コツは「素早く解凍」。適切な細胞融解の手順
凍結細胞を適切に融解しよう
ECACCなどから入手する細胞の多くは凍結された状態で送られてきます。そのため細胞は使用する前に凍結から起こす必要があります。この際、細胞の融解を適切に行うことにより、その後の細胞の生存率や状態が格段に向上します。この記事では、細胞の適切な融解方法とポイントを紹介します。なお、チューブのサイズや手順の詳細は各研究室のプロトコールなどを参考にしてください。
細胞融解の概要
まずは細胞融解のおおまかな流れを確認し、ポイントをおさえておきましょう。
- データシートを読んで細胞の取り扱い方法を確認する
- 温めた培地とフラスコを準備する
- 細胞の準備をする
- 細胞を融解する
- 温めた培地で細胞を希釈する
- 適切な温度でインキュベートする
- 細胞を24時間後に観察する
細胞融解に必要なもの
次に必要な機器、試薬は以下の通りとなります。
- 上述の細胞に最適な温度に温められた培地(細胞に添付されているデータシートを参照)
- 70%エタノール
- トリパンブルー
- 個人保護用具(ラボ手袋、ラボコート、保護めがね等)、液体窒素タンク用の皮手袋など
- 凍結バイアルを運ぶためのコンテナー(発泡スチロールのケースなど)
- 適切な温度(通常は37℃)に温められたウォーターバス
- インキュベーター
- 培養用フラスコ(T-75など)とラベル
- 倒立顕微鏡、相位差顕微鏡
- 血球計算盤(ヘモサイトメーター)
- 遠心分離機
- マーカーペン
- 駒込ピペット
- バイアルを立てるラック
細胞融解の手順
具体的な融解の手順は以下の通りです。注意事項にも触れているので、ぜひ熟読してください。
- データシートの確認
入手した細胞の培養条件を理解するため、添付のデータシートを必ず読みましょう。
- フラスコの準備
フラスコに継代数、細胞名、ロットナンバー、日付を記録したラベルを貼ります。
- 凍結チューブを取り出す
細胞の入った凍結チューブを液体窒素タンク、もしくはドライアイスから取り出します。凍結チューブを取り出すときは各研究室の手順に従い、適切な防護(皮手袋など)をしてください。
- 液体窒素の除去
凍結チューブ内には液体窒素が侵入していることが少なくありません。液体窒素から出したチューブのキャップを4分の1回転ほどして、プラスチックの広口ビンなどにすばやく入れて様子を見ましょう。音が出ないようならキャップを締め直します。
- 細胞の融解
液体窒素が消えたらなるべく急速に解凍するために、ピンセットで凍結チューブのフタ部分を保持して37℃のウォーターバスにつけます。凍結した液の少し上くらいまでをウォーターバスに浸し、フタのパッキング部分まで浸らないように注意してください。チューブをウォーターバス内で動かし、均一にチューブ内が急速に温まるようにします。内部の凍結液が融けてきたらチューブを静かに振り混ぜ速やかに融けるようにします。この手順は細胞のダメージを避けるためになるべく迅速に行いましょう。
- 表面を拭く
開封する前に凍結チューブ表面をアルコール綿でよく拭きます。
- 細胞の希釈
滅菌した駒込ピペットを使い、凍結チューブの中身を滅菌されたチューブ(15 mLサイズ程度)に移します。移したチューブに温めておいた培地(5 mL)を静かに加えます。細胞懸濁液を100〜200 μLほど取り出してトリパンブルーなどで染色し、血球計算盤を用いて細胞密度を測ります。細胞に添付されているデータシートに記載された適切な細胞密度にするため、細胞懸濁液をT-75などのフラスコに移します。
<接着性細胞株の場合>
添付されているデータシートに推奨された細胞密度になるように、フラスコ内に温めた培地を加えます。凍結保護剤などを取り除くための遠心分離ステップは、最初に培地を交換する際に一緒に出来るので特に必要ありません。ただし、すぐに細胞アッセイなどに使用する場合は、保護凍結剤を取り除くステップが必要になるかもしれません。製品添付のデータシートを参照してください。
<浮遊性細胞株の場合>
凍結保護剤を取り除くための遠心分離ステップが推奨されます。ペレット状になった細胞を150 × gで5分間遠心分離機にかけ、適切な細胞密度(データシート参照)になるよう、新しい培地で再懸濁させます。
- 細胞のインキュベート
データシートに記載された適切な温度と二酸化炭素レベルで、細胞をインキュベートします。CO2インキュベーターを使用する場合、フラスコは標準的な開放系培養用のキャップを使用してください。
- 細胞の状態を確認
細胞の状態を約24時間後に顕微鏡で確認し、必要に応じてサブカルチャーします。
細胞融解の注意点とポイント
一般的な教科書等には凍結保護剤を取り除くためのステップが記載されていますが、このステップは凍結保護剤に感受性の強い細胞の場合だけで構いません。例えばDMSOなどに感受性の強い細胞の場合は、15 mL遠心チューブに入れた新しい培地10 mLに融解した細胞を加え、100 × gで5分間遠心し、上清を除去します。その後、新しい培地15~20 mLを加えたT-75のフラスコに細胞ペレットを移し、インキュベートします。
融解された細胞懸濁液に培地を加えることにより、凍結保護剤(DMSOなど)の細胞に対する毒性を軽減させることが出来ます。融解させた細胞懸濁液をすぐに培地に入れるのはこのためです。融解した細胞をそのまま室温におくのは避けましょう。
細胞を融解させる時にインキュベーターを使用したり手で温めたりするのは避けましょう。ゆっくり融解した場合、細胞の生存率に影響が出る場合があります。プロトコールに沿ってウォーターバスで温めてください。
もしCO2インキュベーターが使用できない場合は、5% CO2含有のエアを0.2 µmフィルターでろ過滅菌したもので、1~2分間ガス交換してください。
培養する際には、細胞がコンフルエント(細胞が培養器面を覆っている状態)になる前に継代しましょう。こうすることで、細胞が対数増殖期の一番良い生存状態で継代することができます。細胞の種類によってはコンフルエントに達する前に必ず継代する必要があります。一例として、NIH 3T3細胞はコンフルエントに繰り返し達した場合、コンタクトインヒビションによって細胞増殖が大幅に失われることがあります。
一部のハイブリドーマのように回復が遅い細胞は、20%(v/v)FBSと10%(v/v)コンディションドメディウムを培地に加えて培養するとよいでしょう。
以上、細胞融解の正しい手順と注意点について解説しました。基本的な操作を適切に行うことは、実験の効率や成否に大きく影響します。特に、実験操作に慣れてきた頃合いは手順が適当になり失敗しがちなので、ときどき注意点を読み返しておさらいするようにしましょう。
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