PCRの結果を向上させる要素とは
PCRに影響を与える条件
PCRの結果は使用する機器や酵素によって大きく左右されますが、他にも様々な条件や試薬の違いに影響を受けます。この記事では、PCRの結果に影響を与える以下の要素について解説します。
- テンプレートの質と量
- プライマーの配列と濃度
- ヌクレオチドの品質
- dNTPsの濃度
- マグネシウムイオン濃度
- バッファーや添加剤、増強剤
DNAテンプレートの質と量
テンプレートの精製度とクオリティは、PCRの結果を左右する重要な要素です。また、テンプレート量はPCRの正確性に影響を与えます。標準的なPCRにおけるおすすめのテンプレート量は次の通りです。
ヒトゲノムDNAをテンプレートとする場合、DNAの使用はできる限り少量(最大200ngまで)とします。特に「サイクル数を増やす」「新しくデザインしたプライマーを使用する」「ホットスタートPCRを使用する」など個々の反応条件を変更する場合は、少量のゲノムDNAテンプレート(10ng以下のヒトゲノムDNAなど)を使って反応を行う必要があります。
また、そのほかの場合では、初期実験ではPCR反応液50µl当たり、細菌DNAの場合は1~10ng、プラスミドDNAは0.1~1ng、cDNAは2µlのテンプレートを使用します。
なお、cDNAをテンプレートとして使用する場合、cDNAの容量がPCRミックスの容量の10%を上回らないよう注意しましょう。PCR反応液の容量が50µlの場合、逆転写反応液から5µl以下の量のcDNAを使用。これは、過剰量のcDNAがPCRを阻害する場合があるためです。
適切なプライマー
ほとんどのPCRにおいて、プライマーの配列および濃度が分析系全般の結果を左右します。
プライマーのデザインには、専用のソフトウェアを利用すると便利です。これらのソフトウェアでは、プライマーの配列が反応に適しているかどうかを確認することができます。
高品質ヌクレオチド
ヌクレオチドはPCRに不可欠な要素で、ヌクレオチドの精製度がPCRの結果に大きく影響します。市販のすべてのヌクレオチドがPCRに使用できるとは限りません。特に、ヌクレオチド製品の多くには混入物(ピロリン酸、モノ-、ジ-、テトラ-リン酸ヌクレオチド、および有機溶媒)が残存し、これらがPCRを阻害することがあります。このようなヌクレオチド製品は、PCRに適しません。
これに対してロシュ社では混入物の量を大幅に減少させるヌクレオチド合成法を採用しています。この合成法による高品質(「PCRグレード」)なヌクレオチドはほとんど混入物を含まないため、PCRに使用すべき標準ヌクレオチドとして認められています。
ヌクレオチドはPCRにかかるコストのたった1~2%にしか相当しないため、より低価格のヌクレオチドを購入しても大したコスト節約にはなりません。むしろ、ヌクレオチドに含まれる不純物によりPCRが阻害される場合、さらにそのPCRを繰り返す必要があり、より大きなコストとなる可能性があります。最良の結果を得るためにも、品質の良いPCRグレードのヌクレオチドを使用しましょう。
デオキシヌクレオチド - 三リン酸(dNTPs)の濃度
PCR中、4種類のdNTPs濃度のバランスを一定に保つことで、ポリメラーゼによるエラー率をより低く抑えることができます。dNTPs濃度のバランスが不均衡になると、耐熱性DNAポリメラーゼの正確性が低下します。
ただし、キャリーオーバー防止のためにdUTPを使用する場合は例外です。通常、dTTPの代用となるdUTPは高濃度で用いられます。これは、dTTPとdUTPのDNA中に取り込まれる速度に違いがあるためです。
標準的なPCRのdNTP濃度は各ヌクレオチド200µMずつです。アプリケーションに応じて50~ 500µMの範囲の濃度が使用されます。
dNTPs濃度を高くする場合は、反応液中のMg2+イオンの濃度も高くする必要があります。dNTP濃度の上昇によりフリーのMg2+イオンが減少し、ポリメラーゼ活性に干渉したりプライマーのアニーリングを低下したりするためです。
マグネシウムイオン濃度
耐熱性DNAポリメラーゼのほとんどが2価の陽イオンを必要とします。必要とされる2価の陽イオンのほとんどはMg2+です。Mg2+は酵素活性に作用し、2本鎖DNAのTmを上昇させます。Mg2+はdNTPsと可溶性の複合体を形成し、ポリメラーゼが認識可能な基質となります。一般的に、Mg2+濃度が低いと特異的な増幅反応が得られ、濃度が高いとより非特異的な増幅反応がもたらされます。
なお、Tth DNA Polymeraseなど一部のDNAポリメラーゼは、Mg2+よりもMn2+を必要とします。しかし、一般的にMn2+存在下でのDNAポリメラーゼ反応はMg2+存在下での反応に比べて正確性が著しく低くなります。
ただし、フリーのMg2+濃度は、dNTP、テンプレートDNA、プライマー、フリーのピロリン酸(PPi)やEDTAなどイオンに結合する物質の濃度に依存します。したがって、PCR中のMg2+濃度を正確に測定することは容易ではありません。
なお、Taq DNA Polymeraseを使用する標準的なPCRで用いられる最も一般的なMg2+濃度は、1.5mM(200µM dNTPsを使用)です。しかし、最良の結果を得るためには、各反応システムに応じて最適なMg2+濃度を実験により検討することが必要です。1~10mMの範囲でMg2+濃度を検討します。他の反応要素の最適条件を検討しない場合でも、Mg2+濃度は必ず最適化します。
その他の反応要素
PCRでは常に最も純度の高いバッファーを使用しましょう。これらのバッファーは「PCRグレード」であることが求められます。PCR用酵素類に添付される反応バッファーのほとんどは、その酵素とともに使用して最良の結果をもたらします。一般的に、これらのバッファーは、pH 8.3~9.0の間に調製されています。
また、Taq DNA Polymeraseを用いた標準的なPCRの効率、特異性、あるいは収量を高めるため、反応液中に以下の物質を加えると効果的な場合があります。
以上、PCRの結果に影響を与える様々な要素について解説しました。これらのポイントを押さえて条件を最適化することで、より正確な結果をより低コストで得られるはずです。実験計画を今一度見直してみましょう。
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