超純水と市販ボトル水の違いと使用するときの注意点
小分けの水を使い切りたいときに便利なボトル水
各種実験には、純水装置や超純水装置から得られる純水・超純水の他、市販のボトル水を使用することもあります。ボトル水としてはHPLC用水、注射用蒸留水、DEPC処理水、RNaseフリー水などが用途別に販売されています。
ボトル水は純水装置や超純水装置に比べ安価で販売されているので、手頃で便利ですが、その水質や開封後の水質変化を調べたことがある人は少ないかもしれません。
例えば、HPLC用水は、一般的には紫外線吸収を持つ不純物が規定値以下であるよう品質管理され、HPLC分析において汎用的に用いられています。しかし、紫外線吸収がないからといって有機物が含まれないということではありません。用途以外の実験に対しては、その実験に影響を与える不純物がボトル水中に含まれている可能性があります。
また、ボトル水は開封後、実験室の空気と触れ合い空気中の不純物が混入することにより、水質劣化を起こすと考えられます。そのため、保証されている水質の水を使用するためには、開封後、一度でボトル水を使い切り、余ったボトル水は使用を控える必要があります。
このように、ボトル水は安価で便利な一方、用途以外に使えず、また水質劣化が起こるという困った点も。以下、市販HPLC用水を用途以外に使用した場合の実験結果への影響と、市販LC/MS用水の開封後の水質劣化について検証してみました。
検証① 市販HPLC用水と超純水のLC/MSにおける水質検証
LC/MS(質量分析)により市販HPLC用水とLC/MS用超純水の水質を比較し、市販ボトル水を用途以外に使用した場合に、水質にどのような影響を与えるかを検証しました。水質分析は溶液中のイオン性成分の定性・定量を表すTIC(トータルイオンクロマトグラム:Total Ion Chromatogram)と、有機物量が多いほど大きな値になるTOC(総有機物量:Total Organic Carbon)の値を測定して評価しました。
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試水
LC/MS用超純水と異なるメーカーの市販HPLC用水6種 -
LC/MS用超純水精製システム
水道水→Elix10→純水タンク→Milli-Q超純水製造装置
Milli-Q超純水製造装置は紫外線ランプを有する超純水装置であり、低TOCのLC/MS用超純水を精製することができます。 -
分析方法
市販HPCL用水は容器や環境からの汚染を防ぐために、開封後直ちに分析に供し、容器から直接分析装置へ吸引。超純水の採用容器には、硫酸洗浄後超純水で10回リンスを行ったI-CHEMボトル(Nalge Nunc)を用い、採水後直ちに分析を行いました。 -
結果
LC/MSで分析した結果、図1のように、市販HPLC用水のTICはメーカーごとにばらつきがあり、最も低いTICが得られた水はMilli-Q超純水製造装置であることがわかりました。
また、TOC分析では、市販HPLC用水のTOCは16.5ppbから777ppbと高く、ボトルごとに大きく異なる結果となりました(表1)。一方、Milli-Q超純水製造装置のTOCは4ppbです。
これらの分析結果から、市販HPLC 用水中の有機物量は、LC/MS分析に使える一定水準を満たしていないことがわかりました。
検証② 市販LC/MS用水の開封後の水質劣化
次に、市販LC/MS用水の開封後の水質劣化について検証を行いました。
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方法
市販LC/MS用水(容量 1Lを計3本)のTOC値を開封直後に測定し、その後、4時間経過ごとに50mLずつ排水し、排水量の合計が200mL、400mL、600mL時にTOC値を測定しました。 -
結果
図2は、ボトル水を開封してから使用の経過とともに、TOCがどのように変化していったかを見たものです。使用量が多くなるにつれ、ボトル水のTOCが高くなっていくことがわかります。このことから、ボトルを開封後、ボトル中の水が空気と触れ合い、空気中の不純物が混入したと考えられます。
ボトル水を使うときの注意点
今回の検証で、「ボトル水は目的の用途に限定して使用すること」、「ボトル水は開封後なるべく早く使うこと」という2点が明らかになりました。
ボトル水が用途別になっているのには、実験上の重要な理由があったんですね。また、余ったからといって、いったん開封したボトル水を後で使いまわすと、実験結果に影響する可能性がありそうですね。超純水装置があれば、いつでも必要なだけ超純水を作ることができるので、その心配はありません。水を使うときはポイントをおさえて、正しく選んで使いましょう。
超純水と市販ボトル水、価格はどう違う!?
装置で製造した超純水の1L当りの価格はどの程度かイメージつきますか?コンビニで購入できる水(ミネラルウォーター)は500mLで100円前後ですが、超純水はそれよりも高いと思いますか?安いと思いますか?
答えは「安い」です。メルクのフラッグシップモデルMilli-Q Integralを使用した場合でも、1Lで100円程度(500mLで50円)です。(装置使用期間10年、1日20L、1ヶ月22日使用の場合、装置費用と消耗品費用を試算)
それでは市販ボトル水はミネラルウォーターより高いと思いますか?
答えは「高い」です。市販LC/MS用水はメーカーによっても異なりますが、1Lで1500円~8000円程度です。
少量しか分析用水を使用しない場合以外は、超純水装置で自家調製した方が安価です。また、水は容器の洗浄などに使用する場合も多いです。超純水装置で製造した超純水は水道水のような感覚で洗浄に使用することができますが、ボトルに入った水は流し続けることは難しいですので洗浄には使いにくいです。
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