用途に合わせて使い分け。抗体のフォーマットと精製方法

用途に合わせて使い分け。抗体のフォーマットと精製方法

抗体技術と抗体のフォーマット

免疫化学を活用した抗体技術は、タンパク質の定量や分離・精製、組織内の抗原を検出する免疫染色など、様々な用途に応用され、ライフサイエンス研究において重要な研究ツールのひとつとなっています。

ツールとして使用される抗体には様々なフォーマットがあり、これは抗体の形状または精製状態を指します。使用目的やフォーマットによっては、精製を行う必要があるので注意しましょう。この記事では抗体のフォーマットと精製方法について紹介します。

ポリクローナル抗体と抗血清

ポリクローナル抗体は、比較的精製されていないフォーマットとして入手可能なことが多く、これは「抗血清」または単に「血清」と呼ばれます。抗血清とは、免疫化された動物の血液から、凝固タンパク質や赤血球を除去したものを指します。

抗血清は、その名が示唆するとおり、すべてのクラスの抗体/免疫グロブリンや、その他の血清タンパク質が含まれたままの状態です。標的抗原を認識する抗体に加え、その他の様々な抗原に対する抗体も含有しているため、免疫学的アッセイでは、非特異的な反応が起こる場合もあります。したがって、血清タンパク質を除去し、標的抗原と特異的に反応する免疫グロブリンの分画を濃縮するため、しばしば精製処理を実施します。

抗血清の精製方法

抗血清は、一般的に、プロテインA/G精製または抗原アフィニティークロマトグラフィーのいずれかによって精製されます。

プロテインA/G精製では、免疫グロブリンのFcドメインに対する黄色ブドウ球菌プロテインA、または連鎖球菌プロテインGの高い親和性を利用しています。プロテインA/G精製によって、未処理の抗血清から大部分の血清タンパク質が除去されますが、非特異的な免疫グロブリン分画は除去されません。このため、プロテインA/G精製した抗血清は、依然として不要な交差反応を起こす可能性があります。

プロテインA/Gの結合親和性

抗原アフィニティー精製では、特異的な免疫グロブリン分画が、その免疫グロブリンの産生に用いられた免疫抗原に対して親和性を持つことを利用しています。この方法は、調製物から不要な抗体を除去するために用いられます。不要な抗体が標的とする抗原を含有するカラムマトリックスに通すことで、不要な抗体はカラムに結合するため、溶出物にはアフィニティー精製された目的の抗体が含有されています。

別の方法としては、目的の抗原を結合させたカラムマトリックスを用いることもできます。この場合は、カラムに結合させた抗原を標的とする抗体がカラムに結合して残るため、その後、抗原‐抗体結合を妨害する溶液を用いて溶出します。

プロテインA/G精製とは異なり、抗原アフィニティー精製では、非特異的な免疫グロブリン分画の大部分が除去され、標的抗原と特異的に反応する免疫グロブリン分画が濃縮されます。結果として得られるアフィニティー精製された免疫グロブリンには主に、望ましい特異性を有する免疫グロブリンが含有されています。

通常、アフィニティー精製された抗体は、未吸着の抗体よりもバックグラウンドが低くなっています。従って、厳密なエピトープや状態依存型のエピトープの場合には特に、この精製工程が重要となります。翻訳後修飾を持つ標的を認識するようなポリクローナル抗体を開発する場合には、精製工程において修飾特異的な抗原アフィニティーカラムを用いることによって、状態依存型の標的に対する抗体の特異性を著しく改善することができます。アフィニティー精製(固定化・修飾された標的タンパク質を使用)の前に、血清中の未修飾の標的タンパク質を枯渇させると、修飾された標的に対する特異性が増加します。その後、抗体が翻訳後修飾型のタンパク質しか認識しないことを確認するために、特異性試験を実施します。

モノクローナル抗体の特異抗体濃度

モノクローナル抗体は、培養細胞で増殖させ、ハイブリドーマ上清として回収するか、マウスやラットで増殖させ、比較的未精製の腹水として回収することができます。ポリクローナル抗体の場合と同様に、これらもプロテインA/G精製または抗原アフィニティークロマトグラフィーによって精製されます。

未精製の抗体調製物では、特異抗体の濃度は調製物によって著しく異なります。特定の未精製の抗体調製物の特異抗体濃度が不明である場合には、以下の「通常範囲」をガイドラインとして参照し、推定することもできます。

  • ポリクローナル抗血清:特異抗体の濃度は、通常は1~3 mg/mLの範囲。
  • ハイブリドーマ上清:特異抗体の濃度は、通常は0.1~10 g/mLの範囲。
  • 腹水(未精製):特異抗体の濃度は、通常は2~10 mg/mLの範囲。

以上、抗体のフォーマットと精製方法について紹介しました。使用目的や入手した抗体のフォーマットに応じて、適切な精製を行えるようそれぞれの特徴や方法を確認しておきましょう。

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