pETシステムによるタンパク質発現系構築のポイント

pETシステムによるタンパク質発現系構築のポイント

pETシステム、タンパク質発現系構築の注意点

pETシステムは、大腸菌を用いた組換えタンパク質のクローニング・発現システムのひとつです。この記事では、pETシステムを使ってタンパク質発現系を構築する際の、ホストとベクターの選びのポイントを紹介します。

pETシステムを用いてタンパク質発現系を構築するには、ベクターである「pETプラスミド」、プラスミドを保持するための「クローニング用ホスト」、タンパク質を発現させるための「発現用ホスト」の3つを、適切に選択する必要があります。その際に考慮すべきポイントや、注意点について、順番に確認していきましょう。

pETプラスミドの選択

pETプラスミドには様々な種類があり、下記の4項目で分類することができます。発現させるタンパク質の用途や既知の情報、クローニング方法を考慮し、実験系に合わせて適切なものを選びましょう。

  • T7プロモーター型の選択:野生型T7プロモーターまたはlacO配列融合プロモーターT7lac
  • 薬剤耐性遺伝子の選択:アンピシリン耐性、カナマイシン耐性、またはクロラムフェニコール耐性
  • 標識タグ配列使用の選択:N末端タグ、配列内タグ、C末端タグ
  • プロテアーゼ切断配列使用の選択:EnterokinaseHRV 3CThrombinFactor Xa など

pET-3a-d pET-14b pET-17b pET-20b(+) pET-23b(+) pET-23 a-d pET-9a-d pET-11a-d pET-15b pET-16b pET-19b pET-21b(+) pET-22b(+) pET-25b(+) pET-31b(+) pET-21a-d(+) pET-32 Ek/LIC pET-32 Xa/LIC pET-43.1a-b(+) pET-43.1 Ek/LIC pET-44a-c(+) pET-44 Ek/LIC pET-45b(+) pET-46 Ek/LIC pET-51b(+) pET-51 Ek/LIC pET-52b(+) pET-52 3C/LIC pETcoco-2 pETDuet-1 pET-24(+) pET-26b(+) pET-27b(+) pET-24a-d(+) pET-28a-c(+) pET-30a-c(+) pET-30 Ek/LIC pET-30 Xa/LIC pET-39b(+) pET-40b(+) pET-41 Ek/LIC pET-47b(+) pET-48b(+) pET-49(+) pET-50b(+) pETcoco-1

pET-3a-d pET-14b pET-17b pET-11a-d pET-15b pET-16b pET-19b pET-20b(+) pET-23(+) pET-21(+) pET-22b(+) pET-25b(+) pET-31b(+) pET-23a-d pET-21a-d(+) pET-32 Ek/LIC pET-32 Xa/LIC pET-43.1a-b(+) pET-43.1 Ek/LIC pET-44a-c(+) pET-44 Ek/LIC pET-45b(+) pET-46 Ek/LIC pET-51b(+) pET-51 Ek/LIC pET-52b(+) pET-52 3C/LIC pETcoco-2 pETDuet-1 pET-9a-d pET-24(+) pET-26b(+) pET-27b(+) pET-24a-d(+) pET-28a-c(+) pET-30a-c(+) pET-30 Ek/LIC pET-30 Xa/LIC pET-39b(+) pET-40b(+) pET-41 Ek/LIC pET-47b(+) pET-48b(+) pET-49b(+) pET-50b(+) pETcoco-1

<T7プロモーター型の選択>

IPTGによる発現誘導を行う前でも、ホスト細胞内では基底レベルで目的タンパク質が発現されています(基底発現)。このタンパク質が大腸菌にとって有害な性質を持つ場合、大腸菌が増殖せず、十分な量の目的タンパク質を得ることができません。
T7lacプロモーター配列を持つプラスミドを使うと、宿主ポリメラーゼによるT7 RNAポリメラーゼ遺伝子の転写を抑制し、T7 RNAポリメラーゼによる目的遺伝子の転写も阻害するため、基底発現を抑えることができます。

<薬剤耐性遺伝子の選択>

pETベクターでは主に、アンピシリンまたはカナマイシン選択マーカーを利用することができます。また、pETcoco-1クロラムフェニコール耐性を持ちます。

<標識タグ配列使用の選択>

タグ配列を用いることで、目的タンパク質の検出や精製を容易にします。また、細胞質内での可溶性やペリプラズムへの移行に寄与する配列を付与することで活性を持つタンパク質の発現率を高めることができます。

<プロテアーゼ切断配列使用の選択>

タンパク質の中には、その片端または両端に不要な配列があると、活性を示さないものがあります。しかし、翻訳開始配列が大腸菌内で効率的に利用できない場合、発現レベルに影響を与える可能性があります。このような場合には、大腸菌内で効率良く発現するアミノ末端配列を含む融合タンパク質を設計し、発現・精製後プロテアーゼによる部位特異的切断で、融合タグを除去するという方法があります。この手法にはLIC(Ligation-independent cloning)法が特に有効で、EnterokinaseFactor XaまたはHRV 3Cプロテアーゼを用いてベクター由来のアミノ末端配列を除去することができます。

クローニング用ホスト株の選択

プラスミドを安定に保持可能なクローニング用ホスト(宿主=大腸菌)には、E.Coli K-12 株由来のJM109、DH5αやNovaBlueなどがよく知られています。これらの菌株はrecA- endA-で、形質転換効率が高く、プラスミド収量も多いため、目的DNAをpETベクターで最初にクローニングするのに便利な宿主であり、プラスミドの維持用にも適しています。

