研究留学の「生の声」を聞く!経験者からの8つのアドバイス

研究留学の「生の声」を聞く!経験者からの8つのアドバイス

留学経験者から聞く「生の声」

留学を思い立ったとき、みなさんはまず、どこから情報収集するでしょうか。ネットで調べたり、本を買ったり、先輩に相談したり―。

情報は様々なところにあるものの、やはり、経験者の「生の声」に勝るものはありません。それも一人二人に話を聞くのではなく、なるべくたくさんの留学体験談を知ることが重要です。研究分野や、留学先や、一緒に行く家族の有無によって留学体験は変わってきますし、留学者の性格によっても捉え方は異なるからです。

そうしたとき、頼りになるのが海外日本人研究者ネットワーク(United Japanese researchers Around the world 、通称UJA)です。UJAはその名の通り、海外で活躍する日本人研究者を束ねる組織。研究留学の積極的なサポートを行っています。同組織のウェブサイトには留学者の体験談が多数掲載されていて、まさに様々な「生の声」に触れることができます。

このUJAは、ウェブサイト上の活動だけでなく、日本の学会やフォーラムなどでも交流イベントを実施していることでも知られています(詳しくは、「研究留学をネットワークで徹底サポート!UJAとは」の記事でも紹介しています)。

さて、そんなUJAが第41回分子生物学会(2018年11月28~30日)で「UJA留学のすゝめ2018 日本の科学技術を推進するネットワーク構築」と題したフォーラムを開催。ここに海外で活躍する8人の研究者が登壇し、それぞれの留学体験を語りました。この記事では、そこでの発表内容を要約して紹介します。いままさに留学先で奮闘している先輩たちの貴重な体験談から学ぶことはきっと多いはず。

パネリスト・モデレーター プロフィール

パネリスト

足立 剛也   Human Frontier Science Program Organization (HFSPO), France/AMED
阿部 洋典   Cincinnati Children's Hospital Medical Center, USA
齋藤 諒    Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research, Switzerland
塩田 仁志   Brigham and Women's Hospital/Harvard Medical School, USA
田渕 理史   The Johns Hopkins University School of Medicine, USA
廣瀬 健太朗    University of California, San Francisco, USA​
村上 重和   Georgetown University Medical Center, USA
柳田 絢加   University of Cambridge, UK

モデレーター

山形 一行          千葉大学大学院/Harvard Medical School留学
鈴木 仁人      国立感染症研究所/Harvard Medical School留学

それでは、一人一人のアドバイスをじっくり聞いていきましょう。

フェローシップのメリット―海外留学のスタートを力強く後押し

足立剛也さん(Human Frontier Science Program Organization (HFSPO), France/AMED)

皮膚科医であり免疫学の研究で海外留学を経験し、現在は国際グラントHFSP(Human Frontier Science Program)のプログラムオーガナイザーも務める足立さん。同フェローシップには多くのメリットがあることを紹介しました。

「HFSPは海外留学にまつわる悩みのほとんどをカバーする国際研究グラントで、戦略的な取り組みを行っています。そのひとつが、博士号取得3年以内のポスドクを目指す人向けのフェローシップです。長期フェローシップと学際的フェローシップの2種類(※)あり、生活費、研究費、育児手当、引越費用、手当付き育児休暇といった手厚い支援があります」

「また、フェローシップの先には、帰国後に研究を立ちあげる人向けのキャリア・ディベロップメント・アウォードや、国際共同研究チームへの研究費助成であるリサーチ・グラントもあります。さらに、HFSPには受賞者同士の国際研究ネットワークがあり、国、年齢、研究領域を超えて多くの受賞者たちが活発な議論を交わしています」

こうした取り組みから、研究グラント受賞者の中から今までに28人のノーベル賞受賞者が輩出されているそう。2018年にノーベル賞を受賞された本庶佑先生(京都大学特別教授)もHPSPの第1期生です。もっと詳しく知りたいという人は、ぜひHFSPのウェブサイト を参考にしてくださいね。

