3次元細胞培養技術の種類とその特徴
3次元細胞培養技術の選択
3次元細胞培養は従来の2次元的細胞培養に比べ、in vivoの生理学的環境により近く、優れたモデルとして注目されています。
3次元細胞培養においてどの技術を選択するかは、細胞自体の特性(細胞株、初代細胞、由来組織)あるいは研究の最終目的といった複数のパラメータに基づいて選択する必要があります。したがって、まずこれらのパラメータを評価することが大切です。
3次元細胞培養技術には様々な手法があり、スキャフォールド型とスキャフォールドフリー型に大別されます。この記事では、それぞれの型の概要と、これからの3次元細胞培養技術の展望と期待について解説します。
スキャフォールド(足場)型技術
足場型技術では、細胞は支持体の存在下で培養されます。主にハイドロゲル支持体と高分子性硬質材料支持体の二種類の支持体を用いることが可能です。
ハイドロゲル支持体で用いられるハイドロゲルとは、定義に従えば、満遍なく水で膨潤した高分子化合物の網目構造を指します。培養される細胞は、こうしたハイドロゲル中に包埋処理されていることもあれば、単純に表面をコーティングされていることもあります。ハイドロゲルは、高分子化合物の特性によって、細胞外基質(以下、ECM)タンパク質系ハイドロゲル、天然ハイドロゲルおよび合成ハイドロゲルなどのクラスに分類されます。
高分子性硬質材料支持体では、細胞は、繊維状またはスポンジ状の構造体の存在下で培養されます。培養する細胞は平面上に播種されていないために、より生理学的環境下に近い形状になります。支持体としては、ポリスチレン(透明性があるので画像解析用に適している)だけでなく、生分解性のあるポリカプロラクトンなどの素材が用いられます。
特性 | ECM系ハイドロゲル (ラミニン、コラーゲン、ECMゲル) |
天然ハイドロゲル (HyStem™) |
合成ハイドロゲル (TrueGel3D、HydroMatrix™) |
高分子性硬質材料 (3D Biotek挿入型足場材、Cellusponge、ゼラチン製足場) |
---|---|---|---|---|
生物学的関連性 | +++ | +++ | +/- | +/- |
安定性および再現性 | - | ++ | +++ | +++ |
コンタミネーションのリスク | - | ++ | +++ | +++ |
モジュラリティおよびカスタマイゼーション | - | + | ++ | - |
細胞の回収 | +/- | + | ++ | +++ |
下流での解析(画像解析、分子解析) | + | ++ | ++ | ++ |
HTSまたはHCS解析 | +/- | +/- | + | - |
適正) +++ = 高、++ = 中、+ = 低、- = 不適、+/- = 足場の構成素材によって異なる
スキャフォールドフリー型技術(スフェロイド形成)
スキャフォールドフリー型技術では、細胞が凝集してスフェロイドと呼ばれる非接着性の細胞凝集塊を形成します。スフェロイドは、独自のECMを分泌し、特異的な栄養素を利用することによって組織のような挙動を示します。スキャフォールドフリー型技術によって培養されたスフェロイドは形状や大きさが一定しており、ハイスループットスクリーニングを行う場合に優れたin vitro細胞モデルとなります。
スフェロイドを生成するには、専用のプレートから統合されたシステムまで、様々なプラットフォームを用いることができます。下表に、これらの技術の特性をまとめます。
特性 | 低接着性マイクロプレート (コーニング®社製スフェロイドプレート) |
微小流体力学システム (CellASIC ONIXグラジエントプレート) |
バイオリアクター (コーニング®社製スピナーフラスコまたはローラーボトル) |
---|---|---|---|
長期間培養 | ++ | +++ | +++ |
細胞の回収 | +++ | - | +++ |
画像解析 | +++ | +++ | - |
費用対効果 | ++ | - | - |
HCSまたはHTS解析 | +++ | - | + |
適正) +++ = 高、++ = 中、+ = 低、- = 不適
3次元細胞培養技術のこれから
3次元細胞培養が進化することによって、in vitro実験とin vivo実験のギャップを解消できるという利点があり、細胞をin vitroで扱いながらin vivo環境を反映した結果を得ることができるようになります。その結果、実験動物の使用に関する倫理的な問題を回避できることから、3次元細胞培養技術は研究者の間でますます人気が高まっています。一方で、3次元細胞培養を行うために適切なシステムを選択することが肝要です。
今後は、さらに複雑で高度な技術が開発されるでしょう。例えば、3次元プリントの技術をもとにした3Dバイオプリンティングは、生体材料および生存細胞のプリントに役立ちます。皮膚移植に際して、従来手法の特徴であった皮膚片を得るための二次的な損傷を回避できるという点から、3Dバイオプリンティングは広範な医療分野で応用することが可能です。
3Dバイオプリンティングの主要な要素となるバイオインク、スキャフォールド(足場)材料、生体材料などに関しては、いずれも自然科学の領域では既に広く認知されています。これらの要素をうまく使うことにより、生理学的環境を再現するような組織を開発することが可能となります(Zhu, Ma, Gou, Mei, Zhang and Chen, 2016)。こうした技術は未だ初期の開発段階にありますが、将来、創薬や毒性試験において不可欠なツールへと進化していくことが大いに期待されます。
以上、3次元細胞培養技術の種類とその特徴、そして今後の展望について解説しました。細胞の特性や目的に合わせて、適切な手法・道具を選択し、研究に活用していきましょう。
参考文献
Zhu, W., Ma, X., Gou, M., Mei, D., Zhang, K., and Chen, S. (2016) 3D printing of functional biomaterials for tissue engineering. Curr. Opin. Biotechnol. 40, 103–112.
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