超純水装置へ供給する一次純水の重要性-蒸留水とElix 水との比較
超純水は純水から作られる
ライフサイエンスの研究者なら「超純水」という言葉は聞いたことがあるはずです。研究室に超純水装置が置いてあって、実際に使用している人も多いでしょう。しかし、その装置の中がどうなっていて、超純水がどのような仕組みで作られているのかまで知っている人は案外少ないのではないでしょうか。
超純水はいきなり水道水から作られるわけではありません。図1のように、まずは水道水を純水に変え、それから純水を超純水に変えるのです。このときに使われる純水装置を「一次純水装置」といい、この装置で作られる水を「一次純水」と呼びます。
図1を眺めていると気づくと思いますが、一次純水装置の性能は超純水の質を左右します。一次純水には、従来から逆浸透水(RO水)や蒸留水、イオン交換水などが用いられてきましたが、これまでの研究から、イオン交換水を一次純水に用いると、超純水のTOC濃度を高め、超純水カートリッジとフィルターの寿命に重大な問題を引き起こすことがわかっています。では、蒸留水を使った場合はどうでしょうか? この記事では、超純水システムの一次純水として、蒸留水とElix水を使った場合を比較検証します。
蒸留水とElix水は超純水の水質にどのような影響を及ぼすか
蒸留水を一次純水として超純水装置へ供給した場合と、逆浸透(ROI)膜と連続イオン交換法(EDI:Electrical Deionization)の組み合わせで精製されたElix水を一次純水にした場合で、得られる超純水の水質がどのような影響を受けるかを比較します。超純水の水質の評価は、総有機物量(Total Organic Carbon:以下TOC)と化学的酸素要求量(COD)の分析結果で行いました。超純水装置は表1に示した2種類を用いました。
結果1 蒸留水では超純水のTOC値は高くなる
UVを有していない超純水装置の場合、蒸留水を一次純水として用いると超純水の採水量に伴い、TOC値の上昇が見られました(図2の●)。しかし、同じUVを有していない超純水装置を用いても、一次純水がElix水の場合はTOC値の上昇はほとんど見られず、TOCが12-13ppb程度の超純水が得られました(図2の□)。
また、UVを有している超純水装置の場合、Elix水を一次純水として用いた場合は超純水のTOCを5ppb以下に安定に保つことができましたが(図3の□)、蒸留水では一時的にはElix水を用いた時と同等のTOC値を達成するものの、大きなばらつきがあり、時には80ppbを超えるTOCも確認されました(図3の●)。蒸留水では、UVの効果が十分に発揮されていないことがわかりました。
さらに、すべての超純水装置において、一次純水に蒸留水を用いたときはElix水を用いたときよりTOCの値が大きいという結果になりました(表2)。
結果2:蒸留水はCOD分析用として求められる水質を達成できなかった
超純水は、JIS K0102工場排水試験法によるCOD分析用水としても使われますが、JISでは空試験結果が0.15~0.2 mL程度であることが求められています。しかしながら、蒸留水とMilli-Q の組み合わせでは、空試験結果は0.29 mLで、COD分析用水として求められる水質を達成できませんでした。一方、Elix水を一次純水としたMilli-Qでは、空試験結果は0.15 mLとなり、COD分析用水としての水質を達成できました。このことより、超純水装置への一次純水として蒸留水を用いた場合、超純水のTOC値に悪影響が及ぼされることがわかりました。
以上の結果から、超純水装置の一次純水に蒸留水を用いると、超純水の水質を低下させてしまうことが明らかになりました。一方、Elix水は一次純水として適していることも示されました。これまでは供給水としてイオン交換水を用いた時の問題点のみが注目されていましたが、一次純水として蒸留水を用いた時も、イオン交換水の場合ほどではありませんが、明らかな水質の違いを生み出しました。超純水システムを組む場合は、一次純水の精製方法についても十分検討するべきでしょう。
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