一般的なPCRとホットスタートPCR
PCR反応のプロトコール概要
PCR(Polymerase Chain Reaction)法はDNAポリメラーゼによる酵素反応を利用して、少量のDNAサンプルやRNAサンプルからターゲットのDNAフラグメントを増幅することができる実験手法です。一般的に下記のようなサイクルで反応液を処理します。
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最初の変性……95℃で1~5分間:二本鎖DNA(dsDNA)を一本鎖DNA(ssDNA)に解離する。
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変性……95℃で10秒間~1分間を25~35サイクル:二本鎖DNA(dsDNA)を一本鎖DNA(ssDNA)に解離する。
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アニーリング……45~60℃、30秒間1分間を25~35サイクル:プライマーがテンプレートに結合する。
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伸長……72℃、20秒間~1分間を25~35サイクル:DNAポリメラーゼによって結合したプライマー部分からDNAが伸長する。
DNAポリメラーゼやプライマー、増幅するフラグメントの長さなどによって最適な条件は異なりますので、実際にはそれぞれの実験系に応じて最適な条件を検討していきます。 また、③はプライマーのTm値より約5℃低い温度で行います。Tm値とは二本鎖DNAの50%が一本鎖DNAに解離するときの温度で、プライマーのTm値はそのプライマーの各ヌクレオチド(A、T、G、C)の数や塩濃度などで決まります。Tm値の計算はいくつかの方法がありますが、シグマジェノシスのプライマー(オリゴDNA)で購入した場合はラベルに記載されています。 それでは、実際のPCR反応のプロトコールを見てみましょう。ここでは、Taq DNAポリメラーゼを用いて、1反応50μLを10本のサンプルでPCRを行う調製方法を紹介します。
PCR反応プロトコール(Taq DNAポリメラーゼを使う場合の例)
1.マスターミックスを用意する 通常は複数のPCR反応を同時に行うため、1本分の反応液ではなく複数本数分の反応液をまとめて用意します。この反応液からテンプレートのDNAを除いた溶液をマスターミックスと呼びます。マスターミックスは必要な本数分ぴったりの量だけ作るとたいていの場合は分注時に足りなくなりますので、少し多めに作成するのがコツです。 ここでは10反応を行う場合で、11本分のマスターミックスを用意する方法を紹介します。
■50μLのPCR反応を10本のサンプルで行う場合のマスターミックス作成例(量は11本分)
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DNaseフリーの水……456.5 μL※
※50 μLからその他の溶液量を差し引いて10倍した量。分注後にDNAテンプレートを1 μL添加する例。DNAの添加量が異なる場合は水の量も変わる。 -
10×PCRバッファー(塩化マグネシウム含有)……55 μL
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10 mM dNTP溶液……11 μL、最終濃度200 μM
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50 μM フォワードプライマー溶液……5.5 μL※、最終濃度0.5 μM ※50 μM濃度の溶液を使用する例。異なる濃度の場合、添加する量を変える。
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50 μM リバースプライマー溶液……5.5 μL※、最終濃度0.5 μM ※50 μM濃度の溶液を使用する例。異なる濃度の場合、添加する量を変える。
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Taq DNAポリメラーゼ……5.5 μL、最終濃度0.05 units/mL
テンプレートDNAを除いた合計量は539 μLになります。1サンプルにテンプレートDNAを1 μL入れるため、1サンプル用の反応液は49 μLです。実験中は各溶液および作成した反応液は氷上に置きましょう。 また、ここで紹介しているTaq DNAポリメラーゼに付属の10×PCRバッファーにはTaq DNAポリメラーゼの反応に必要な塩化マグネシウムがあらかじめ含まれていますが、塩化マグネシウムが含まれていないTaq DNAポリメラーゼを使う場合は、塩化マグネシウムを添加する必要があります。いくつかの濃度を試して最適な塩化マグネシウム濃度を決めておきましょう。
2.分注したマスターミックスにテンプレートDNAを添加する 作成したマスターミックスを穏やかにボルテックスして混ぜ、軽く遠心してチューブの底に溶液を集めます。マスターミックスを各PCRチューブに分注(この例では49 μL)し、10 ng/μLテンプレートDNA溶液を1 μL添加します。一般的には10 ng程度使用しますが、DNA溶液の濃度が異なる場合は10 ngになるように量を変えて添加し、最終濃度は200 pg/μLになるよう調整します。 DNAを添加したPCRチューブを穏やかにボルテックスして混ぜ、軽く遠心し、チューブの底に溶液を集めます
3.チューブをサーマルサイクラーに入れPCR反応を行う 反応の温度や時間、サイクル数はプライマー、増幅する配列の長さ、サーマルサイクラーによって異なることがありますので最適な条件を検討して行います。
<PCRサイクルの例>
変性……94℃、1分間、25~30サイクル アニーリング……55℃、2分間、25~30サイクル 伸長……72℃、3分間、25~30サイクル PCRサイクルが終了したら4℃で保持します。 次にホットスタートPCRと呼ばれる手法を紹介します。PCR反応液の調製中にプライマーがテンプレートDNAに結合して非特異的な増幅が起きたり、プライマー同士が結合してしまうことがあります。これを防ぐためPCRの反応前にDNAポリメラーゼの活性を抑えておく方法が考案され、その方法のひとつとしてホットスタートPCR法がよく用いられています。
ホットスタートPCRのプロトコール
Taq DNAポリメラーゼを用いたホットスタートPCRでは、DNAポリメラーゼに対する抗体(または化合物)を結合させておくことで、熱処理前のTaq DNAポリメラーゼの不活性化を保っています。JumpStartTM Taq DNAポリメラーゼは抗体によって不活性化され、PCRサイクル初期の熱変性ステップによって抗体が変性してDNAポリメラーゼから離れることでDNAポリメラーゼが活性化状態に戻り、PCR反応が進みます。その結果、特異性の高いPCR産物を得ることができます。 以下に、JumpStartTM Taq DNAポリメラーゼを用いて10サンプルのPCR反応を行う例を紹介します。基本的な操作は通常のPCR反応と同じです。
■50μLのPCR反応を10本のサンプルで行う場合のマスターミックス作成例(量は11本分)
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DNaseフリーの水……451 μL※ ※50 μLからその他の溶液量を差し引いて10倍した量。分注後にDNAテンプレートを1 μL添加する例。DNAの添加量が異なる場合は水の量も変わる。
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10×PCRバッファー(塩化マグネシウム含有)……55 μL
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10 mM dNTP溶液……11μL、最終濃度200 μM
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50 μM フォワードプライマー溶液……5.5 μL※、最終濃度0.5 μM ※50 μM濃度の溶液を使用する例。異なる濃度の場合、添加する量を変える。
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50 μM リバースプライマー溶液……5.5 μL※、最終濃度0.5 μM ※50 μM濃度の溶液を使用する例。異なる濃度の場合、添加する量を変える。
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JumpStart Taq DNAポリメラーゼ……11 μL、最終濃度0.05 units/mL
<PCRサイクルの例>
初期の変性……94℃、1分間 変性……94℃、30秒間、25~30サイクル アニーリング……55~68℃、30秒間、25~30サイクル 伸長……72℃、1分間※、25~30サイクル 最後の伸長……72℃、1分間※ ※伸長時間は最低1分間で増幅するDNAのサイズ1kbごとに1分間長く行う。 PCRサイクルが終了したら4℃で保持する。
以上、PCR反応とホットスタートPCRのプロトコールを紹介しました。PCRは実験操作自体はそれほど難しいものではありません。これから挑戦する人は、まずはこの記事で流れを確認してみてくださいね。
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