縮合剤選びのポイントを解説!アミド結合生成反応を学ぼう

縮合剤選びのポイントを解説!アミド結合生成反応を学ぼう

ケミカルバイオロジー研究に欠かせないアミド結合

アミド結合は、ペプチドやタンパク質を始めとした生体分子の基礎となる他、医薬品や生理活性化合物にも頻出する重要な結合です。このためアミド結合形成については、多くの反応や試薬が存在します。ただそれだけに、専門の研究者でない者にとっては、どれを使えばよいか悩ましいところです。以下に、いくつかのアミド結合生成反応のポイントをご紹介しましょう。

アミド結合は、カルボン酸とアミンの縮合によって作られます。実際の合成手法としては、カルボン酸側を他の形に変換し、アミンがここに結合しやすくする活性化操作を行います。活性化の方法としては、反応性の高い方から酸塩化物(X=Cl)、酸無水物(X=OCOR’)、酸アジド(X=N3)、活性エステル(X=OR’’)などがあります。

アミド結合生成反応

 

またアミドカップリング反応では、しばしば不斉点のエピ化が問題になります。α-アミノ酸のように、カルボキシ基に隣接する炭素が不斉炭素である場合、反転が起きて光学純度が損なわれることがあるのです。アミド結合形成反応では、この問題に気を配らねばなりません。

酸塩化物法

酸塩化物は、最も反応性が高い活性化法です。カルボン酸から酸塩化物への変換には、塩化チオニル(SOCl2, 30-1850-5-500ML-J)がよく用いられます。ジクロロメタンなどの溶媒に溶解したカルボン酸に、1.1当量程度の塩化チオニルを加えて撹拌し、しばらくしてから留去するだけで、ほぼ純粋な酸塩化物が得られます。得られた酸塩化物は、トリエチルアミンなどの塩基の存在下、ジクロロメタンなどの溶媒中でアミンと反応させることで、容易にアミドが得られます。

酸塩化物法

 

立体的に混み合った基質や、アリールアミンなどの反応性の低い基質のアミド化には、酸塩化物が適切です。ただし、酸に弱い官能基を持つ化合物では、カルボン酸を酸塩化物に変換する条件に耐えられないことがあります。またペプチド合成の場合には、不斉点のエピ化が起きるため、酸塩化物は向いていません。

酸アジド法

酸アジドを経由する試薬として、ジフェニルリン酸アジド(DPPA)があります。カルボン酸及びアミン、1当量の塩基(トリチルアミンなど)とDPPAを混合するだけで目的のアミドが得られます*1。ペプチド結合に用いても不斉点のエピ化が少ない、優れた試薬です。一般にアジド類には爆発の危険がありますが、この試薬ではリン原子がアジドを安定化しているため、安全に取り扱うことができます。反応終了後は、弱アルカリ水溶液による洗浄で副生成物を除去することができます。

DPPA

 

活性エステル法

また、活性エステルを経由する方法も広く用いられます。活性エステルは、通常のエステルより反応性が高い特殊なエステルで、カルボン酸とアルコール及び脱水試薬を混合することで合成されます。

活性エステルに用いられるアルコールとしては、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt, 157260)が最もポピュラーです*2。1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)はより反応性が高く、HOBtでは反応が進行しにくい場合に試す価値があります*3。ただし、HOBtやHOAtは爆発性が指摘されており、特に高温を必要とする場合には危険が伴います。これらに代わりうる試薬として、エチル(ヒドロキシイミノ)シアノアセタート(Oxyma, 851086)が開発されています*4。Oxyma活性エステルの反応性はHOAtに比べても遜色なく、安全性及びコスト面でも優れた代替試薬といえます。

活性エステル法に用いられる試薬

 