(※)
長期フェローシップ
「生命科学分野の博士号取得者が、海外の優れた研究室で現在とは別の新しい研究分野に映ることを目指した訓練を受けられるように助成するもの」

学際的フェローシップ
「生命科学分野以外(物理学・化学・数学・工学など)で博士号を取得した若手研究者が、生命科学分野の研究経験を積もうとする場合を対象とするもの」

留学前の分野変更もOK!?―固定観念にとらわれずトライし続ける

阿部洋典さん(Cincinnati Children's Hospital Medical Center, USA)

アメリカ中西部オハイオ州にあるCincinnati Children's Hospital Medical Centerで分子生物学の研究をしている阿部さんは、大学院では農学系の研究室でウシの卵巣の生理学(黄体退行)を研究していましたが、博士号取得後、分子生物学へがらりと分野を変えました。

「海外留学を決意した決め手は、私の大学の恩師の猛プッシュでした。せっかく分野を変えて新しいことに挑戦するのなら海外でもいいかなと漠然と思っていましたが、恩師の勧めがなかったら、今の道を選べていたかどうかわかりません。背中を押してくれたことについては今もとても感謝しています」

ラボ探しは情報サイト「研究留学ネット」で行ったという阿部さん。ただ、求人募集の多くは分子生物学ができる人を求めていました。

「分子生物学はまったくできないということを正直に話し、その上で、自分ができることとやりたいことをしっかり伝えることで、何とか今のポジションを手に入れることができました」

分子生物学の分野については今も猛勉強中で苦労をしているそうですが、もともとできないことがわかって採用してくれたPIに応えるために日々努力をしているそうです。

「求人広告の多くは理学/医学系のポスドクを募集していますが、農学系出身者の方であっても勇気を出して出願してほしいと思います。その先にはきっと新しい扉が開けてくると思います」

一見、難しいと思われる留学前の分野変更も、見方によっては研究者として大きく飛躍するチャンスと言えるでしょう。これまで学んできた分野の技術を新しい領域に生かすことで、きっと自分らしい研究ができるはず。固定観念にとらわれず、トライしてみるのもいいかもしれませんね。

ヨーロッパで博士号を取る―スイスに留学して感じたこと

齋藤諒さん(Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research, Switzerland)

齋藤さんは、日本で修士号を取ったあと、現在スイスで博士過程の学生として学んでいます。日本を飛び出したいと漠然と思っていた齋藤さんが留学先をスイスに決めたきっかけは、『Nature』に載っていた「Small is beautiful」というタイトルの論文でした(Quirin Schiermeier. 2005)。

その論文には、スイスは小さな国だが科学研究に関するインパクトは大きく、外部から有名な研究者もよく訪れるといった内容が書かれていました。齋藤さんはそんな環境に魅力を感じ、スイスに留学しました。

「スイスに留学するにはドイツ語が必要だと思われるかもしれませんが、基本的には英語です。また、ヨーロッパではPIが学生を研究者として雇用する形態をとるため、学生でも給料がもらえます。お金の心配はそれほどしなくても大丈夫です」

スイスで博士課程をやっている斎藤さんが感じる日本との違いは、ラボ間の垣根がないことだそうです。研究所同士で試薬をどんどん貸し借りしていて、隣の研究室の人が冷蔵庫を勝手に開けて何かを探しているというようなことも日常茶飯事。それだけ交流が盛んなのだそうです。

「海外で学位を取得することを選択肢のひとつとして考えてもいいのではないでしょうか。実際にやるかやらないかはともかく、知っていると視野が広がるかもしれません。」

国によって環境は違う―米・仏への留学で学んだこと

塩田仁志さん (Brigham and Women's Hospital/Harvard Medical School, USA)

日本の高校を出てアメリカの大学で学んだ塩田さんは、留学をしたからこそサイエンスに出会い、研究者になることができたと言います。フランスで博士号を取得し、現在はボストンのラボで働いている経験から、国による研究環境の違いを教えてくれました。

