コンタミネーションを防ぐ!無菌操作の基本と注意点
無菌操作
細胞培養において最も重要なのは、細胞以外の細菌、真菌、マイコプラズマなどの微生物によって細胞が汚染(コンタミネーション)されるのを防ぐことです。実験室の空気中、実験台の上、実験者の手指や口腔内には様々な微生物が存在します。これらの微生物は細胞よりも速く増殖し、培地内の栄養を奪ったり有毒物質を出したりして、目的の細胞を死滅させてしまうこともあります。これらのコンタミを防ぎ、目的とする生物材料(細胞など)のみを培養するために行う操作を無菌操作といいます。
この記事では、無菌操作の概要と注意点について解説します。
培養材料・培養機器の準備
まずは、無菌操作を行う環境に汚染源を持ち込まないよう、材料や機器の準備をします。
培養に使う培地や試薬類、機器や容器は全て滅菌されたものを使用しましょう。滅菌には電気オーブンを用いた乾熱滅菌や、高圧蒸気を用いたオートクレーブ(高圧蒸気滅菌)、メンブレンフィルターを用いたろ過滅菌などの方法があります。
ガラス製のピペット(メスピペット、駒込ピペット、パスツールピペット)は、ピペット缶に詰め、乾熱滅菌を行います。この際、ピペットに綿栓をしておくと微生物汚染の割合を減らすことができます。綿栓には脱脂綿ではなく、水を弾く布団綿を使用します。マイクロピペット用のチップは専用ケースに詰め、アルミホイルで包んでオートクレーブ滅菌します。オートクレーブ直後のチップには水滴が付着しているため、十分に乾燥させてから使用しましょう。
培地や試薬は滅菌処理後、完全に滅菌されていることを確認するため、滅菌チェックを行います。培地の場合は少量の培地と血清を、試薬の場合は試薬と血清入りの培地を、透明なチューブや35 mmディッシュに入れて37℃インキュベーターで3日前後静置します。コンタミネーションしている場合には培地が濁るので、廃棄して新たに調製し直します。
上記の滅菌方法が使用できない場合には、70%エタノールやオスバン、5%ヒビテン液を使った消毒を行います。器具や試薬をクリーンベンチ・安全キャビネットに持ち込む際には70%エタノールやオスバンに浸したガーゼで外側を拭いてから入れましょう。エタノールを使用した直後は、引火の可能性があるので、ガスバーナーの使用には十分注意してください。
実験者の準備
実験者自身も微生物を持ち込む要因となるため、きちんと身支度をしてから操作を行いましょう。爪は短く切り、長い毛髪は縛ってまとめるか帽子の中に入れます。手指および肘を石けんでよく洗い、70%エタノールやオスバンで消毒します。また、爪や手指の皺によって消毒が十分でなかったり、手指に傷があったりするとそこに微生物が残っている可能性があるため、使い捨てのラテックス手袋を着用するといいでしょう。手袋は、検体から実験者への病原体感染といったリスクを減らすのにも有効です。
クリーンベンチと安全キャビネット
無菌操作は、クリーンベンチや安全キャビネット(クラスⅡまたはⅢ)など、無菌環境下で行います。いずれもHEPAフィルターと呼ばれる高性能フィルターを通した空気を装置内に送り、装置内部を無菌状態にして作業することができますが、仕組みや特徴が異なるため目的や材料に合わせて使い分けます。
クリーンベンチは庫内を陽圧にし、装置の外からの微生物混入からサンプルを保護します。給気にはフィルターがありますが排気にはないため、内部試料が漏出する恐れがあり、遺伝子組み換え生物や病原体の扱いには不適です。一般的な無菌操作にはクリーンベンチで問題ありません。
安全キャビネット(クラスⅡまたはⅢ)は陰圧で、給気にも排気にもHEPAフィルターを通します。そのため、庫内を無菌状態にするだけでなく、装置内部の微生物が空気中に漏れ出ることを防ぎ、組み換え生物や病原体の取り扱いにも使用できます。
無菌操作の流れ
クリーンベンチや安全キャビネットを使用する際には、使う0.5〜1時間前に殺菌灯をつけ、使用前に消します。殺菌灯の紫外線は強い殺菌効果がありますが、ヒトや細胞にも有害であるため、作業前には必ず消灯し、殺菌灯を直視しないようにしましょう。ドアを少し開けて、5〜10分程度ファンを回し、70%エタノールやオスバンなどの消毒剤でベンチの内部を拭いてから無菌操作を始めます。操作中、ドアを開ける高さは25 cmまでにとどめましょう。
培地や試薬、器具を持ち込む場合は、表面を消毒剤で拭いてからベンチに入れます。培地ビンやピペット缶のフタを開ける際には、ビンや缶の口から微生物が混入する可能性があるため、フタの周りを火炎滅菌してから開けます。
ベンチ内に侵入した微生物や埃が試薬や培地に落下し、混入するのを防ぐため、ガスバーナーやアルコールランプをつけて上昇気流を作ります。試薬瓶や培養ビン、培養ディッシュを開けたまま放置しないことや、フタが開いたものの上に手や器具をかざさないことなども重要です。
無菌操作が終わったら、使い終わった試薬や器具を消毒剤で拭いてから外に出し、庫内を消毒剤で拭きましょう。ドアを閉め、ファンの運転を止め、殺菌灯をつけます。殺菌灯の紫外線はプラスチックを劣化させるため、つけっぱなしにせず、1時間ほどで消灯するのが良いでしょう。
コンタミネーションへの対策
コンタミネーションは大きく分けて、細菌・真菌類によるコンタミ、マイコプラズマやウイルスによるコンタミ、他の細胞との交差汚染(クロスコンタミネーション)の3種類があります。
細菌・真菌類によるコンタミネーションは、培地が濁ったりpHの変化によって色が変わったりするため、目視または鏡検による判別が可能です。しかし、マイコプラズマやウイルスによるコンタミやクロスコンタミネーションは目視や鏡検による判別が難しく、汚染に気づきにくいため、定期的に汚染検査を行うと良いでしょう。
また、クロスコンタミネーション(別の細胞が混入すること)やサンプル間の感染を防ぐため、ベンチ内に2種類以上の細胞を同時に持ち込むことは避け、培地や試薬は細胞1種類につき1組ずつ用意するようにしましょう。
汚染が発覚した場合には速やかに廃棄し、他への感染拡大を防ぎます。
以上、無菌操作の概要と注意点について解説しました。コンタミネーションは確実な滅菌と無菌操作の習熟によって、ある程度予防することができます。各手順の意味をよく理解し、注意深く操作を行うよう心がけましょう。
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