2次元電気泳動とは?原理とメリット・デメリットを解説

2次元電気泳動とは?原理とメリット・デメリットを解説

タンパク質の電気泳動といえばSDS-PAGEです。より詳細な解析をしたいときには、2つの電気泳動を組み合わせた2次元電気泳動があります。ただ、2次元電気泳動で具体的に何がわかるのか、どのような操作が必要なのか、あまり詳しくないという人もいるのではないでしょうか。

そこで、2次元電気泳動の原理メリット・デメリット応用例などを解説します。また、時短につながるオススメ製品、自動2次元電気泳動装置Auto2D®についても紹介しています。

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2次元電気泳動の概要

そもそも電気泳動とは、分離対象が含まれている媒体(溶液)に電圧をかけ、その性質に応じて生体分子等を分離する実験手法のことです。最も日常的に行われているのはDNAの電気泳動ではないでしょうか。タンパク質を分子量の違いによって分離するSDS-PAGEも有名です。これらの手法は、基本的に1つの原理で対象を分離するため、分子は一直線上にバンドとして分離されます。

これに対して、2つの異なる原理で分子を分離して平面上にスポットとして配置する手法を「2次元電気泳動」といいます。1つ目の条件で分子を横方向に泳動し、2つ目の条件で分子を縦方向に泳動することで、分子を2つの性質に基づいて平面的に分離するということです。

2次元電気泳動に対して、SDS-PAGEのように1つの原理で泳動分離することを「1次元電気泳動」とよぶことがあります。1次元電気泳動はDNAやタンパク質などの解析に広く使われますが、2次元電気泳動は一般的にタンパク質を対象にしています。2次元電気泳動を行うことによって、リン酸化のような翻訳後修飾も含めて1000種類以上のタンパク質を一度に分離でき、より詳細なタンパク質の解析が可能になります。

2次元電気泳動の原理

2次元電気泳動では、等電点電気泳動(IEF)とSDS-PAGEによってタンパク質を分離します。

1次元目 等電点電気泳動(IEF)

すべてのタンパク質は、固有の等電点をもっています。等電点とは、分子の電荷が全体としてゼロになるpHのことです。タンパク質の等電点の違いによってタンパク質を分離するのがIEFです(図1)。

IEFでは、泳動するゲルでpH勾配を作る必要があります。pH勾配をもつゲルの作成方法には、両性電解質の混合物に電圧をかける方法と、さまざまな等電点の側鎖をもつアクリルアミド誘導体を使ってゲル中に固定されたpH勾配を作る方法とがあります。後者の方法で作ったゲルをIPGゲルといい、分離能や再現性が高いとしてIEFではよく用いられています。

図1. IEFの仕組み

2次元 SDS-PAGE

IEFによって等電点ごとに分離したタンパク質を、一次元目のゲルごとSDS-PAGEに移行し、さらに分離します(図2)。SDS-PAGEは、ポリアクリルアミドゲルの中でSDSによって荷電したタンパク質を泳動させ、分子量に応じて分離する手法です。

図2. IEFの後にSDS-PAGEを行うことで等電点と分子量の2軸でタンパク質を分離できる

IEFとSDS-PAGEを組み合わせることで、SDS-PAGE単体では不可能な高度なタンパク質分離が可能になり、タンパク質の多様性をより深く理解できるようになるのです。

2次元電気泳動のメリット・デメリット

2次元電気泳動のメリットとデメリットを解説します。

2次元電気泳動のメリット

・1000種類以上のタンパク質を分離できる、高い分解能
・翻訳後修飾の解析に向いている
・比較解析に向いている

2次元電気泳動はタンパク質と等電点と分子量の2つの全く異なる条件で分離するので、分子量の違いだけで分離するSDS-PAGEよりも高い分解能でタンパク質を分析できます。リン酸化等のSDS-PAGEでは分離が難しい翻訳後修飾の違いも反映されるため、プロテオミクス研究において異なる条件の培養細胞や組織におけるタンパク質発現の比較に適しています(図3)。これを利用して、バイオマーカーとなりえる疾患関連タンパク質を探索したり、バイオマーカーを目印として治療効果を検証したりすることができます。

図3 2次元電気泳動では蛍光標識サンプル間の違いが明瞭になる

2次元電気泳動のデメリット

  • 手間がかかる
  • 再現性が低い
  • 1枚のゲルにアプライできるのは1溶液サンプル。蛍光比較解析では最大3サンプル程度

2次元電気泳動はIEFとSDS-PAGEという原理の異なる2回の泳動操作を行うため、必然的に手間と時間がかかります。特にIEFはほぼ1日作業となり、続くSDS-PAGEと合わせると2次元電気泳動は2日がかりの作業になってしまいます(図4)。

