超純水と硬水で抽出効率はこんなに違う!お茶・コーヒーの抽出で比較
水は、抽出などのサンプル前処理や器具の洗浄、ブランク水やサンプルの希釈などあらゆる場面で必要となるため、実験室で使わない日はないといっても過言ではないでしょう。実験や分析では純水や超純水といったいわゆる「きれいな水」を使うことがほとんどだと思います。これらはいずれも水道水から不純物を除去する処理を施した水です。
一方、生活用水や天然水にはさまざまなミネラルが含まれます。水に含まれるカルシウムイオンやマグネシウムイオンの量を、対応する炭酸カルシウムの量に換算して数値に表した硬度によって、硬水・軟水と分類されることもあります。硬水は軟水と比較して硬度が高い水、つまりカルシウムイオンやマグネシウムイオンを多く含んでいる水です。日本の水道水の多くは軟水であるのに対し、欧州では硬水が多い傾向があります。
このような生活用水や天然水と、実験や分析で使われる純水や超純水には、どのような違いがあるのでしょうか。
超純水と硬水でこんなに違う!お茶・コーヒーの抽出効率
今回、試験・研究用の高純度な超純水と飲用の硬水でお茶とコーヒーを同じ条件で抽出し、実際にどの程度抽出効率が異なるか調べる実験を行いました。
水は不純物が少ないほど空気中の物質や採水容器の成分などを取り込みやすい性質をもっています。超純水は空気中の二酸化炭素やイオン、容器の成分など、物質を何でも溶かし込んでしまうため、「ハングリーウォーター」とも呼ばれます。
それに対し、硬水はカルシウムやマグネシウムなどの陽イオンが多く溶け込んでいるため、比較的物質の取り込みが起こりにくい水であると考えられます。そのため、お茶とコーヒーの抽出効率も超純水の方が高くなると予想されますが、実際にそれを確かめたデータはありませんでした。
本当に超純水は硬水よりも抽出効率が高いのでしょうか。注目の実験結果をご紹介します。
実験では、玉露、煎茶、深煎りコーヒー、カフェインレスコーヒーの粉末を用意し、それぞれの粉末50 mgに超純水もしくは硬水10 mLを添加、10回上下をひっくり返して混ぜ合わせた後、室温で60分間静置しました。
その後、再度10回上下をひっくり返して混ぜ合わせてから3500 rpmで10分間遠心分離し、上清を高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography、HPLC)で解析。検出器には、不純物の量的評価が可能な荷電化粒子検出器(Charged Aerosol Detector、CAD)を用いることで、水の種類により抽出量がどの程度異なるかを調べました。
その結果、図1で示した通り、玉露、煎茶、深煎りコーヒー、カフェインレスコーヒーの全てにおいて、予想通り硬水よりも超純水の方が総抽出量は多く、その差はなんと2〜3倍にもなることが示されました。
今回の実験から、水の違いで抽出効率に差があることが考えられます。コーヒーやお茶、紅茶などでは水の違いが味に影響するといわれることがありますが、これには抽出効率の違いも関係しているかもしれません。
違いを知って正しい使い分けを
不純物が非常に少ない超純水は、実験や分析だけではなく、半導体工場ではウェハーの洗浄にも使われています。微細化と高集積化が進む半導体では、ほんのわずかな不純物でも極めて大きな影響をもたらすため、洗浄には高度に精製された超純水が必須となります*1。
先ほど紹介した「他の物質を取り込みやすい」という超純水の性質が生かされており、超純水で洗浄することで目に見えないイオンや有機物も取り除くことができると期待できるわけです。超純水のこの性質は、容器や器具の洗浄を行う際にも重要な役割を果たします。
しかし、超純水を使う際には注意も必要です。他の物質を取り込みやすいということは、空気中の物質や容器由来の物質も取り込みやすいということを意味します。そのため、超純水を扱う際には試験や測定に影響するような物質のない環境で、溶出しにくい容器や器具を用いることが重要です。
日頃の実験では、超純水や純水をあまり区別せず使っているという方も多いかもしれません。しかし、実験や測定の種類によっては、その何気ない水選びで結果が左右されることもあります。
これを機に、自分の実験に適した水は何か、今一度確認してみてはいかがでしょうか。
参照元
*1 林一樹. 半導体工業における純水の役割とその廃液処理技術. Journal of Society of Inorganic Materials, Japan. 2005, vol.12, no.319, p.559-564.
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