実験に直接関係する情報(たとえば受容体Xの阻害剤の種類やアミロイドβと受容体Xの反応を調べた論文など)だけをチェックしていれば事足ります。しかし、論文でIntroductionやDiscussionを書くためには、実際に引用するかどうかは別として、以下のような内容の文献も読んでおく必要があるでしょう。
- アルツハイマー病はどういう病気か
- アルツハイマー病治療の研究の現状
- アルツハイマー病と受容体Xの関係について調べている他の研究
- アルツハイマー病とアミロイドβの関係について調べている他の研究
- 受容体Xの生理学的作用
これはほんの一例ですが、1本の論文を書くために必要な文献の量は膨大なため、直前になって慌てても間に合いません。日頃から意識して読んでおくことが重要です。また、研究を始めたばかりの頃は実験手法をマスターするのに精一杯で、研究の意義や歴史的背景などについて理解が不十分です。論文執筆を意識しながら文献を探すことは、執筆時に役に立つだけでなく、自身のステップアップにもつながるでしょう。
集める文献の質に注意
ただし、文献なら何でもよいわけではありません。キーワードで検索をすればいくらでも関連論文は出てきますが、その全部を読むのは至難の技です。どの雑誌に掲載されているのか、査読付き論文なのか、引用回数はどのくらいなのかなどをしっかりとチェックし、信頼度や注目度の高い論文を選びましょう。
また、自分が投稿したいジャーナルをイメージしながら論文を集めることもおすすめです。全体の長さや論調、figureの数、よく載っている研究手法など、ジャーナルによって掲載論文の傾向はさまざまです。自分の研究はどこに掲載されそうか、その場合はどのように書けばいいのかなどを考えながら見ていくと、執筆の具体的なイメージがつかめます。
集めた論文は、わかりやすいファイル名をつけて保存しましょう。「EndNote」などの文献管理ソフトに入力しておくと執筆時に便利ですが、準備段階ではそこまでする必要はありません。PDFファイルでパソコンの中のフォルダに保存したり、ブックマークをつけたり、印刷してファイリングしたりなど、自分が使いやすいように整理しておきましょう。文献整理の方法は人によってさまざまです。身近な先輩にどうやって整理しているのかを聞いてみるのもいいかもしれません。
いつどのタイミングで指導教員に相談するのか
大学院生と指導教員の関係性は研究室によって事情がまったく異なります。プロジェクトのリーダーが若手の先生でコンパクトなチームで一緒に実験をしている場合は、気軽に相談できることが多いようです。一方、人数の多い大規模なラボで指導教員が教授の場合は、数ヶ月に一度回ってくるラボミーティングの発表でしか相談しづらいかもしれません。
いずれにしても、指導教員と相談しないことには論文を書くことはできません。やはりこの場合も、論文を受理されたいタイミングから逆算して、いつ相談すべきかを把握することから始めるとよいでしょう。そうすれば、ラボミーティングでしか相談できない場合も、ただ現状を報告するだけでなく、論文執筆を見据えた効果的な発表ができるはずです。
指導教員によって、こまめにチェックしたいのか、データがほぼまとまってから見たいのか、タイプは分かれます。しかし、1回の相談だけで論文にまとめられるケースは稀で、通常は何度もミーティングを重ねる必要があります。いつまでに論文を受理されたいのかをしっかりと伝え、そのためにはどのくらいのペースで相談をすればいいのかを話し合っておくとよいでしょう。
指導教員に相談するときに気をつけたいこと
忙しい教員とスムーズに打ち合わせするためには、以下のようなことに気をつけましょう。
- さっと見て把握できるようにデータをわかりやすく整理しておく
- 求められたら生データやラボノートも見せられるようにしておく
- 必要があればデータ画像なども見せられるようにしておく
- 相談したいことや自分なりの考えをまとめて伝えられるようにしておく
- できればパワーポイントで簡単なプレゼン原稿を作るかプリントアウトしておく
完璧なデータがそろっていなくても、このような準備をしっかりと行って臨めば指導教員もアドバイスがしやすいはずです。経験豊富な指導教員が見れば、ネガティブデータだと思っていたデータも、実は興味深いデータかもしれません。また行き詰まっていた実験についても、もっと粘るべきなのか、他の道を探った方がいいのか、話し合うことで道が開けるはずです。
ただし、せっかく集めたデータを使えないと言われてもがっかりしてはいけません。多くの場合、論文にできるのは実験で得られたデータのほんの一部だけだからです。だからこそ、ただがむしゃらにひとりで実験をし続けるのではなく、指導教員とタッグを組んで結果を吟味し、論文の糸口をつかみだす必要があるのです。
以上、論文執筆前の準備について紹介しました。毎日の積み重ねが論文執筆につながっていきます。この記事の内容を参考に、さっそく準備を始めましょう。
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