活性エステルの合成に用いる脱水試薬としては、水溶性カルボジイミド(WSCD, 800907 )がよく用いられます。これらを用いれば、活性エステルを単離する必要はなく、単にカルボン酸とアミン及びWSCDとHOBt(またはHOAt, Oxyma)をN, N-ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒中で混合するのみで、目的とするアミドが得られます。ペプチド合成に適用しても、不斉点のエピ化などの問題がほとんどないため、現在ではアミド結合生成の最もスタンダードな手法となっています。

カルボジイミド系縮合剤

WSCD-HOBt法によるアミドカップリング

 

ホスホニウム・ウロニウム系カップリング試薬

また、WSCDなどを使わず、カルボン酸及びアミンと混合するだけでよいカップリング試薬も開発されています。最初に開発されたのはBOP試薬*5226084)と呼ばれるものですが、これは強い発がん性がある副生成物ができてしまう難点があります。PyBOP試薬(851009)は、この点を改良したものです。

BOP系カップリング試薬

 

同様な改良版として、ウロニウム系と呼ばれるカップリング試薬も開発されています。対アニオンとしてテトラフルオロホウ酸イオン(BF4-)を持つものと、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)を持つものがありますが、両者に反応性の差はほとんどありません。反応性の高いOAtエステルを形成する、HATU(851013)が最も優れたカップリング試薬として多用されます*7

ウロニウム系カップリング試薬

 

また、Oxymaと組み合わせた新たなカップリング試薬COMU(851085)も報告されています*8。立体障害の大きなアミノ酸を用いたペプチドの固相合成においても、COMUはよい結果を与えており、コスト面でも優れています。

COMU

 

これらカップリング試薬は、カルボン酸とアミンをDMFなどの溶媒に溶解し、1.1当量程度を加えるだけの簡便な操作で、目的とするアミドが得られます。重曹の飽和水溶液などの弱アルカリで洗浄するだけで副生成物を除くことができる点も、大きな長所です。

DMT-MM

これらと別系統のカップリング試薬として、DMT-MM(749613)があります。これはカルボン酸と反応して活性エステルを形成し、ここにアミンが置換してアミドが形成されます*9。DMT-MMは多くの有機溶媒に不溶ですが、カルボン酸及びアミンと混合するだけで容易に反応が進行し、良好な収率で目的物が得られます。重要な特徴として、水やエタノールなどを溶媒として用いてもカップリング反応が進行する点が挙げられます。また、副生成物は水洗のみで除去でき、精製が簡便であることもメリットです。

DMT-MM

DMT-MMによるカップリング反応

 

アミド結合生成反応における縮合剤選びのポイント

多くのカップリング条件がありますが、選択の目安としては以下のようになります。

  1. 通常のアミド合成には、WSCD-HOBtが標準的条件。コスト及び安全性から、WSCD-Oxymaも選択肢

  2. 固相合成など高効率が求められる場合、HATU及びCOMUなどのカップリング試薬

  3. DMT-MMは水やアルコール中で反応が行える

  4. 基質が酸性に強く、反応性が低い場合は酸塩化物法

これらカップリング試薬の進歩により、アミド結合生成は必ずしも有機合成に習熟した実験者でなくとも、十分効率よく行えるものになっています。それぞれの試薬の特色を理解し、適切なものを選ぶことが重要でしょう。

 

<References>
*1) Shioiri, T.; Yamada, S. Org. Synth. 1984, 62, 187
*2) König, W.; Geiger, R. Chemische Berichte, 103, 788
*3) Carpino L. A.; El-Faham A. Tetrahedron, 1999, 55, 6813
*4) Subirós-Funosas R et al., Chem. Eur. J. 2009, 15, 9394
*5) Castro, B. et al. Tetrahedron Lett. , 1975, 1219
*6) Kiso, Y. et al., K. Chem. Pharm. Bull. 1990, 38, 270
*7) Vrettos E. I. et al., RSC Adv., 2017, 7, 50519-50526
*8) El-Faham, A et al. Chem. Eur. J. 2009, 15, 9404.
*9) Kunishima, M. et al. Tetrahedron Lett. 1999, 40, 5327.

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