用途に合わせたTrueGel3Dの選び方
各成分の化学的な特長
3D(三次元)培養は細胞が立体的に増殖可能で、従来の二次元的な細胞培養(2D)に比べてより生体内に近い構造で研究することができるため、再生医療、薬物動態、細胞相互作用の研究への利用が期待されています。3D培養を行う際の「足場」には、様々な支持体が選択肢となりますが、その一つに、Sigma-AldrichのTrueGel3D™が挙げられます。
この記事では、TrueGel3Dにおける各成分の化学的な特長と、用途に合わせたキットやオプションの選び方について解説します。
ポリマーとチオール反応性基
ポリマーはTrueGel3Dの骨格となる成分です。TrueGel3Dハイドロゲルシステムは、合成された非分解性ポリビニルアルコール(以下、PVA)または酵素分解性デキストランという2種類のポリマーのいずれかを使用します。どちらのポリマーも、速いチオール反応性基または遅いチオール反応性基のいずれかで機能が付与されます。速いチオール反応性基は数分以内にハイドロゲルが形成され、遅いチオール反応性基はゆっくりとハイドロゲルが形成されます。
ポリマー(PVAおよびデキストラン)は不活性で細胞に接着しません。ただし接着ペプチドや細胞外マトリックスなどの生理活性物質と結合することで、細胞とポリマーの接着を可能にし、生理的条件を模倣することができます。
クロスリンカー
クロスリンカーは両端にあるチオール基でポリマー上のチオール反応基と結合することによってポリマー鎖を連結し、ゲルを形成します。TrueGel3DのクロスリンカーにはPEG非細胞分解性クロスリンカーと細胞分解性(cell-degradable:以下、CD)クロスリンカーの2種類があります。
PEG非細胞分解性クロスリンカーは各末端にチオール(SH)基を有するポリエチレングリコールで構成されています。CD細胞分解性クロスリンカーはPEGクロスリンカーに類似していますが、マトリックスメタロプロテアーゼ(以下、MMP)による切断部位を持つペプチド配列を含んでいます。CDクロスリンカーおよび細胞接着分子を含むゲルである場合、CDクロスリンカー上のMMP切断部位を切断することで、細胞の拡散と移動が可能になります。
チオール基(クロスリンカー上)とチオール反応性基(ポリマー上)のモル濃度(1.8 mmol / Lから開始)を合わせることで最良なゲル形成を行うことができます。また、より高濃度のチオール基とチオール反応性基を用いると、より固いゲルが形成可能です。
反応速度の制御
反応速度は水素イオン濃度(pH)によって制御されます。より低いpH(酸性環境)では、脱プロトン化チオレートアニオンはチオール反応性基とゆっくり反応し、ポリマーとクロスリンカー間のネットワーク形成が遅くなります。ゲル化時間の最適化を助けるため、キット中のバッファー溶液(pH5.5および7.2)を混合して中間のpHを生成することができます。どちらのバッファーもpHを容易にモニターするためにフェノールレッドを含んでいます。
スフェロイド形成や共培養モデルのような多くのアプリケーションの場合、予め最適化されたキット(カタログ番号TRUE1-1KT)をおすすめします。このTRUE1-1KTはArg-Gly-Asp(以下、RGD)ペプチド付与済みのデキストランポリマーと、CDクロスリンカー、溶解用バッファーおよび水で構成されています。このハイドロゲルはTrueGel3D酵素細胞回収液(カタログ番号TRUEENZ-500UL)を使用して細胞回収を行うことができます。
キットやオプションの選び方
TrueGel3Dには、様々なキットとオプションがあるので、用途に合わせて選択できます。
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速く固まるゲルとゆっくり固まるゲル
実験を急ぎで進める場合は、速く固まるゲル、時間をかけて行いたい場合はゆっくり固まるゲルがおすすめです。デキストランとPVA、どちらのポリマーにも速いタイプとゆっくりのタイプがあります。
<ゲルの固まる速度と適したアプリケーションの例>
・Slow(10分以内):マイクロチャンネル、インジェクション用シリンジ、ゲル剛性試験、硬質ヒドロゲル
・Moderate(4分以内):腫瘍-間質共培養、スフェロイド形成、シスト・腺房形成
・Fast(1分以内):迅速な培養条件、大きな組織サンプルの埋め込み
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細胞とマトリックスの相互作用をもたらすRGDペプチド
