体外診断薬開発の最先端情報を学ぼう!Rapid Point Of Care Test Development Seminar in Japan レポート

2024年10月24日から25日にかけて、体外診断薬の最新情報をお届けするセミナー「Rapid Point Of Care Test Development Seminar in Japan」が開催されました。本セミナーは以前にも中国とスペインで開催されたもので、非常に盛況だったことを受けて日本での開催に至りました。
2日間に渡り、世界や日本での迅速体外診断薬のトレンドや、テストストリップの設計や考慮すべき材料の性質、トラブルシューティング対応についてメルク担当者の解説があり、体外診断薬業界におけるAIやDXの活用については株式会社FRONTEOから演者を招いたご講演がありました。本記事では、セミナー各セッションの概要をご紹介します。
世界および日本の迅速体外診断薬のトレンド

まず、ラテラルフロー迅速体外診断薬の市場や近年のトレンドについての紹介がありました。
世界のラテラルフローアッセイ市場は、2019年には約60億ドルでしたが、2029年には170億ドルに達すると予想されています。2029年で予想される最大の市場は北米ですが、中国、インド、そして日本では市場が大きく拡大すると見込まれています。その理由は、アジアでの人口増加、高齢化、ヘルスケア基盤への投資などが挙げられます。
かつてラテラルフローテストは妊娠検査が主な対象でしたが、コロナ禍を経て感染症診断の需要が急増しています。また、高齢化やホームテストの増加も、市場拡大の要因として挙げられます。その一方で、規制当局からの承認取得の難しさ、ホームテストの正確性という課題があり、キットや試薬のための重要原料の調達が難しいという状況もあります。
日本のラテラルフローアッセイ市場を見ると、2021年から2029年にかけての年間複合成長率は8.3%と予想されています。アプリケーションの上位の中でも特に今後の成長率の高いものとして、インフルエンザや獣医学診断が挙げられています。
最後に、市場トレンドとして、AIをはじめとするデジタル化、マルチプレックスフォーマット、分子ベースのラテラルフローテスト、唾液サンプルの使用、そして原材料のサステナブル対応の紹介がありました。
テストストリップの設計やトラブルシューティング

テストストリップの設計に関するセッションでは、初期検討事項として「誰がアッセイを使用するのか」「何がアッセイのメリットなのか」「どのようにアッセイが機能するのか」の3つの重要性が取り上げられました。検査が自宅なのか、メリットは高感度なのか検査時間の迅速性なのか、定性的なのか定量的なのか。こうしたことを踏まえ、原材料の調達や規制要件なども考慮しながら設計を検討することになります。
テストストリップにおけるサンプルの流れを制御するものは多岐に渡り、多孔質材料の特性(ポアサイズ、濡れ性、ベッドボリューム)、ハウジングデザインの特徴、サンプル組成(粘度、粒子負荷)、組み立て(材料同士の接触、オーバーラップの度合い、ハウジング内の圧縮)、アライメントの一貫性、切断の影響(原料、完成したテストストリップ)などがあります。
シグナル強度を制御する因子には、反応物の濃度、メンブレンのフローレート、メンブレン上の免疫複合体の分布があります。このうち、フローレートは信号強度、特異性、バックグラウンドノイズに関わります。メンブレンの流量が増加するとシグナル強度が不均衡に減少し、さらにキャピラリーフローレートは原点からの距離が長くなるにつれて遅くなります。こうしたことを考慮して、テストラインの位置を検討する必要があります。
また、製品のトラブルシューティングの解説もありました。特に強調されたことは、まずはデバイスを分解するということです。組み立ての一貫性が損なわれていたり、物理的損傷が起きていたりすることもあります。実際、メンブレンとコンジュゲートパッドの接触に一貫性がなかったという事例もありました。また、機能することがわかっているロットの材料で検討すること、ハーフスティックアッセイを使用して調査を迅速化することも、トラブルシューティングのヒントとして紹介されました。最終的には、製造ラインの改善やオペレーターの教育、材料の受け入れ品質管理試験の実施などを行うことになります。
体外診断薬の原材料および着色・蛍光マイクロビーズについて

迅速体外診断薬の開発や製造に重要な原材料について、今回のセミナーではメンブレン、パッド、BSA、防腐剤などについて、メルク製品の紹介がありました。
メンブレンは、フローレートと感度に合わせて選択する必要があります。それ以外にも、シングルプレックスかマルチプレックスか、検出粒子サイズや分析物濃度、出荷規格や供給時のリードタイムなどを考慮してメンブレンの種類やサプライヤーを選択する必要があります。パッドのうち、特にコンジュゲートパッドには一貫した圧縮性が求められます。
BSAにはバッファーやブロッキング機能があり、タンパク質を安定化させる役割もあります。防腐剤は、診断試薬の保存期間を延ばす目的のために使用されます。近年、防腐剤の規制が厳しくなっており、ヒトに対して変異原性や発がん性などのリスクがないものが求められています。なお、メルク社の生化学試薬については、独自の品質管理システムM-ClarityTMで分類しています。求める品質基準や管理レベルに合わせて選択できます。
さらに、着色・蛍光マイクロビーズに関する紹介もありました。マイクロビーズは、サイズが300〜400 nmサイズまでの場合にはエマルジョンポリメライゼーションという手法で、それ以上のサイズの場合にはコア/シェルポリメライゼーションという手法で作成されます。その後、溶媒による膨張と着色が行われます。メルクでは着色・蛍光ビーズいずれも多様なサイズと色の製品を取り揃えており、用途に応じて選択できます。迅速体外診断薬の開発は複雑なプロセスなので、マイクロビーズのサイズ、表面化学、色を変えてテストを重ねることが重要です。
カスタム抗体作製サービスについて

