免疫組織化学、免疫細胞化学における抗原賦活化の手法

免疫組織化学、免疫細胞化学における抗原賦活化の手法

免疫組織化学/免疫細胞化学と抗原賦活化

特異的な抗体‐抗原相互作用を利用し、組織切片の細胞から抗原(例:タンパク質)を検出する工程を免疫組織化学(IHC)と呼び、組織ではなく、培養細胞か単離細胞を用いて行う場合は免疫細胞化学(ICC)といいます。

IHCとICCは、それぞれ組織と細胞におけるバイオマーカーの分布や局在、差次的に発現しているタンパク質について理解するための基礎研究で、広く用いられています。

IHC/ICCの手順は主に「標本調整」「抗原賦活化」「抗体染色」「抗体検出」の4ステップに分けられます。標本調整から抗体染色に移る前に、固定した組織における抗体と抗原の免疫学的反応を促進するため、抗原を露出または「賦活化」させる必要が生じる場合があります。このために行う前処理を抗原賦活化といいます。この記事では、この抗原賦活化の手順について解説します。

なお、抗原の賦活化(抗原復活と呼ばれることもあります)には多数の様式があり、抗原や抗体によって必要な賦活化方法が異なります。抗原賦活化によって、組織中の大多数の抗原の反応性が増加することが示されています。

免疫細胞化学における抗原賦活化の使用はあまり一般的ではありませんが、特定の抗体と抗原の組み合わせによっては、細胞標本に対しても実施可能です。ただし、組織の場合と比較し、細胞における抗原賦活化では、処理の時間や強度は相当に劣ります。

抗原賦活化には、特異抗体との相互作用に対する抗原の利用能を最大化するため、様々な方法があります。最も一般的な方法は次の通りです。

  • 酵素消化
  • 加熱によるエピトープ賦活化(HIER)
  • クエン酸処理

それでは、これら3つの手法について順番に見ていきましょう。

酵素消化による賦活化

この方法では、ワックス除去、再水和、流水による標本の水洗を行います。その後、標本を適切なバッファーで平衡化し、37℃または室温でタンパク質分解酵素とインキュベーションします。抗体を用いた処理の前に、標本を低温のバッファー(4℃)に入れ、酵素活性を停止させます。

使用される酵素には、プロナーゼ(PBS中で0.05% w/v)、トリプシン(0.1% CaClを含有するPBS中で0.05% w/v)、ペプシン(2N HCl中で0.05% w/v)があります。酵素によって固定化の間に形成された接合の一部が切断され、抗原部位が露出しますが、抗原が完全には消化されないように濃度、時間、温度などの条件を調節しなければなりません。

一部の抗原/組織に対しては、このような方法を検討するとよいでしょう。(Shi, S. -R., et al. (1993)J. Histochem.Cytochem.41:1599–1604参照) 一方で、タンパク質分解性酵素は、一部の抗原の反応性を消失させてしまう恐れもあるので注意が必要です。 (Pileri, S., et al. (1997) J.Pathology 183: 116–123参照)

加熱によるエピトープ賦活化(HIER)

HIERは、以下のいずれかの方法によって行うことができます。

  • マイクロ波照射 (電子レンジ)
  • オートクレーブまたは圧力処理

ホルマリン固定し、パラフィン包埋した標本をバッファーに入れ、マイクロ波を照射すると、抗原の賦活化が顕著に高まることが認められています。この手順では、マイクロ波によって供給されたエネルギーが固定化の間に形成された結合の一部を切断する助けとなり、利用可能な抗原を含有する細胞の数が増えるため、反応の強度が増加します。しかし、正確な機序はわかっていません。

マイクロ波を照射する工程では、ダメージや乾燥を防止するために、組織切片をモニタリングすることが重要です。バッファーの量、照射回数、使用するマイクロ波の単位などの条件を実験間で一定に維持することによって、染色結果のばらつきが少なくなります。1回のマイクロ波照射で処理可能なサンプル数は限られています。

通常、何らかのバッファーに入れた標本を、全出力または部分出力で2〜3分間加熱します。定期的に加熱を停止し、液体を補充します。設定時間が経過した後、スライドを入れた溶液が徐々に室温まで冷めるのを待ち、その後スライドをPBSですすいで染色に用います。

HIERを行うためのもうひとつの方法が、オートクレーブまたは圧力処理です。手順を標準化するため、事前に加熱した標準量の溶液を用いて開始することが重要です。標本を沸騰した賦活化液に入れた後、オートクレーブまたは圧力処理装置の圧力を可能な限り迅速に最大まで上げ、その時点から加熱時間を正確に測ります。加熱時間(通常1〜2分)が終了してから、圧力を下げます。可及的速やかに、冷水を用いて加熱したバッファーを流し出します。このとき、切片を乾燥させてはいけません。その後、標本をバッファーで洗浄します。

マイクロ波とオートクレーブ、いずれにおいても、最も重要な点は組織の加熱であると考えられます。使用する溶液のpHや組成も、抗原部位の露出に重要です。

研究によって、マイクロ波とオートクレーブで著しい差異はないことが明らかになっていますが、使用する溶液によっては大きな違いが生じます。一般的に用いられるバッファー溶液は、0.01Mクエン酸バッファー(pH 6.0)、0.1M Tris- HCl(pH8.0)、1mM EDTA(pH8.0)ですが、最も多く用いられているのはクエン酸バッファーです。オートクレーブや圧力処理装置では、電子レンジよりも多くの標本を一度に処理することができます。ただし、細胞学的細部の保存に関しては、加圧処理した切片の方が若干劣る場合があります。

推奨されるHIERのプロトコールは、次のサイトで入手することができます。
じっけんレシピPDF

クエン酸処理による賦活化

クエン酸インキュベーションは、多くの組織に使用可能なより穏やかな方法です。これはブロッキング後、一次抗体を加える前に、37℃、pH3.0のクエン酸バッファー中で30分間インキュベーションするというシンプルな方法です。染色前に、スライドをpH7.4のPBSかTBSですすぎます。

バッファーは、2.1gのクエン酸を400 mLのddHOに加えて作ります。pHが3.0超である場合は酢酸で、3.0未満である場合は1N NaOHでpH3.0に調整し、ddHOを加えて最終容量を1Lにします。

以上、抗原賦活化の3つの手法について解説しました。用いる一次抗体やサンプルの種類によって適した方法や条件が異なるので、データシートなどを参考に検討するとよいでしょう。

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