研究者の海外留学。経験者が語る5つのメリット
経験者が語る海外留学のメリット
博士課程になり進路を考える段階になると、海外留学も視野に入ってきます。日本を飛び出しキャリアを積んでいくことは、多くの人にとって憧れでしょう。
一方で、新しい一歩を踏み出すときには不安はつきもの。まずは言葉の壁や生活費の問題などが頭をもたげます。国内でも出せる成果をわざわざ海外に行って求めなくても…と及び腰になることだってあるかもしれません。
この記事では海外留学を経験した複数人の研究者に、そのメリットについて話を聞きました。誰もが異国の地で苦労を乗り越えながら、現在も精力的に研究を続けている人たちばかり。迷いなく「行ってよかった」と語る様子が印象的でした。
メリット①:最先端の情報と人脈に出会える
多くの研究所では、最先端の研究を行っている研究者たちが世界中からやってきて、毎週のように講演を行っています。日本にいたら国際学会でしか出会うチャンスがない研究者たちと、毎週のように会うことができ、直接話を聞くことができるのです。トップランナーたちの言葉を生で聞き、ときには直接ディスカッションできる環境に身を置くことは、将来の糧となり、かけがえのない経験となるでしょう。
ニューヨーク大学に留学していた研究者の話では、毎日のように世界中から有名な研究者が来て大学内で講演をしていたそうです。
ヨーロッパに目を向けて見ると、英国国立医学研究所でもやはり毎週のように招へいされた研究者による講演が行われていたとか。そもそもノーベル賞を受賞した教授がたくさん所属している研究所ですから、お茶を飲んでいたら隣に座っていた教授がノーベル賞受賞者だったり、教科書に載っているようなことを発見した研究者たちの話を直接聞くことができたり。身近にそうした機会を得たことは大きなメリットだったと、ロンドンに留学した先輩が話してくれました。
また、海外では日本人同士のつながりも密になりやすいと言います。せっかく海外に出たのだから日本人以外と交流したいという人もいますが、留学先で出会う日本人には志の高い人たちが多く、有意義な交流ができて楽しかったと語る研究者がほとんどです。
研究分野が異なっていても、「同じ場所に留学している」という共通項が付き合いをより深いものにします。分野を越えた人たちとの日常的な出会いは、日本ではなかなかないかもしれませんね。
現地の情報や研究の悩みを共有しているうちに、絆のようなものが生まれたと話す経験者たち。日本に戻ってからも、留学先で築いたつながりを大切にしているそうです。そうしたつながりをきっかけに、共同研究に発展することもあるのだとか。海外各都市にある日本人研究者コミュニティをつなぐ海外日本人研究者ネットワーク United Japanese researchers Around the world(UJA)の情報も活用するとよいでしょう。
最先端の情報にアクセスしやすいかどうかも考えて留学する場所を選ぶのもひとつの手かもしれません。自分の目指す研究が活発に行われている地域やその分野をリードする研究所の位置も事前に把握しておきましょう。
メリット②:研究者としての自信がつく
一般的に留学と聞くと、語学や専門分野の理解を深めるなど、「学びにいくこと」をイメージする場合が多いと思います。しかし、博士号を取った研究者は学生ではありません。研究者の留学は、「働きにいく」ことが主な目的です。学生のときのような受け身の姿勢ではなく、海外で自分の仕事を成し遂げるという想いで海外の研究室にアプライすることが必要です。
海外では、人種も宗教もジェンダーも文化も多種多様。そのような違うバックグランドを持つ人たちと、「働く現場」でコミュニケーションを図っていくためには、日本にいるときとは違うスキルが必要になります。ディスカッションをして自分の意見を通したり、コラボレーションが必要な場面では譲歩も必要です。
言葉のハンディキャップを抱えながらも、考えを伝え、調整し、相手の想いもくみ取りながら、一緒に仕事をしていく。それは、とても大変な日々ですが、そこで認められたり、業績をあげたり、自分の目標を成し遂げることができたら、研究を続けていく上で大きな自信になるでしょう。
また、「留学前は根拠なく欧米の全てを最先端のように感じていたが、実際にその中に身を置くことで先入観がなくなってよかった」と語る研究者もいました。つまり、様々なタイプの研究者を見る中で、自分が世界の中でどのくらいの位置にいるのかを体感的につかむことができた。自らをより客観的に見つめ直す機会を得たことで、将来への手応えを感じ、研究者としての自信につながったそうです。
一方、海外留学を進路決定の「判断材料」にしたという研究者もいました。「アカデミックの道を進むべきか悩んでいたが、海外で研究者としてやっていくことができたらこれから先も続けようと思ったんです」
もし合わなければ帰国してもいいし、ポスドクだけ終えて就職してもいい。柔軟に構えながら、飛び込んでみることが必要と考えたのだとか。自分の成長のためには、そうしたポジティブ思考も大切なのかもしれません。
取材に答えてくれた人たちは現在、国立大学の助教になったり、ニューヨークで独立してラボをもったり、バイオベンチャーの技術顧問をしたりなど、それぞれの道で活躍しています。
メリット③:自分の知らなかった一面が引き出され成長につながる
