マイコプラズマ汚染検出方法、「直接培養法」と「DNA染色法」
細胞培養実験でのマイコプラズマ汚染試験の必要性
培養細胞の代表的汚染微生物として知られるマイコプラズマ。一般的には、しつこい咳と、頑固な発熱が特徴のマイコプラズマ肺炎を引き起こすことで知られています。風邪にしては治りにくいと思っていたら、マイコプラズマ肺炎だった、という人も多いようです。
マイコプラズマは通常の環境内で自己複製できる最小の原核生物で、細胞壁を持たず、合成能力も持ちません。ペニシリンなどの抗生物質は効かず、その他多くの抗生物質にも耐性を示すため、医薬品などに混入した場合、細胞代謝への悪影響を及ぼす危険性があります。
また、ほとんどの場合、濁りなどの通常の汚染の特徴を発することはなく、目視または顕微鏡を用いて視覚的に検出することは不可能なため、知らない間に高い滴定濃度まで繁殖してしまいます。こうしたマイコプラズマの汚染に悩まされる研究者も多いのではないでしょうか。
マイコプラズマ汚染は実験プロセスの初期に見つけなければ、大きな時間、材料、収益の無駄につながります。実験工程の様々な段階でマイコプラズマ汚染の試験をすることが重要なのです。
この記事では、2つのマイコプラズマ汚染の試験方法、細胞の培養上清をマイコプラズマ専用培地で培養する「直接培養法」と、細胞とマイコプラズマの核を染色する「DNA染色法」を紹介します。
時間はかかるが検出同定法として確実な方法「直接培養法」
直接培養法は細胞培養と培養に使用される試薬両方のマイコプラズマ感染の検出に有効で、約4週間で結果が出ます。
<必要な機器・試薬>
- 70%エタノール
- マイコプラズマ用寒天培地(製品番号 M0660): 5cmシャーレを4 枚準備する
- ウマ血清入りマイコプラズマ用液体培地:1.8mLを3本準備する
- ポジティブコントロール用マイコプラズマ(M. orale、M. pneumoniae など)
National Collection of Type Cultures(NCTC) などから入手可能 - ウォーターバス(37℃にセット)
- クリーンベンチインキュベータ(32℃にセット)
- クリーンベンチ
- インキュベータ(37℃にセット)
- 嫌気性培養装置(製品番号 28029, 68061)
<手順>
<検査の結果>
ポジティブコントロールの培地プレートと培地にはそれぞれマイコプラズマ感染が認められ、培地プレートにはコロニーとして、液体培地には色の変化で感染を確認できます。ネガティブコントロールとして作成した培地プレートと培地にはマイコプラズマの感染が見られません。マイコプラズマに感染している場合、図1のような「目玉焼き」状のコロニーが見られます。
迅速かつ高感度な「DNA染色法」
直接細胞培養法は結果が出るまで4週間かかりますが、間接ヘキスト染色法などのDNA染色法を用いると72時間以内に結果を出すことができます。DNA染色で直接培養細胞を染める方法だと結果は24時間以内に出ますが、その分、検出感度は低くなります(約106cfu/mL)。しかしVero細胞などを指標細胞にして共培養すれば、検出感度を104cfu/mLまで改善することが可能です。
<必要な機器・試薬>
- メタノール
- 氷酢酸
- Hoechst 33258 染色溶液
- 指標細胞 Vero cells(ECACC catalogue no. 84113001)
- マイコプラズマ標準品 Mycoplasma hyorhinis(NCTC10112)
- マウント液(封入剤、製品番号 F4680)
- ウォーターバス(37℃にセットする)
- CO2インキュベータ(37℃にセットする)
- クリーンベンチ
- 37℃に温めた培地
- 12ウェルマルチプレート
- アルミホイル
- 蛍光顕微鏡/カバーガラス
- セルスクレイパー
<手順>
※以下は 12 ウェルの場合のプロトコールです。
<検査の結果>
図2のように、ネガティブコントロールにはマイコプラズマが確認されません。ポジティブコントロールにはマイコプラズマが指標細胞の細胞質を覆う感じの微粒子状、または糸状に鈍く青く光っているのが見えます。また、マイコプラズマは細胞内領域においても微粒子状および糸状の状態で見えることもあります。一方、指標細胞の核は青く光って見えることがわかります。
DNA染色法では、マイコプラズマ感染細胞は細胞の核以外にも細かな蛍光が見られ、マイコプラズマに感染していない細胞は細胞の核だけしか染色されません。検査に要する時間、簡便性、感度において、DNA染色法はマイコプラズマ検出に適切な方法といえるでしょう。
ただし、細菌、真菌、酵母などの汚染、生細胞がない、もしくは少なすぎるといった原因がある場合、DNA染色法ではマイコプラズマ汚染の検査結果が出ない場合もあります。また、ヘキスト染色液は毒性が強いので取り扱いには注意が必要です。
細胞培養に携わる研究者は、マイコプラズマ汚染の可能性を常に警戒しておきましょう。マイコプラズマの高感度かつ効果的な検出方法を採用すれば、培養物を汚染から守る割合が高くなります。試験方法による感度の違いやマイコプラズマの種類によって反応が異なるため、直接培養法、DNA染色法の両方を使用してマイコプラズマ汚染を確認するのもよいでしょう。
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