メルクからアドバイス!トラブル発生時に見直すべき5つの実験環境
その実験トラブル、試薬でも装置でもなく環境が原因かも
研究者にとって、ある日突然、理由もわからず、今まで取れていたデータが取れなくなることほど恐ろしいことはありません。試薬を買い替えたり、装置を修理したり、バッファーの組成を見直したり。あれこれ試せば試すほどドツボにはまって、まともなデータを1つもとれずに1カ月、2カ月と貴重な時間が過ぎてしまう。長年研究をやっている人なら、こんな経験は一度や二度ではないかもしれません。
メルクのテクニカルサービスには、試薬のせいで実験がうまくいかないのではないかという問い合わせもよく来ます。そんなときには、まず試薬の状態や実験の詳細について質問しますが、それだけでなく、研究室の環境も詳細に尋ねるそうです。というのも、これまでに、実験環境に問題があってうまくいかないケースが多数あったからです。
この記事では、分析系の実験について、メルクのテクニカルサービスに寄せられた実験トラブルに関する質問から、環境を見直すことで状況が改善したケースを集めました。「まさか、こんなことが原因だなんて!」と驚くかもしれません。ぜひ、参考にしてみてください。
①床が原因
○問題
フタル酸エステル類の分析で、フタル酸ジブチルがバックグラウンドとして検出される。
●原因
新築の実験室に移転した際に、床材の接着剤にフタル酸ジブチルが使われていたため混入していた。
②空気が原因
○問題
COD分析に超純水を使用しているが、JIS規格に定められるCOD分析の空試験の条件を満たせない。
●原因
有機溶媒を比較的多く使用している実験室で分析を行ったため、採水後に超純水が汚染されていた。換気することにより改善された。
③実験装置・器具が原因
○問題
HPLC分析でバックグラウンドが高い。移動相の作成に用いた超純水の水質が悪かったのか?
●原因1
超純水を採水する際に、初流排水を行っていない場合、超純水装置内に水が滞留し、水質が劣化していた。
●原因2
試薬の洗ビンに保管された水でメスアップした場合、洗ビンに保管された水は、環境から汚染されていた。
●原因3
オートサンプラーを用いている場合、サンプルの吸着や洗浄不足により、前のサンプルを持ち越す(キャリーオーバー)ことがあり、バックグラウンドの原因となった。
○問題
イオンクロマトグラフィー分析で、特定のイオンのピークが検出される。
●原因
容器や器具からの溶出の可能性がある。サンプリングに用いていたパスツールピペットやバイアルからの溶出が原因となることもある。
○問題
ICP-MS分析をしているが、臭素の値が高い(3ppb)。
●原因
79BrはICP-MSで測定すると、Ar-Ar-Hと質量数が同じになり、見かけ上高い値が検出されることがある。また臭素はメモリー効果があるので、一度ICP-MS装置内を汚染すると低減するのに十分な時間が必要な場合がある。
④水道水の水質が原因
○問題
RO-EDI方式純水を使用しているが、シリカの量を十分に低減させることができない。
●原因
原水中に含まれるシリカが著しく高い可能性がある。原水のシリカ濃度は地域によって異なり、装置の仕様どおりの水質が得られないことがある。
⑤測定方法が原因
○問題
ICP-MS分析を行っているが、超純水中にppbレベルの元素が検出される。
●原因
半定量法による測定を行っている。半定量法は、測定試料にどんな物質が含まれるか装置内部のデータをもとに推測するため、定性分析には適しているが、定量分析には適していない。微量定量分析には、内標準法や標準添加法(絶対検量線法)が適している。ただし、採水時に確認した超純水の比抵抗値が18.2MΩ・cmを示していれば、理論上元素濃度はpptオーダーまで除去されているため、採水後の環境から汚染が原因であると考えられる。
環境が原因の場合はなかなか気づきにくいものです。困ったときはぜひ一度、トラブルシューティングの経験豊富なテクニカルサービスのスタッフに相談してみてください。
ユーザーの質問から生まれたお役立ちプロトコル集
メルクのウェブサイトの中でも特にシグマアルドリッチのウェブサイトには、製品情報や実験プロトコル集などのお役立ち情報が多数掲載されています。プロトコル集は、ユーザーからの問い合わせが多いものを中心に、テクニカルサービスのメンバーが作っています。ユーザーの「困った」に寄り添った実用的なラインナップになっていますので、ぜひ、一度見てみてくださいね。
〇ライフサイエンス ジャンル別
抗体/細胞培養/低分子生理活性物質/遺伝子機能解析/分子生物学
幹細胞生物学/エピジェネティクス など
〇ライフサイエンスカタログ一覧
遺伝子基礎じっけんレシピ集/組み換えタンパク質発現ガイド/細胞培養ガイド など
〇じっけんレシピ
分子生物学/抗体/組織染色学/細胞培養など
他にも知りたいことがある場合は、ウェブサイトの検索窓に製品名や実験名などを入れて検索すると関連情報が出てきます。テクニカルサービスに問い合わせるより自分で調べる方が好きな人はウェブサイトの活用をおすすめします。
実験のお役立ちツールも活用しよう
テクニカルサービスに問い合わせるまでもないけれども、ちょっと困ったな……というときは、ウェブサイト上にある実験のお役立ちツールも活用してみてはいかがでしょうか。モル濃度計算や、単位換算など、実験の基礎を支える便利なツールが盛沢山です。
・モル数換算ツール
・単位換算ツール
・圧力・沸点換算図表
・濃度計算ツール
実験レシピやお役立ち情報については、M-hubでもピックアップしてお届けしていきたいと思います。
何事もトラブルなく実験が進むのが理想的ですが、道なき道を切り開いていく以上、途中で何が起こるかわからないのが研究です。トラブルが起きたときは、メルクのウェブサイトやテクニカルサービスを活用し、泥沼にはまる前に抜け出しましょう。悩むより聞いた方が早いケースもあります。トラブルシューティングの経験豊富なスタッフに、ぜひ相談してみてください。
テクニカルサービス(生物・分析・化学系製品の技術的な問い合わせ・資料の請求など)
TEL:03-6756-8245
E-mail:jpts@merckgroup.com
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