純水や超純水のpH測定が難しい理由

純水や超純水のpH測定が難しい理由

純水・超純水のpH値を正しく測定するのは難しい

ライフサイエンスの実験、試験、分析には欠かすことができない「純水」と「超純水」。不純物をまったく含まない純水や超純水のpH値は理論上7.0となるはずですが、実際にpHメーターで純水を測定してみると、酸性やアルカリ性を示すことがあります。基本的な操作であるにも関わらず、なぜこうしたブレが起こるのでしょうか。純水の理論pHを化学式と数学的なアプローチから、その手がかりを確認してみましょう。

まず、水がイオンに解離している反応を式で表すと次のようになります。

H2O→H+ + OH-

電解質をまったく含まない水(超純水)は平衡状態を保っています。この電離平衡を、平衡定数Kを用いて質量作用の法則で書き直すと次のようになります。

K=[H+]・[OH-]/[H2O]

この式から導き出されるのが、水の解離定数KWです。

[H+]・[OH-]=K・[H2O]≡KW

次に、温度に対する水の解離定数を表1に示します。

表1:水の解離定数

参考文献:A.W.Michalson;Chemical Engineering Process,64,67(1968)

数学的に表現すると、pHは次のように定義されます。

pH=-log [H+]=-log√Kw=-1/2 log Kw

ここで25℃のときのpHを表1と照らし合わせて計算すると、以下の式になります。

pH=-1/2×13.996=6.998≒7

つまり、pH値は「7」になるというわけです。

そもそも純水や超純水は、pHを酸性やアルカリ性に傾かせる物質を含んでいません。そのため、上記数式の結果からpH値が7になると導けるのです。

それでは、なぜ純水・超純水のpH測定は難しいのでしょうか。これは、超純水の導電率が極めて低いことに原因があります。以下に詳しく見ていきましょう。

正確なpH測定には一定以上の導電率が必要

pH測定法にはいくつかの方法がありますが、一般的に用いられる方法はガラス電極法です。

ガラス電極法とは、ガラス電極と比較電極の2本の電極を用い、その間に生じた電圧(電位差)を知ることで、溶液のpHを測定する方法です。

一般的に研究室で使用されるpH測定計では、100 μS/cm以上の導電率を持つ試料が必要とされます。ところが、超純水の導電率は0.055 μS/cmであり、pH測定に必要な導電率を有していません。このことから、ガラス電極法の測定対象外であることがわかります。

低導電率試料用の特殊な電極を用いたとしても、試料の正確なpHを測定するためには、試料の導電率は5 μS/cm以上が必要と言われています。やはり、純水や超純水では導電率の値があまりに小さく、pHを正しく測定することが困難なのです。

導電率が低い=空気中の不純物が容易に混入する

超純水には物質を何でも溶かし込む性質があり、別名ハングリーウォーターとも呼ばれます、そのため、採水後は空気中から二酸化炭素やイオン、揮発性の有機物などが超純水に溶解してしまいます。

例えば、pHを測定する際の空気の接触により、超純水は二酸化炭素を吸収し、時間の経過にともなって図1のようにpHが変化していきます。もちろん、空気から混入する物質は二酸化炭素だけではありません。アンモニアや実験室の環境によっては酸の蒸気なども考えられます。

図1 空気中の二酸化炭素吸収に伴う超純水のpHの変化

参考文献:『pHを測る(化学セミナー13)』(佐藤弦・本橋亮一/丸善)

実際にpH計で超純水のpHを測定するとどうなるか

原理的にpHの測定が困難な超純水ですが、可能な限り正確な測定をした時の結果を以下に示します。

まずは超純水が空気に触れると二酸化炭素が溶け込み、pHが酸性に傾いてしまうため、オーバーフローを行いながら測定を実施しました。

図2は、低導電率水測定用ガラス電極pHメーターを用いて、超純水のpHを3回測定した時の結果です。

図2 超純水のpH測定例

測定開始時は超純水をゆっくりオーバーフローさせながら測定することにより、pH7前後の測定値が得られました。しかし、5分後にオーバーフローを止めたところ、測定値のバラつきが顕著になりました。原因としては導電率が十分ではないこと以外に、「炭酸の溶解による酸性側への傾き」や「ガラス電極内部標準液に用いられる塩化カリウムの溶出などによる影響」が考えられます。

このように、工夫をすれば理論値に近い超純水のpH値は測定可能であるものの、その値を安定させることは困難であると分かりました。

純水・超純水のpH測定はどうしたらいいのか

純水・超純水そのもののpH測定は非常に困難ですので、試薬調製のためにpH測定を行う場合には、試薬類を純水・超純水に溶解させた後に測定するとよいでしょう。そうすることで、十分な導電率が維持できます。

「超純水のpHを測定したら酸性だった。何か酸性の物質が残存しているのだろうか?」「装置に不具合があるのだろうか?」など実験中に疑問や不安を抱いたら、ぜひ「純水・超純水の導電率は低すぎて正しく測定するのは難しい」ということを思い出してみてください。

参考資料:堀場製作所『堀場pH計 Q&A集』
参考リンク:超純水装置・純水装置FAQ