「アメリカとフランスを比較すると、仕事の環境も給料も大きく違います。アメリカには有名なラボや人数の多いビッグラボもいっぱいありますが、平均してみると人数が少ないラボが多いように思います。私のいるラボも、私とボスを含めて4人です。小規模のラボが同じビルに集まって、コラボレーティブな環境を作るのがアメリカの特徴だと感じています」

一方、フランスでは、ひとつのチームで何年も働いている人たちが何人もいて、そこにノウハウが蓄積し、その駆動力でプロジェクトを進めていく研究室が多いそうです。

「どちらがいいかは、その人の好みやスタイルによりますが、私はどちらも経験して、どちらもそれぞれに魅力があると感じています。またお金の面でいえば、ヨーロッパは、国のフェローシップだけではなくて、EUが出すフェローシップを受けるチャンスがあります。これはアメリカにはない利点ですね」

ラボ選びは直感重視―思い切って飛びこむ勇気

田渕理史さん(The Johns Hopkins University School of Medicine, USA)

アメリカのメリーランド州ボルチモアにあるジョンズホプキンス大学でポスドクをしている田淵さんは、日本で博士号の授与式が終わって1週間もしないうちに、アメリカにいたと言います。田淵さんのラボ選びは直感重視でした。

「若いラボに行きたいということと、ショウジョウバエをやりたいという2つの希望くらいしかなくて、Nature Jobs、Science Careers、Neurojobsで片っ端から検索して、30件ほど応募しました。現在ならツイッターでポスドク募集していることもあるので、情報収集ツールとして有効かもしれません」

田淵さんの専門スキルは電気生理学ですが、留学先は電気生理学のバッググラウンドがないハエの分子遺伝学のラボでした。ラボに入るとまず空っぽの部屋に案内された田淵さん。ここに電気生理の実験系を立ち上げるようにと言われ、注文からセッティングまでひとりで奮闘したそうです。

「実験ももちろん行いましたが、勉強に多くの時間を費やしました。あとはグラントをとる力が必要だと思ったので、積極的に応募するようにしました。ライティングの技術は鍛錬が必要なので、書きまくるしかないですね」

田淵さんはボルチモア日本人研究者会(JSSB)の運営にも関わっています。JSBBは日本語で行う定例研究セミナーで、日本語で行うことで分野の違う研究でも理解しやすく、より濃密な議論ができるそうです。

「ラボ選びについては、これが正解というものはないと思います。ビッグラボか若いラボか。分野を変えるのか、技術を変えるのか。変えるとしたら、どのくらいジャンプするのか。すべてギャンブルですね。不確定要素が多いので、自分の直観を信じてえいやっと飛び込むしかないと思います」

技術なし、英語力なしから成就―留学は叶えられるもの

廣瀬健太朗さん(University of California, San Francisco, USA)

今までゼブラフィッシュを使って実験をしていた廣瀬さんは、留学先ではモデル動物をマウスを変えたいと考えました。今までのノウハウが使えない。そんな不利な状況でも留学はできると廣瀬さんは確信をもって語ります。

「優秀じゃなくても留学はできるということをお伝えしたいと思います。僕は本当にコネなし、ペーパーなし、技術なし、英語力なしの状態でしたが、20件くらい応募メールを出しまくって、3つのラボに面接に来ていいよと言ってもらいました。面接のあとは、2つのラボがフェローシップが取れなくても来ていいと言ってくれたのです」

廣瀬さんは2つのタイプの違うラボの間で悩みました。

ラボA
有名な教授。同じ研究を長いことやっていて、中堅専門誌に定期的に論文を出している。中堅大学のラボで、所在地は田舎。

ラボB
若手のアシスタントプロフェッサー。ラボを立ち上げて2年くらいで論文はまだ出ていない。大都会にある世界トップレベルの大学。

「自分は実際に行ってみて、都会暮らしが楽しそうだったのでBに決めました。研究内容やPIとの相性ももちろん考慮しましたが、どこにあるかも重要です。行ってみて決めるというのは大事だと思います。結果的には、留学の2年半はかなり有益でした。若いPIの場合は、ラボの立ち上げが見れるのもいいし、ケアも手厚い。また、サンフランシスコという土地柄、サイエンス以外でもいろいろな経験ができました」

