メンテナンス不要の超純水・純水装置、メルクの第2世代EDIとは
EDI純水装置の基本原理
ライフサイエンスの研究に欠かせない超純水。超純水や純水の純度は実験の精度に関わるため、装置のメンテナンスは必要不可欠ですが、おっくうに感じたり、ついつい忘れてしまうことも多いはず。でも、メンテナンスフリーのメルク第2世代EDI純水装置があれば研究を効率よく進めることができます。
純水処理には、逆浸透膜(RO)やイオン交換(DI)、紫外線ランプによる有機物分解、連続イオン交換(EDI)などの方法があります。EDIは、イオン交換樹脂の再生・交換をすることなく連続してイオンを交換する技術です。電気透析のように、陽極・陰極の2枚の電極の間に、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に並べて、さらに膜間に陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂をミックスした混床イオン交換樹脂を封入した構造です。(図1)
水中の不純物イオンは両極間の印加電圧で、陽イオンは陰極、陰イオンは陽極にそれぞれ引っ張られて移動します。この構造により水が通過する部屋は、イオンが希釈される部屋「希釈室」と、イオンが濃縮される部屋「濃縮室」とに分かれ、希釈室を通過した水が純水になります。
EDIはROと組み合わせることで、イオンはもちろん有機物、微粒子、微生物なども除去した比抵抗が数MΩcm以上の純水を精製します。RO-EDIにおいて初期費用はイオン交換方式に比べて高くなりますが、水質やランニングコストでメリットがあり、樹脂の交換作業といった維持管理の手間も最小限になります。
従来型EDI純水装置の問題点
しかし、実運転ではEDIに流入するイオン種はナトリウムと塩化物イオンだけとは限りません。EDIには、カルシウムや溶存炭酸ガスなどが多く含まれる水を処理すると、成分の影響を受け性能が低くなるという大きな課題がありました。
性能低下の原因はEDI内部、特に濃縮室と陰極近傍に炭酸カルシウムが固着してしまうからです。この塊を「スケール」と呼びます。図2のように膜表面や電極表面がスケールで覆われると、その部分のイオンや電子の流れが阻害され純水の質低下を引き起こします。ひどくなるとスケールが完全に水の流路を防いでしまい、通水速度が減少します。
対策として水中のカルシウムなどの硬度分をナトリウムなどに置き換える軟水処理があげられますが、そうすると導入時の初期費用が増大し、さらにカートリッジ交換の手間、塩化ナトリウムの補給などのデメリットがEDI本来のメリットを大きく上回ることになってしまうのです。
炭酸カルシウムスケール発生のメカニズム
水に溶けた炭酸ガスはpHの数値によって形を変えていきます。pHが6.3以上になると、炭酸からプロトンが解離して重炭酸イオンが生成します。pHが11.6を上回ると重炭酸イオンから、さらにプロトンが解離し炭酸イオンとなります。この炭酸イオンがカルシウムイオンと強く結びつき、水に溶けにくい炭酸カルシウムとなります。
通常、EDIの陰極は平板電極が用いられていて、陰極表面では水と電子から水酸化物イオンと水素ガスが発生する反応が起こっています。図3のように電極表面から0.01 mm~0.1 mmという短い距離に高濃度の水酸化物イオンの層が生じ、陰極近傍のpHは11を超える高い数値になります。ここにカルシウムイオンが供給されるとすぐに炭酸カルシウムが生成し、時間とともに固着範囲が広がっていきます。
濃縮室でも同様に炭酸カルシウムが生成します。希釈室のイオン交換樹脂や陰イオン交換膜を通過する場合は、イオンは十分な移動速度を保っていますが、濃縮室の水相ではその速度が大きく低下します。そのため、図4のように濃縮室の陰イオン交換膜近傍で水酸化物イオン濃度が上がり、炭酸カルシウムが生成しやすい状態になります。
イオン交換樹脂とカーボン粒子の活用がメンテナンスフリーを実現した
従来型のEDIは、イオン交換処理の純水化方法に比べて水質ランニングコストや維持管理でメリットがありましたが、水中のカルシウムのような硬度分や炭酸成分の影響により性能低下するという大きなデメリットがありました。
そのデメリットを克服したのがメルクの第2世代EDI純水装置です。メルクの第2世代EDI純水装置は炭酸カルシウムを固着させない仕組みが導入されているため、軟水処理なしで長期にわたり安定した純水処理が可能。定期的なEDI交換の必要もありません。
炭酸カルシウムの固着を防ぐために考えられたのがイオン交換樹脂の活用です。図5のように、濃縮室にイオン交換樹脂を入れることで、希釈室側から陰イオン交換膜を通過してきた水酸化物イオンの速度を落とすことなく濃縮側に拡散させることができます。これにより、陰イオン交換膜表面のpHを下げることに成功しました。
しかし、この方法は濃縮室のみに有効で、陰極室の炭酸カルシウムの固着を防ぐことができませんでした。そこで、図6のように陰極には粒状のカーボンを封入することになりました。カーボンは導電性が高く化学的に安定した物質で電極材料としてよく使用されています。粒状カーボンの形状は立体的であるため、より多くの電極面積で反応が起こることになります。
つまり、電極の単位面積の電流(電流密度)が減り、単位面積当たりの水酸化物イオンの発生を抑えることにつながります。このことにより、陰極表面近傍のpHが下がり炭酸カルシウムは生成しにくくなったのです。
研究が日々進歩していくのと同様に、研究を支える実験装置も日々進歩しています。純水装置のメンテナンスが研究の負担となっている場合は、メンテナンスフリーの純水装置の導入を考えてみてもいいかもしれませんね。
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