NovaBlueは、選択F因子を持っているため、f1複製起点を持つプラスミドから一本鎖プラスミドを調整することが可能です。NovaBlue T1Rはさらに、T1およびT5ファージに対し耐性であるという利点も持っています。

また、これらのホストは、バクテリオファージCE6の感染による発現誘導が可能なため、高毒性タンパク質がクローニングされたpETベクターからの発現誘導にも利用されます。

<Blue/Whiteスクリーニングを行う場合>

pET ベクターはlacZαペプチドをコードしていないので、pET システムではBlue/Whiteスクリーニングができません。T7 発現ベクターにおけるBlue/Whiteスクリーニングを行う場合は、pETBlueプラスミドをNovaBlueと組み合わせて使いましょう。

発現用ホスト株の選択

pETベクターからのタンパク質発現誘導には、T7 RNAポリメラーゼを発現可能なホストが必要です。これには、バクテリオファージDE3の溶原菌が用いられ、このような菌株には名前の後ろに「(DE3)」がついています。このバクテリオファージは、ファージ21の免疫性領域を持ち、lacI遺伝子、lacUV5プロモーター、T7 RNAポリメラーゼ遺伝子がint遺伝子内に安定的に挿入されています。

タンパク質発現用ホストにはB株由来のものとK-12株由来のものがあります。とりわけB株由来のホストは、プロテアーゼであるLonおよびOmpTタンパク質を欠損しているため、目的タンパク質の安定化に寄与しやすいことが知られています。

効率の良い発現実験を実施するためには、適切なホストを選択するとともに、必要に応じて非発現宿主(ネガティブコントロール:(DE3)ではない同種菌株)を使用しましょう。また、プラスミドの薬剤耐性とホストの薬剤耐性が重複しない組み合わせを選択することも重要なポイントです。

<一般的なタンパク質発現に用いられるホスト株>

pETベクターからのタンパク質発現誘導に広く利用されています。

  • BL21(DE3):B株由来、耐性抗生物質なし

<タンパク質不溶化やフォールディング異常の改善に有効なホスト株①>

trxBおよびgor522変異を持つため、ジスルフィド結合合成能が高い株です。ジスルフィド結合形成効率が低い場合のフォールディング効率の改善が期待できます。

  • OrigamiTM2(DE3):K-12株由来、ストレプトマイシン耐性、テトラサイクリン耐性

  • Rosetta-gamiTM 2(DE3):K-12株由来、ストレプトマイシンン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性

  • Rosetta-gami B(DE3):B株由来、カナマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性

<毒性タンパク質の発現に有効なホスト株①>

下記のホストを用いて基底発現を抑制することで、細胞毒性が高いタンパク質の回収率が向上する場合があります。とくにpLysSを持つ株はT7 RNAポリメラーゼ阻害剤であるT7リゾチームを常に微量生産するため、T7 プロモーター依存性の基底発現が限りなく低く抑制されます。また、ベクターにpETcocoを使用することも一つの手段です。

<タンパク質不溶化やフォールディング異常の改善に有効なホスト株②>

ラクトース透過酵素lacYに変異を持ち、IPTG濃度依存性の発現量変化を示します。これらのホストの使用は、毒性が強いタンパク質の発現レベルに依存してフォールディング効率や可溶化度が落ちている場合に有効です。

  • TunerTM(DE3):B株由来、耐性抗生物質なし

  • Origami B(DE3):B株由来、カナマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性

  • Rosetta-gami B(DE3):B株由来、カナマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性

<毒性タンパク質の発現に有効なホスト株②>

非発現宿主とバクテリオファージCE6の組み合わせによる発現誘導系では、基底発現による発現が起こりません。したがって、基底発現レベルでも菌体に大きなストレスを与えるような、高い毒性を持つタンパク質の発現が可能です。

  • 全ての非発現宿主:BあるいはK-12株由来、薬剤耐性は菌株によって異なる

<完全長のタンパクが得られない場合に有効なホスト株>

Rosettaシリーズは、大腸菌ではほとんど使用されないコドンに対するtRNA の発現量を高く保っています。

  • Rosetta(DE3):B株由来、クロラムフェニコール耐性

  • Rosetta 2(DE3):B株由来、クロラムフェニコール耐性

  • Rosetta-gami B(DE3):B株由来、カナマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性

  • Rosetta-gami 2(DE3)K-12株由来、ストレプトマイシンン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性

  • RosettaBlueTM(DE3):K-12株由来、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性

<発現用プラスミドの安定化に有効なホスト株>

反復配列を持つ標的遺伝子などの挿入が原因で、プラスミドが不安定化し、タンパク質の発現量が不安定な場合は、下記のrecA-のホストによってプラスミドの安定性を向上させることが可能です。

  • BLR(DE3):B株由来、カナマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性

  • HMS174(DE3):K-12株由来、リファンピシン耐性

  • NovaBlue(DE3):K-12株由来、テトラサイクリン耐性

<標的タンパクのラベリングに推奨されるホスト株>

発現タンパク質のラベルには、35S-Metがタンパク質に確実に取り込まれるメチオニン要求性株B834がおすすめです。

  • B834(DE3):B株由来、耐性抗生物質なし

  • 834(DE3)pLysS:B株由来、クロラムフェニコール耐性

<アニマルフリーなホスト株>

Veggieは、動物由来成分を含まないコンピテントセルです。

以上、pETシステムを用いてタンパク質発現系を構築する際の、ホストとベクターの選び方について解説しました。

これらのポイントを押さえることで、実験の成功や、収量の向上につながることもあります。実験開始前や、実験条件の最適化が必要になった場合には、一度、確認してみるとよいでしょう。