純水装置の仕組みとは?原理を知って正しく使おう!

純水装置の仕組みとは?原理を知って正しく使おう!

分野を問わず広く研究の場で利用される純水。特に生物学や化学の分野では、日々の実験に欠かせない存在なのではないでしょうか。実験の再現性と信頼性を担保するためには、結果に影響を与える不純物が除去され、水質が一定である純水を使用する必要があります。

しかし、純水であれば何を使用してもよいわけではありません。純水は、精製方法によって水質が異なるため、実験や分析などの目的に合う純水を選ぶことが大切です。

また、純水の水質や水質の変動によって、実験結果が影響を受けることは決して珍しいことがありません。ですが、日常的に行っている実験や分析でおかしなデータが出たときに、純水の水質が関係している可能性を検討する方はそれほど多くはないのではないでしょうか。純水の各精製方法の原理や特徴を理解することで、実験結果に変化が見られた場合の対応や検討の幅が広がります。

そこで、今回は、代表的な純水装置の仕組みと特徴についてご紹介します。

精製方法による水質の違いについては、「純水にも種類がある!いろいろな水の違いを学ぼう」をご覧ください。

再生型イオン交換純水装置

再生型イオン交換純水装置は、イオン交換基を有する不溶性・多孔質の合成樹脂を利用した純水装置です。交換基からイオンを放出し、代わりに水道水中の無機イオンを取り込むことによって、水道水中の無機イオンを除去し、純水を精製します。

ナトリウムイオンやカルシウムイオンなどの陽イオンを除去する性質のある酸性基を持つものを「陽イオン交換樹脂」、塩化物イオンなどの陰イオンを除去する性質のある塩基性基を持つものを「陰イオン交換樹脂」と呼びます。

また、陽イオン交換樹脂は強酸性と弱酸性に、陰イオン交換樹脂は強塩基性と弱塩基性に分けられます。強酸性陽イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂は、全pH領域で反応するため、純水の精製を含む最も広い用途に利用されています*1,2(図1)。

図1 強酸性陽イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂による純水精製

 

再生型イオン交換純水装置は、無機イオンを効率よく除去できることに加え、水を流すだけで純水精製が可能という取り扱いの容易さから、器具の洗浄や蒸留器の装置前処理などに使用する純水を精製するのに適しています。

一方で、イオン交換樹脂上の交換基には限りがあるため、時間がたつと次第に交換基が無機イオンで飽和して除去効果が低下し、水質変動・水質劣化が起こるというデメリットがあります。しかし、この無機イオン除去性能は、酸・アルカリ処理によって再生させることができます。

再生には薬品が必要となり、手間はかかるものの、樹脂を再利用することで頻繁な買い替えが不要となる点もメリットの一つです。ただし、薬品による再生処理が水質のばらつきの原因になることもあります。

また、水中の有機物は除去できないなどのデメリットもあります。負に帯電している微生物がイオン交換樹脂に吸着されてしまうため、樹脂表面に微生物が繁殖して精製された水が汚染されてしまうこともあります。さらに、イオン交換樹脂自体が有機物であるため、酸化による分解・機械的な破壊などの要因で溶け出し、純水の精製能力が低下することにも注意が必要です。

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蒸留水製造装置

蒸留水製造装置は、水の沸点と不純物の沸点の差を利用し、不純物の混在している溶液から水を精製する純水装置です。水を熱して蒸発させた後、冷却して再び凝縮させることで純水を得ます(図2)。

図2 蒸留による純水精製の仕組み

 

蒸留は古くから行われてきた水の精製方法であり、簡単な原理で水中の不純物を全般的に除去することができます。主に、試薬調製や簡易分析用水などに用いられますが、水と沸点が近い成分を分離しにくい点や、精製速度が遅いといったデメリットがあります。