住み慣れた日本を離れ、未知の世界に飛び込むことで、今までは発揮されなかった能力が引き出されたと語ってくれた研究者が多くいました。たとえば、日本にいたときは人見知りでひとりでいることが好きだったのに、留学先では積極的に誰かと関わるようになっていた、と話してくれた研究者は、周りの人たちとのコミュニケーションなくしては生きていけないということに気づいたそうです。
違う文化で育った人たちと交流することは、日本では味わえない新鮮な刺激を与えてくれます。たとえば、ヨーロッパでは、経営学と化学など複数の学位を持っている人が普通にいて起業をする人も多いため、自分が今までもっていた常識が覆され、考えや行動の幅が大きく広がって大きく成長することができたと語ってくれた研究者もいました。
トラブルや差別や言葉が通じなくて悔しい思いをしたことも、振り返ってみればすべて自分の知らなかった一面が引き出されるきっかけになったそうです。
メリット④:視野が広がり人生が豊かになる
ある先輩は、もともと海外留学する気はまったくなかったのに、元外交官の人に「海外で生活をして、海外で仕事をすると、君の人生が豊かになるのは僕が保証する」と言われて、留学を本気で考え始めたそうです。
日本から外に出ると、文化や考え方の違いを目の当たりにします。そこで奮闘しているうちに、いろんな正解があってもいい、いろんなやり方があっていい、いろんな価値観があっていい、ということがわかってきます。今まで信じていたことや、日本のやり方が必ずしも正しいわけではない。それがわかると、視野が広がって、心の中でゆとりを持つことができるようになります。
国が違えば「約束」に対する考え方も違います。日本人にとってはルーズだと思うようなことも「郷に入っては郷に従え」。遅刻やドタキャンなどはわかりやすい例ではないでしょうか。自分の考え方を変えていくことで、文化の違いもうまくやり過ごせるようになっていきます。これまで「ルーズ」だと思っていたことは実は「柔軟性」の裏返しなのだと気づいたと語ってくれた先輩もいました。
これは研究の世界に限ったことではないかもしれませんが、長い人生のどこかで海外で暮らしてみることは自分の可能性を広げる上で、おすすめです。
メリット⑤:若いうちに独立できる可能性が高い
最後に、ラボを持つなど、若くしての独立を考えている方には、日本よりも海外のほうが有利だという意見が出ました。日本の場合はポジションの空きが少なく、そうした機会が限られるためです。
一方、アメリカなど海外では、多くの場合、日本よりも若手の独立支援体制が整っています。ポスドクからアシスタント・プロフェッサーに応募する道も開かれ、小さいながらもラボを持てる可能性が高いのです。
取材に応えてくれた研究者は、自分のやりたい研究をやるために、独立を応援してくれそうなラボを選んで留学したそうです。そして、ポスドクのときには、PIとして研究室を運営していくために欠かせないグラントの獲得のノウハウをボスから直接学びました。現在は、ニューヨークでラボを立ち上げ、ポスドク獲得やグラント獲得、研究室の運営などに奮闘しています。
このように、海外のラボには日本とは違う文化があることを理解しておくと、選択肢の幅が広がります。国内外を問わず、自分が目指す道にぴったりあった研究室を国に関係なく選ぶことができれば、より納得できる道が開けるのではないでしょうか。
アメリカで科研費に相当するNIHグラントでは一般的なグラントだけでなく、若い研究者向けに新規にPIとなった研究者のためのグラントなど様々な種類が存在します。NIHのサイトを見て事前に研究しておいてもよいかもしれませんね。
自分の信じる道を突き進もう
海外留学のメリットを挙げてみましたが、もちろんデメリットも存在します。取材の中で出てきた意見は、例えば次のようなことでした。
- ニューヨークやロンドンでは家賃が高く、生活が厳しかった。
- 荷物を取られたり、手続きに時間がかかったり、約束がルーズだったり、日本では考えられないようなトラブルが多くて大変だった。
- 海外生活が長いと日本での人脈は薄れてしまい、常勤のポジションを得ようと思うと、空きが少ないので帰りづらくなる。
しかし、将来のことは誰にも予測はできません。日本にいても、リスクはあります。研究がうまくいかなかったり、ラボのボスと合わなくなったり、所属している機関の変革があったりなど、何が起こるかわかりません。
絶対失敗しない道というものはありませんが、失敗したときに自分がどう動けるか次第で人生は変わります。ぜひ、柔軟な発想で、進路の選択肢のひとつとして海外留学を考慮に入れてみてください。
また、研究費(グラント)を獲得した上でアプライする方が話がスムーズに進みます。国内でリファレンスレターを書いてもらえる人脈を作っておくことも大切です。早い時期から準備をしておくと、将来の道を切り開きやすくなります。この記事を読んで海外留学について気になった人は、さっそく最初のアクションを起こしてみてはいかがでしょうか。
関連リンク
下記フォームでは、M-hub(エムハブ)に対してのご意見、今後読んでみたい記事等のご要望を受け付けています。
メルクの各種キャンペーン、製品サポート、ご注文等に関するお問い合わせは下記リンク先にてお願いします。
*入力必須