細胞培養を始める前に。守るべき注意点と無菌テクニック

細胞培養を始める前に。守るべき注意点と無菌テクニック

細胞培養における基本的な注意点

細胞培養の基本操作には、コンタミネーションを防ぎ安全に実験を進めるために、やるべきこととやってはいけないことがあります。他の研究領域にも適用される一般的な事項だけでなく、細胞培養特有の注意点も。この記事の前半では、そうした細胞培養の基本操作についての注意点を解説。実験環境の管理や材料の保管を正しく行うことは、自分の研究のためだけでなく、他のラボメンバーに迷惑をかけないためにも重要です。しっかりと読み込み、ぜひ実験に役立ててください。

また、記事の後半では、細胞培養における無菌テクニックについても触れています。バクテリア、真菌、マイコプラズマなどによるクロスコンタミネーションを防ぐために必要な注意点についてまとめているので、こちらも参考にしてみてください。

細胞培養でやるべきこと

まずは実験者自身の服装について確認します。実験室では必ず、自分を保護するための安全基準を守りましょう。PPE(白衣、ラボ手袋、保護めがね)は必須です。特に液体窒素を扱うときには、専用の断熱手袋、フルフェイスバイザー、防沫エプロン、手袋を使用するなど、各研究室で定められたルールを守りましょう。また、髪の毛によるコンタミを防ぐため、長い髪の毛は結ぶ、キャップをかぶるなどの対策をするとよいでしょう。

空気中の雑菌等を避けるためにも通常の実験と組織培養用の白衣、履物は別にし、培養室の環境にコンタミさせないようにしましょう。色違いの上着や白衣を使用すると区別が容易になります。

次に、実験環境の準備についてです。クリーンベンチの周りや作業台など細胞を取り扱う場所の周りは常に清潔に。細胞培養を行っている区域に、段ボールなどの包装をなるべく置かないようにしましょう。インキュベーター、クリーンベンチ、遠心分離機や顕微鏡などは定期的にチェック、洗浄し清潔に保つよう心がけてください。ウォーターバスは、SigmaClean®などで定期的に洗浄しましょう。

試薬、フラスコ、培地など使用する材料は、中身が全て明確になるようにラベルやマーカーで日付、中身を記載しておきます。また、使用する培地や試薬は、使用前に必ず品質をチェック。培養培地は、細菌やカビによるコンタミの兆候がないか、毎日点検しましょう。市販の培地を購入した場合もこの点検は必ず行います。

細胞に直接接する培養器や培養器具、培地などは、微生物のコンタミを防ぐためにすべて無菌的である必要があります。したがって、使用する全ての物品を滅菌、もしくは消毒しなければなりません。

一般的に消毒に使用されるアルコールの有効濃度はエタノールの場合70%、イソプロパノールの場合60~70%程度で、脱水と固化により消毒を行います。エタノールはほとんどのウィルスに有効(被膜がないウィルスには不適)、イソプロパノールはウィルスには有効ではありません。

滅菌は主に三種類あり、オートクレーブ滅菌、乾熱滅菌、ろ過滅菌が代表的な方法です。

続いて、実際の操作にあたっての注意点です。一度に1種類の細胞株だけを扱うようにしましょう。そうすることで、クロスコンタミネーションや誤ったラベリングのリスクを減らすことができます。また、クリーンベンチ内でエアロゾルによる細菌やマイコプラズマの拡散が起きた場合に、影響を受けるボトルやフラスコが少なくなります。

操作の合間には作業面を適切な消毒剤(70%エタノールなど)で消毒し、異なる細胞株を取り扱う際には15分以上の間隔を置きましょう。なお、培養中は各細胞株の培地ボトル同士を可能な限り離して置きます。細胞のマイコプラズマ感染の検査は定期的に実施してください。

細胞培養でやってはいけないこと

細胞培養で避けるべきことは以下の通りです。

まず、培地中に抗生物質を連続して添加するのはなるべく避けましょう。抗生物質耐性菌が発生しやすくなり、コンタミが見分けにくくなります。それから、廃棄物は毎回処理し、インキュベーターやクリーンベンチ内に廃棄物を残さないようにしましょう。

空気中の雑菌を避けるため、一度に多くの人数が実験室に入らないように配慮することもポイント。このほか、出所が定かでない細胞は、メインの細胞培養室内では取り扱わないようにします。これらの細胞は、品質管理チェックが終了するまで隔離して取り扱いましょう。

培養細胞が100%コンフルエントになるのも好ましくありません。細胞培養が100%コンフルエントになることも避けましょう(コンフルエント:細胞が培養器面を覆っている状態)。常に70~80%コンフルエントにするか、または細胞に添付されているデータシートに従って培養しましょう。

最後に、使用期限の切れた培地は使わないようにしましょう。培地の使用期間は通常4~6ヶ月(4℃保存、グルタミン、血清含有の場合)程度です。

コンタミを防ぐ無菌テクニック

次に、バクテリア、真菌、マイコプラズマなどからのクロスコンタミネーションを防ぐための標準的な注意点について解説します。研究室ごとに特有の手順もあるため、詳細は各研究室のプロトコールなども参考にしてください。

必要な機器、試薬

  • 70%(v/v)エタノール
  • クレゾール石鹸液
  • 適切な殺菌剤

<作業前の注意点>

  • 全ての作業の前にクレゾール石鹸液などでよく手を洗いましょう。
  • 70%エタノールを用いてクリーンベンチをよく清拭します。
  • ラボ手袋も70%エタノールを吹きかけて擦りあわせます。
  • 作業を始める前に、すべての材料と器材をクリーンベンチに入れます。70%エタノールでクリーンベンチの器材や、細胞培養に使用する器具(培地ビン、ピペット等)を拭いてください。

<作業中の注意点>

  • クリーンベンチ内で作業している間はベンチ内にあるもの以外(特に顔と髪)に触れないようにしましょう。もし触れてしまった場合は70%エタノールを手袋に吹きかけてよく擦ってください。
  • クリーンベンチ内での作業はあせらずに、ゆっくり行いましょう。ゆっくり行うことでクリーンベンチ内の空気を循環させることができます。
  • おしゃべり、くしゃみやせきは、クリーンベンチ前では厳禁です。

<作業後の注意点>

  • 培養に使用したラボ手袋はコンタミネーションを防ぐためにも廃棄しましょう。
  • すべての器材と試薬はクリーンベンチから取り出す前に滅菌します。作業台も70% エタノールで拭きましょう。
  • アスピレーターで吸った培地などは、殺菌液を含んだトラップに回収し、その他の器具、溶液なども回収して、オートクレーブで滅菌してから洗浄するか廃棄してください。
  • 定期的に殺菌剤でクリーンベンチ内をきれいにするか、メーカー指導に従って清掃しましょう。

以上、細胞培養における注意点と、細胞培養前の無菌テクニックについて解説しました。細胞培養は注意すべき点が多く、敷居が高く感じられるかもしれませんが、基本をきちんと守ればそれほど難しい作業ではありません。ひとつひとつの操作、留意点を確認しながらていねいに実験を進めましょう。