図4 2次元電気泳動には通常2日かかり、技術的な難易度も高い

2回の泳動を連続で行うということは、それだけ慣れが必要となり、再現性の低下につながることを意味します。そのため、2次元電気泳動はしばしば「名人芸」や「熟練者の技術」といわれることもあります。

また、2次元電気泳動で1枚のゲルで泳動できるのは、蛍光標識を利用しても最大3サンプル程度であるため、1次元電気泳動に比べるとスループットに劣るという点も2次元電気泳動の特有の欠点です。

以上のメリットとデメリットを考慮して、実験目的に合わせて1次元電気泳動と2次元電気泳動を使い分けることが、タンパク質分析では大切になります。

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2次元電気泳動の応用例:食物アレルギー研究

2次元電気泳動のアプリケーション例として、ここでは食物アレルギー研究への応用を紹介します。

アレルギー反応はIgEによる免疫反応によるものであり、特定のアレルゲンに対するIgEを検出して定量するための手法には放射性アレルゲン吸着試験(RAST)と酵素結合免疫吸着測定(ELISA)があります。しかし、これらの手法ではタンパク質の分離ステップがないため、抗体と食物試料成分間の交差反応により偽陽性となる例があります*1。

これに対して、2次元電気泳動を行ってからタンパク質を免疫検出すれば、より正確にアレルゲンを同定できます(図5)。

図5 ダイズ抽出物の2D-E分離と患者血清を用いた免疫検出
ゲル中の全タンパク質をCBBで染色(A-1,B)
ダイズアレルギー患者の血清を用いて免疫検出を行った(A-2, C)
SDS-PAGEの主要バンドに対応するGly m 6(主要ダイズアレルゲン成分)と考えられるスポットは、約18 kDa(赤色矢印)で検出された

2次元電気泳動を用いて、ピーナッツアレルゲンファミリーをより詳細に分析した報告*2や、天然ダイズと遺伝子組み換えダイズの間でアレルゲンに差がないことを確認した報告*3もあります。このように、食物アレルギー研究において2次元電気泳動が使われています。

自動2次元電気泳動装置Auto2D® のオススメ

2次元電気泳動は、1次元電気泳動では困難なタンパク質解析が可能になります。しかし、手間がかかる、再現性が低いといったデメリットがあるのも事実です。特に、慣れないうちは実験結果にばらつきが出てしまうことも珍しくありません。ある程度慣れたとしても、ゲル作製などにおいて手間がかかることは避けられません。

そこでおすすめしたいのが、自動2次元電気泳動装置であるAuto2D®です。Auto2D®は、ゲル膨潤からサンプル導入、IEF、平衡化、SDS-PAGEまでを自動で行う装置で、通常なら2日間かかる工程が最短約1時間で完了します(図6)。すべての工程が自動化されているため、実験者や慣れの違いによる再現性のばらつきを抑えることができます。

図6 Auto2D®なら2次元電気泳動が約1時間で完結する

従来の方法よりも必要なサンプル量が少なくて済み、ゲルのサイズは小さいながらもリン酸化シフトを検出できるほどの高い分解能を有しています。

また、実験がうまくいかなかった場合には、電流電圧モニタリングを確認することで、失敗した原因を調べて対策をとることができます(図7)。専門的な知識がなくても簡単にトラブルシューティングができるのです。

図7 電流電圧モニタリングによるトラブルシューティング

まとめ―無料Auto2D®カタログ―

2次元電気泳動は翻訳後修飾を含めた、より詳細なタンパク質解析に向いた実験手法です。しかし、技術の習得が難しい上、実験に2日間近くかかるという欠点があります。その欠点を補うのが、自動2次元電気泳動装置であるAuto2D®です。高度なトレーニングは不要で、わずか1時間程度でタンパク質を高い分解能で分離します。

▼こんな方にオススメ

  • タンパク質のより高度な比較解析に取り組みたい
  • 2次元電気泳動にかかる手間を省きたい
  • 再現性のばらつきに不安がある

以下のページにAuto2D®のカタログがございますので、お気軽にダウンロードください。

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<References>

*1 De Angelis M, et al. Electrophoresis. 2010 Jul;31(13):2126-36.
*2 Mamone G, et al. Food Res Int. 2019 Feb;116:1059-1065. 
*3 Batista R, et al. Int Arch Allergy Immunol. 2007;144(1):29-38. 

関連リンク

Auto2D®自動2次元電気泳動装置プロトコル

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