また、ランニングコストが高い、メンテナンスに手間がかかるといった、維持・管理上の課題もあります。

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RO+EDI方式純水製造装置

RO+EDI方式純水製造装置は、現在一般的に普及しているタイプの純水装置です。精製された水は、純水が必要となるあらゆるシーンで利用されるほか、超純水の前処理純水としても用いられます。

圧力をかけることで水より小さな分子だけを通過できる逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane、以下RO膜)と連続イオン交換(Electric Deionization、以下EDI)を組み合わせることで、無機物、有機物、微粒子、微生物という4種類の不純物を長期にわたり安定して効率よく除去し、高純度の純水を得ることができます(図3)。

図3 RO+EDI方式純水製造装置の概要

 

  • RO膜(逆浸透膜)
    RO膜を用いて、原水側に浸透圧以上の圧力をかけることで、不純物をろ過します(図4)。

図4 不純物の大きさと適応するろ過膜

 

全てのタイプの不純物を効率的に除去することができ、水中の無機物、有機物、微粒子、微生物の除去率は94〜99%にのぼります。経年劣化があるため定期的にRO膜の交換が必要であることを除けば、メンテナンスをほとんど要さず、省エネルギーで運転できることもメリットの一つです。

RO方式の場合、原水の水質が精製された水の水質に影響を与えてしまう点は問題ですが、この問題は、RO膜の後段にEDI(連続イオン交換)でさらに精製することで解決できます。

  • EDI(連続イオン交換)
    EDIモジュールは、陽極と陰極の間に陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に並べ、その間をイオン交換樹脂で充填した構造となっており、電気を利用して不純物を除去します(図5)。

図5 EDIによる純水精製の原理

 

電解槽に直流電流を流すと、塩化物イオンなどの陰イオンは陽極に、ナトリウムイオンやカルシウムイオンなどの陽イオンは陰極に移動します。陽イオン交換膜と陰イオン交換膜は、それぞれ陽イオン、陰イオンのみを通過させるため、イオンの濃縮区画と希釈区画がそれぞれでき、希釈区画を通過した水を集めることで純水を得ます。

EDIは、通常のイオン交換方式とは異なり、時間がたってもイオン交換樹脂表面のイオン交換基が飽和しないため、イオン除去性能を長期間維持することができます。

ただし、活性炭によるスケーリング防止対策がされていないEDIは、長期間性能を維持できません。この問題が生じてしまう原因や解決策は、「メンテナンス不要の超純水・純水装置、メルクの第2世代EDIとは」で確認することができます。

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目的に合う水質が得られる装置・精製方法を選ぼう!

純水の水質は、純水装置の種類だけでなく、精製方法の組み合わせによっても変わってきます(表1)。

表1 純水装置の種類と精製方法による水質の違い

 

研究を進めていく上では、実験の目的や用途から、どの水質の純水を利用するのが最適かを見極め、求める水質の純水を精製するための純水装置・精製方法を選ぶことが大切です。

純水精製の原理を理解することは、純水装置・精製方法の適切な選択を可能にするだけでなく、予期せぬ結果を得たなどのトラブルを解決するための糸口となることもあります。

日々の実験では、習慣的にいつもの装置から採水することも多いかもしれませんが、実験の再現性や信頼性を高めるための一つの手段として、今一度、純水の水質について考えてみてはいかがでしょうか。

この記事について不明点やご意見がありましたら、お気軽に下記のお問い合わせフォームよりご連絡ください。

純水装置の特徴を動画で学ぶ!

今お使いの純水装置の特徴に加え、精製方法の違いが分析や水質にどのような影響があるか実験データを使って解説します。

  • 再生型イオン交換純水装置
  • 蒸留水製造装置
  • RO+EDI純水製造装置
  • 精製方法による水質の違い

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参照元
1 細川利雄. イオン交換樹脂. 有機合成化学. 1984, vol.42, no.2, p.173-174.
2 板垣孝治. イオン交換樹脂. 日本醸造協会雑誌. 1982, vol.77, no.4, p.200-205.

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