小さな出会いからチャンスを掴む―アメリカのラボでの日々

村上重和さん(Georgetown University Medical Center, USA)

村上さんは、第37回分子生物学会で行われたUJAのフォーラムでUJA会長の佐々木敦朗先生の話を聞いて感銘を受け、留学にチャレンジしたそうです。それから4年経ち、今日は演者として後輩に経験を話す側に立っています。

「私の場合、PIとの出会い方が特殊でした。留学したいなら行ってみたらと大学の恩師に薦められて、ニューヨークの学会に行ったことがきっかけなのです。その学会では、ランチタイムは知らない人同士が同席して、初対面でも研究の話をしていました。そのとき私の正面に座った先生が、今の留学先のPIです」

ランチタイム後、ポスター発表を聞きに来てくれ、さらに会場の外に連れ出されて簡単な面接が始まったそうです。英語はまだ自信がなかったものの、積極的な姿勢でアピールしたことが功を奏したのか、村上さんの採用が決まったそうです。出会いはどこに潜んでいるのかわかりませんね。

「ラボでは毎日ほとんど実験しかしていませんが、週に一度、ラボミーティングが3時間くらいあります。ひとりの発表を聞くのに3時間です。5人ほどのラボメンバーで順番がまわってくるので、発表の機会も多く、かなり英語を鍛えられました。また、金曜日には招待講演があって、他の研究機関のPIを呼んで貴重な話を聞くことができます。終わるとピザとコーラが出るのですが、そこはアメリカという感じがしますね」

情報収集を怠らない―ケンブリッジ大学に留学が決まるまで

柳田絢加さん(University of Cambridge, UK)

柳田さんは獣医学部出身です。医学研究科で博士課程を修了し、日本でポスドクをしてケンブリッジ大学に留学をしました。柳田さんが留学の準備を始めたのは博士課程4年の4月。まずは日本も含め世界中で興味がある研究室をリストアップしたそうです。

「リストアップしたあとは、その研究室にいる日本人研究者や、過去にいたことがある人にコンタクトを取りました。直接知っている人や知り合いのつてもありましたが、ホームページを見て名前しか知らない人にもメールを出しました。他にもうわさを収集して、ボスの人柄やラボの様子や将来性など、ホームページからは得られない情報について、さまざまな人に相談に乗ってもらい、最終的に4つのラボに候補を絞りました」

候補の先生が全員出席する学会がケンブリッジで開催されることを知った柳田さんは、学会に応募し、4人の先生にメールをしました。このとき、他の大量のEmailに埋もれないで確実に内容を見てもらうように、朝一番のタイミングで届くように送ったそうです。

見事、すぐに返事をもらい、学会の前後でインタビューまたはプレゼンの約束を取り付けることができました。あとで知ったそうですが、この4つの研究室では当時ポスドクを募集していませんでした。それでも熱意があれば面接までこぎつけ採用されることもあるという好例ですね。

「ケンブリッジの長所は治安がいいこと。通勤時間短く、医療費は無料。インターナショナルな街なので外国人に優しいです。ご飯はうわさほどまずくないので安心してください。短所は家賃が高いことと、アカデミア以外の娯楽・仕事が少ないのでパートナーが一緒に来た場合は不便かもしれません。研究面での長所は、研究室間の壁がないことですね。様々な分野のセミナーがたくさんあって学会に行く必要がないのではと思うほどです」

 

以上、8人の発表の要約をお伝えしました。人との出会いが人生を動かしていきます。ネットだけで情報を集めて不安になっている人は、まずはその不安を人に話して積極的に動いていきましょう。熱意が伝われば、きっと惜しみない応援をしてくれるはずです。

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