シンプルかつスピーディー!限外ろ過によるタンパク質分画の方法
限外ろ過がタンパク質分画の「不便」を解決する
血液中のバイオマーカー探索などで解析をする際に、あらかじめサンプルを分画することがよくあります。従来ですと、サイズによるタンパク質溶液の分画はゲルろ過クロマトグラフィーによって行われていたのですが、以下のような不便な点がありました。
- サンプル量が限定される。
- 手間と時間がかかる。
- タンパク質が最初の濃度に比べてかなり希釈されてしまう。
ところが、これらの不便な点を一挙に解決する方法があります。「遠心式フィルターユニット(限外ろ過)」の利用です。
それでは、この限外ろ過を用いたタンパク質の分画の実例を見ていきましょう。
限外ろ過を用いたタンパク質の分画
以下、限外ろ過ユニットを用いた血清からの低分子量および高分子量分画の例を紹介していきます。
バイオマーカー分析のために質量分析をする際に、あらかじめ限外ろ過で血清タンパク質に含まれる大量の不純物を低減することが、低分子量(10 kDa未満)画分の調製に有効なことが分かっています。
<方法>
血清にチトクロムcを混合したものをサンプルとして、図1に示すように、NMWLを段階的に小さくしながら連続的にろ過を行います。まずAmicon Ultra-4(NMWL:100 kDa)を用いて 1500×gで40分間遠心。次に、ろ液をさらに、Amicon Ultra-4(NMWL:50 kDa)に入れて30分間遠心。最後にそのろ液をAmicon Ultra-4(NMWL:30 kDa)に入れて30分間遠心します。
<結果>
連続的な分画により、図2に示すようにサンプルを薄めることなく分画できたことがわかります。赤色、青色および水色のラインはおおよその分子量範囲を示し、MWCO理論値(分画できる分子量の目安)を表しています。また、色つきの点線の枠はNMWLごとの「タンパク質画分」です。
限外ろ過による連続分画と直接分画の比較
連続的な分画により、タンパク質の分画が効果的に行えることがわかりました。図には示していませんが、小さいNMWLのユニットを直接使用するよりも効率的に精製が行え、高スループット化につながりました。
図3に連続分画と直接分画の比較を示します。
図3の右はAmicon Ultra-4(NMWL:30 kDa)による50% ウシ成獣血清の直接的な分画の結果になります。1500×gで2時間以上遠心することで、8倍濃縮を達成しました。
30 Kユニットを通ったろ液を、10 Kユニットで濃縮したところ(R10)、図3左に示す連続法では12 kDa以下の未知のタンパク質が精製されましたが、直接分画する方法では12 kDa以上の高分子量タンパク質の混入が起こり、うまく精製されていませんでした。この結果から、未知サンプルや高度濃縮サンプルの分画には連続分画のほうが適していることが分かります。
分画における再生セルロース製膜とPES製膜の比較
分画には、再生セルロース製膜(ブランド名:Ultracel)のほうが、分画に用いられるポリエーテルスルホン(Polyethersulfone:PES)製膜より優れていることがわかりました。
チトクロムc(1 mg/mL)および 155 kDa IgG(0.1または1.0 mg/mL)を含むニ成分混合物を、NMWLが100 Kのユニットで遠心し、ろ液中のチトクロムc回収率を測定した結果を図4に示します。ユニットに高レベルの IgG(1.0 mg/mL)を加えた場合、Ultracelでは有意に高いチトクロムcの回収率が認められました。
以上、限外ろ過を用いたタンパク質の分画を紹介しました。限外ろ過を上手に活用することで、シンプルかつスピーディーにタンパク質を分画できます。ぜひ限外ろ過を選択肢に入れてみてください。
参考文献
Forssmann WG, et al. J Chromatogr A 1997;776:125-132.
Plebani M, et al. Pancreas 2002;24:8-14.
Sobrinho LG, et al. Clin Endocrinol(Oxf)2003;58:686-690.
Werner MJ. Chromatogr 1966;25(1):63-70.
Kent UM. Methods Mol Bio 1999; 115:11-18.
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