<研究者インタビュー>世界ではばたく背景にある“different”
佐藤さんが過去に受賞されたベイダー賞、2024年の応募を受付中。
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中途での決断
―佐藤さんのご経歴を教えて下さい。
研究の道の第一歩として、東京大学の中村栄一先生の研究室を選びました。そちらでは、鉄触媒を用いたC-H結合活性化反応の開発を行なっていました。修士2年の秋に留学することにし、テキサス大学オースティン校のMichael Krische先生の研究室に移ることになりました。
―修士課程の途中で留学されたのですね。
論文など読んでいると、世界にはいろいろな研究をしている先生がいて、非常に面白そうだなと感じました。もちろん就職や言葉の問題など心配はありましたし、家族や周囲の反対もあったのですが、新しいことができるというワクワクの方が勝ってしまった感じです。途中ではありましたが、今行かなければ一生行けないという気がして、決断しました。中村先生には、快く送り出していただきました。
―留学先はどのように決めたのですか?
当時の研究分野に近い研究室にたくさん応募し、受かった3か所から選んだというのが正直なところです。Krische先生のところを選んだのは、やはりオリジナリティの高い仕事をされていたこと、すでに正教授で研究資金なども潤沢であったことなどが理由です。
―やはりそうしたところもきちんと調べられたのですね。アカデミックの道を目指したのは、最初からなのですか?
当初はそうは思っていなかったのですが、研究を2~3年続けるうち、これは今までやった何よりも面白いと思うようになりました。先ほども言ったように、私は新しいことにワクワクするタイプですので、世界で誰もやっていないことを自分のアイデアでできるというのは最高に楽しいと思っています。その楽しいことを、お金をもらって一生続けられるとなれば、アカデミックの道に進まない手はないと思いました。
日米の研究環境
―アメリカの研究環境はいかがでしたか。
あちらは技官の方がいるので、雑用にとらわれることなくのびのびと研究に集中できたと思います。技官はNMRやMSなど分析を担当してくれるのですが、その道何十年というベテランですので、素人では難しいサンプルでもばっちりとデータを出してくれますし、機器のメンテナンスなども行き届いています。ですので、おかげで、研究室にいるのは朝9時半から夕方6時くらいでしたが、きちんと結果を出すことができました。
―それは素晴らしいですね。日本のように自分で分析を行なうと、知識が身につくということはありますが、効率という点ではアメリカ式がよさそうです。
実はそれで、日本に帰ってきてから少々苦労しています。特にいま手がけているカーボンナノベルトは分析が難しい化合物なので、学部生に教えてもらいながら実験をしています(苦笑)。良し悪しはありますね。
typicalでdifferent
―佐藤さんはどのような大学院生だったのでしょうか?
あちらでは当初、真面目で大人しい印象だったのか「typical Japanese」と言われました。ただ、後で先生には「different」と言われるようになりました。どういうニュアンスなのかわかりませんが、「そのままdifferentでいてくれ」ということだったので、いい意味だと思うことにしています(笑)。
―どのように「different」だったのでしょうか?
効率よく実験をこなす方ではあったと思います。また、聞いた方が早いと思えば、技官や他の研究室の方にもどんどん質問しに行ったので、顔も広くなりました。プライベートでは静かな方でしたが、研究となると躊躇なく聞きに行けるのですね。
―そのあたりは確かに「典型的日本人」ではないかもしれませんね。そうした中で、研究者として飛躍するきっかけのようなことはありましたか?
留学先での最初の論文を出した時、「研究の進め方」が実感として把握できた気がします。ひとつのプロジェクトを始める時、どのような実験が必要か、どういう問題が起きるか、どのジャーナルに発表できるかといったことが、だいたい予測できるようになりました。失敗した時に必要なバックアッププランなども、あらかじめいくつか考えて計画に組み込み、戦略的に研究を進められるようになった気がします。
―論文1報書いただけでそれができるというのは才能ですね。研究の中で、どういうところに喜びを感じますか?
ChemDrawで何時間も構造式を描いたりしている中で、この中間体をどう活かすかなどと考えるのは楽しいですね。あとは、論文のよいイントロの文面が思い浮かんだ時は嬉しいです。
―自分の研究を俯瞰して、適切に位置づける言葉を見つけるのは重要ですね。
あまり凝るとただの言葉遊びになってしまうので、あくまで本質を捉えて表現するものでなければなりませんが、こうした工夫は好きです。
前に進んでいる限り
―ベイダー賞に応募したきっかけは?
ベイダー賞を知ったのは、Chem-Stationのツイッターでした。大きな賞を獲ったことがなかったですし、ダルムシュタットでの招待講演も魅力でした。また、優秀な若手研究者とディスカッションできたのも大変貴重な経験でしたし、共同研究の話などもできました。ですので、賞に応募したことのない方は、ぜひチャレンジしてほしいと思います。
―ある研究者は、「賞を取るコツは、賞を取ることだ」とおっしゃっていました。ひとつ賞を取ることで評価されやすくなり、また応募書類の書き方などノウハウが身につくので次の賞を取りやすくなる。好循環に入っていくのですね。
―その他、若い研究者にメッセージなどお願いします。
日本から海外への留学生は減っていますが、もっと増えてほしいと思います。もちろん日本は設備も充実していますし、試薬がすぐ届くなど、よい面も多くあります。しかし海外で経験を積み、日本のよいところと組み合わせてゆければ、何より大きな武器になると思います。どうしても就職などの心配はありますが、前に進んでいる限りどうにかなると思って、後悔を残さぬようチャレンジしてほしいですね。
ベイダー賞について
ベイダー賞概要
アルフレッド・R・ベイダー賞(以下ベイダー賞)は、シグマアルドリッチ社の共同創設者であるアルフレッド・R・ベイダーによって創設された賞で、有機化学分野の博士課程大学院生が対象です。ファイナリストには、メルク本社のあるダルムシュタット(ドイツ)で開催される、Bader Student Chemistry Symposiumへの招待講演の機会(渡航費、宿泊費支給)、や賞金が与えられます。過去にはAbigail Doyle教授やStephen Heller教授が受賞しています。
ベイダー賞担当者から応募者へのコメント:
More than a decade’s worth of chemistry graduate students have participated in the Alfred R. Bader Awards for Student Innovation. Over the years, these awards have provided innovators of the future the chance to get to know Merck and each other, share ideas and explore possible partnerships. This collaboration and expanded access to groundbreaking chemistry has been our goal since Alfred R. Bader started his company (acquired by Merck in 2015) in 1951. Our platform lets chemists release their discoveries broadly and at scale without losing valuable lab hours for future explorations.
プロフィール
佐藤 弘規(さとう ひろき)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)博士研究員
1990年生。2013年3月東京大学理学系研究科化学専攻 理学部化学科卒業(中村栄一 教授)。2018年12月テキサス大学オースティン校化学科博士課程修了(Prof. Michael J. Krische)。2016-2018年 独立行政法人日本学生支援機構 海外留学支援制度(大学院学位取得型)。2019年1月から現職。2019年4月より日本学術振興会特別研究員(PD)。
関連リンク
2018年 アルフレッド・R・ベイダー賞
2024年 アルフレッド・R・ベイダー賞 (応募締切:2024年7月31日)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM) 伊丹グループ
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