【初めての論文投稿⑤】伝わる図表の作り方
図表の質が論文掲載を左右する
図表は、論文において全体のメッセージを伝えるために欠かすことのできない要素のひとつです。単に実験データを示すだけのものではありません。
図表の出来次第で、論文の説得力は大きく変わります。当然、レフリーやエディターの判断にも影響します。特にトップジャーナルに投稿するときは、一目でわかる図表の存在が不可欠でしょう。異なる分野の研究者が多く読むジャーナルにおいて、文章や数値だけではなかなか主張が伝わらないからです。この記事では、伝わる図表を作るためのポイントを解説します。ぜひ論文執筆に役立ててください。
「何を主張したいか」で図表のフォーマットは変わる
実験で得られたデータを図表として掲載するときには、さまざまな表現方法が考えられます。まずは「図」にするのか「表」にするのかをじっくり検討しましょう。図はデータを視覚的に加工することでメッセージを伝えます。一方の表は複数のデータを示すのに適しています。
図の採用を決定した場合、次に考えなければいけないのがそのフォーマットです。棒グラフがいいのか、散布図がいいのか。「主張したいこと」を明確にしておき、ベストな形式を選択しましょう。
また、図表作成にあたっては、まずは論文のアウトラインを作り、どのような図をいくつ掲載するかを決めることも大切です(「【初めての論文投稿④】アウトラインの作り方」を参照)。その上で、メッセージが直感的に伝わる図表になっているかどうか、もっと工夫の余地がないかなど、以下の観点から徹底的に考えてみてください。
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重要な主張は表ではなく図にする
たとえば、薬Aをアルツハイマーのモデルラットに投与し、投与前と投与後で脳内のアミロイドβ(以下、Aβ)レベルが有意に減少したという架空の実験を設定します。このようなシンプルな結果は、数値を示して文章で書くこともできますし、以下のように他の結果と一緒に表で示すこともできるでしょう。
しかし、この結果が論文のメインの主張となる場合は、図で示すことをおすすめします。2本の棒グラフで示せば一目で結果が分かり、メッセージを強調できるからです。
何を際立たせたいかを考えることが、わかりやすい図表作りにつながります。「主張したいポイント」が曖昧な場合は改めてアウトラインの作成に戻り、「伝えたいこと」を磨き上げるところから取り組んでみてください。
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色・形・大きさにも配慮を
複数の項目を同時に載せる散布図。直感的に理解してもらうためには、マーカーの形や大きさも重要です。目立たせたい項目のサイズを少し大きくしたり、面積の大きい形にしたりするなど、工夫の余地はたくさんあります。
色の選び方も重要です。例えば、特に伝えたい項目は目立つ色にします。視覚的なインパクトを与えることで、「強調」の効果が得られるでしょう。一方、同じグループの項目は同系色や同じような形で表現します。複数の図表で同じ項目が出てくる場合は、形も色も統一したものを使うようにしましょう。
また、表現したい対象のイメージに合わせた色を選ぶと、読み手に親切です。たとえば、「白血球の数」を示すのに赤色を使うのは、混乱を招くので避けたほうが無難でしょう。
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縦軸・横軸は最適なスケールで
折れ線グラフの場合、縦軸と横軸の最大値をどの値にするかでグラフの見た目の印象は大きく変わります。「変化がない」ことを主張したいのに、上限を小さい値に設定してしまうと、でこぼこしたグラフになり「変化がある」ように見えてしまいます。
あまりにも不自然なスケールを設定して意図的な印象操作をすることは許されませんが、メッセージが伝わるかどうかという観点で、縦軸・横軸のスケールを見直してみてください。
図表のタイトルとFigure Legend(図表の説明)の書き方
良い論文では、図表のタイトルを見るだけで全体のメッセージの概要をつかむことができます。
とりわけ最近は、図のタイトルに関して「結果」がわかるように書くことを推奨するジャーナルが増えてきているので、頭の片隅においておきたいところ。例えば「薬Aがラットに及ぼす効果」ではなく、「薬Aはラットの運動量を増加させた」といったタイトルが好まれます。
もちろんジャーナルによって傾向は変わりますので、それぞれの投稿規定や掲載されている論文を見て、図のタイトルの書き方を決めましょう。
なお、もし一言で図の内容を説明できない場合は、図自体を見直す必要があるかもしれません。さまざまな要素が混在している場合、図を2つに分けることも検討しましょう。
Figure Legendに長々と説明を書くのは避けたいところです。項目名や投与タイミングなど図中に示せるものは、レイアウトがうるさくならない範囲で図の中に入れておきます。また、当然のことですが、Legendを書くときは、Resultと同じ文章の繰り返しにならないように気をつけましょう。
表におけるレイアウトの重要性
表のレイアウトは、図に比べるとシンプルな場合が多いです。そのため、工夫の余地がないように思われがちですが、実際には「縦列と横列に何を置くか」「どのデータをグループで括るか」など考えるポイントは数多くあります。表も工夫次第で印象ががらりと変わります。
下に例として架空の実験の表を示しました。
通常、英語では表の縦列は1項目しか載せられませんが、この表では縦列に期間と3種類のパラメータが表示してあるため、縦列が2行になってしまいました。
さて、どのように改善すればよいでしょうか。
主張したい内容によって改善方法はいくつかありますが、たとえば次のようにday1とday7を横列に移動させると、縦列は1行で済みます。
どう並べればわかりやすい表になるか、最初のうちはなかなかコツがつかめないものです。紙に書き出したり、他の論文を参考にしたり、アウトライン作成時に決めたメッセージが表現できるまで、試行錯誤してみましょう。
実験デザインを説明する図を作る
実験デザインを、文章だけで他の研究者に伝えるのは至難の業です。特に「複数の実験群が存在する」「薬物投与のタイミングが複雑」「一般的な実験と一部だけデザインが異なる」などのケースは表現に工夫が必要です。このようなときは無理に文章で説明しようとするのではなく、図を作りましょう。実験デザインが図示してあれば、論文を読み進めるのが容易になり、理解が大いに深まります。
なお、図の作成はエクセルやパワーポイントではなく、Adobe社のIllustratorの使用をおすすめします。もちろんほかの方法でも作成できますが、クオリティやその後のことを考えるとIllustratorの使い方を早めにマスターしておいたほうがよさそうです。
論文を何度も執筆している人に話を聞くと、線の太さやフォント、表のサイズ、縦軸や横軸の目盛りの位置など、驚くほど細かいところまでこだわっていることがわかります。それほど図表は論文の要なのです。日頃、何気なく目にしている論文の図表。改めて眺めてみるといろいろな発見があるはずです。自身の研究の魅力を伝えるためにも細部まで手を抜かずに仕上げていきましょう。
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