顕微鏡検査用の細胞または組織の固定化などのアプリケーションでは、TrueGel3Dキットに追加のオプションは不要です。細胞の接着と拡散にはTrueGel3D RGDペプチドが必要です(CDクロスリンカーの存在も細胞の拡散に必要です)。また、成長因子、ヘパリンまたは細胞外マトリックス(ECM)タンパク質(例:フィブロネクチンまたはコラーゲン)などの他の細胞成分をハイドロゲルに加えることもできます。
なお、成長因子は、成分によってゲル内に留まらない物質があるので、その場合は培地に添加する必要があります。
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3D培養中に細胞を自由に移動させられるクロスリンカー
細胞の移動、走化性や細胞間の相互作用を3Dゲル内で観察したい場合はMMP切断が可能な配列を付属させたクロスリンカーがおすすめです。ゲル形成後にMMP配列を切断することで、ポリマーの連結を担うクロスリンカーが切断され、細胞が自由に移動できるようになります。
なお、すべてのMMPがCDリンクを切断するとは示されていません。CDリンクは、Pro-Leu-Gly-Leu-Trp-Alaの配列を含み、少なくともMMP1、MMP3、MMP7およびMMP9によって切断されることが知られています。
クロスリンカーの種類 クロスリンカーの特徴 対応するTrueGel3Dキット PEG 安定で切断不可能
=培養中に細胞を移動させない(固定する)TRUE2,5,6,9 CD 細胞由来のMMPで切断可能
=培養中に細胞が自由に移動できるTRUE1,3,4,7,8 -
3D培養後に細胞を回収可能なゲル
TrueGel3Dゲル内で3D培養した後に、細胞を回収したい場合はデキストランベースの製品がおすすめです。デキストランベースのポリマーで形成したTrueGel3Dゲルは専用の酵素で分解可能です。PVAベースのポリマーで形成したTrueGel3Dゲルから細胞を取り出すことはできません。
ポリマーの種類 ポリマーの特徴 対応するTrueGel3Dキット PVA 安定で分解不可能
=ゲルから細胞を回収しないTRUE4,5,8,9 デキストラン 専用酵素(製品番号TRUEENZ)による分解が可能
=ゲルから細胞を回収できるTRUE1,2,3,6,7
用途 | TRUE1 | TRUE2 | TRUE3 | TRUE4 | TRUE5 | TRUE6 | TRUE7 | TRUE8 | TRUE9 |
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スフェロイド(マトリクスと増殖が影響しない場合) | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | |||||
スフェロイド(マトリクスが増殖に影響する場合) | ✔* | ✔* | ✔* | ✔* | |||||
細胞移動/浸潤アッセイ* | ✔ | ✔* | ✔* | ✔* | ✔* | ||||
腺房および上皮シスト形成* | ✔ | ✔* | ✔* | ✔* | ✔* | ||||
腫瘍-間質共培養 | ✔ | ✔* | ✔* | ✔* | ✔* | ||||
基質剛性が細胞生理学や行動に影響を及ぼす場合 | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | |||||
細胞および組織の固定化(培養後に回収する場合) | ✔ | ✔ | |||||||
細胞および組織の固定化(培養後に回収しない場合) | ✔ | ✔ | |||||||
細胞相互作用のない物理的な障壁として用いる場合 | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | |||||
マイクロチャネルの使用 | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | ||||
シリンジの充填 | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | ||||
2週間以上の安定した長期培養(細胞の回収を行わない場合) | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | |||||
細胞の回収してその後、免疫染色などの実験に用いる場合 | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ | ✔ |
*オプションとして別売のTrueGel3D RGD adhesion peptideの添加が必要
以上、TrueGel3Dにおける各成分の化学的な特長と、用途に合わせたキットやオプションの選び方について解説しました。各成分の役割や特長を理解し、用途に合ったキットやオプションを選択しましょう。
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