ラテラルフローアッセイで重要なコンポーネントの一つが抗体です。カタログには市販の抗体が多くありますが、市販の抗体で満足できる結果が得られないときにはカスタム抗体作製サービスのご利用をご検討ください。
ポリクローナル抗体は、ターゲット抗原を動物に注射し、抗体を含む血清を調整して得られます。ポリクローナル抗体の作製受託サービスのうちシンプル抗体作製サービスは、抗原配列デザイン、抗原ペプチド合成、SPFウサギ免疫、ELISA・精製がセットとなったオールインワンパッケージです。抗原タンパク質がなくても、配列情報から抗原ペプチド配列をデザインします。また、動物種や免疫スケジュールなどを変更したい場合には、自由度の高いフレキシブル抗体作製サービスをおすすめします。
ポリクローナル抗体に対して、単一の免疫グロブリンからなるのがモノクローナル抗体です。モノクローナル抗体作製サービスのうち、マウスの腸骨リンパ節法を用いる方法ではモノクローナル抗体の樹立まで最短で1カ月半と短く、陽性クローン出現率の高さも特長です。また、抗体バリエーションが多様とされているウサギを用いて、親和性と特異性の高い抗体を作製するサービスもあります。膜タンパク質に対する抗体作製に最適なDNA免疫法という手法を用いた受託サービスも提供しています。
カイオム・バイオサイエンス社と協業し、抗体提示細胞ライブラリを活用した、いわゆるin vitro法によるモノクローナル抗体作製サービス もあります。陽性クローン配列の報告まで7週間程度という短さが特徴で、低分子化合物をターゲットにすることもできます。そのため、新しい対外診断薬の開発につながる可能性があります。ぜひご検討いただければと思います。
DXとAIが切り開く体外診断の未来

セミナーでは、株式会社FRONTEO KIBITソリューション推進統括部AIコンサルチーム担当部長の成田周平氏を招き、「DXとAIが切り拓く体外診断の未来」と題してご講演いただきました。
今後、対外診断薬に求められるものとして、感度、特異度、そしてマルチプレックスが挙げられます。DXという点については、デジタルバイオマーカーも含めてリアルな臨床サンプルデータをいかに安価に入手して活用していくかが業界発展の鍵を握るとのことです。
また、AI活用の課題には3つあると、成田氏は話します。まず、AIを活用するにあたり、AIが認識できるデータが必要になること。次に、データを常に蓄積し続けて最新のデータを学習できる環境を整えること。そして、競合優位性を出すために自社データを活用して自社のナレッジやノウハウを打ち出すこと。この3点がAI活用では重要になります。
今後、遠隔診療や在宅治験、パーソナルヘルスレコード(PHR)の可能性が広がっていく中で、特に自宅での体外診断薬は重要な位置付けになると予想されます。取得できるバイタルデータが増加する中で、いかにAIを活用するかが今後のポイントになります。論文検索だけでなく、抗体選定、テストラインの画像診断にAIが活用されると見込まれます。そこには認知症のような精神疾患の体外診断薬の可能性も含まれます。
最後に成田氏は、DXやAIを活用するにあたり、データ基盤の整備、製品開発プロセスの再設計、規制対応、市場分析、社内体制の強化が求められており、体外診断薬にも革新的なソリューションが求められていると述べました。
大盛況だった懇親会と個別相談会

1日目の最後には立食形式の懇親会が開かれ、飲食をしながら穏やかな雰囲気の中、参加者同士で交流をしたり、メルクの担当者との会話を楽しんだりしていました。参加者からは、同業他社の人と普段話す機会がなく、非常に良い交流の機会になったと伺っております。
また、1日目のセミナー開催前と、2日目のセミナー終了後には、専門知識をもったメルクのスタッフとの個別相談会を開催しました。事前申込・抽選制であったにもかかわらず、多数のお客様からお申し込みをいただきました。参加者からは、「製品やアプリケーションに精通している海外の製品担当者と直接ディスカッションして理解を深めることができた」、「今後も継続してサポートしてほしい」とのリクエストを受けており、満足度の高い相談会となりました。
おわりに
セミナー終了後のアンケートでは、多くの参加者が「今回のセミナーに参加してよかった」、「同僚にもおすすめしたい」とご回答いただきました。ほとんどのセッションで高い満足度が得られ、特に「迅速体外診断薬におけるトラブルシューティング」のセッションは非常に参考になったという意見が多く寄せられました。参加者の多くがトラブルシューティングに悩まされており、さまざまなヒントを得たいという姿勢がうかがえました。
今後もメルクは継続して、対外診断薬原料におけるリーディングサプライヤーとして活動し、皆さまからの信頼を得るべく情報提供にも努めてまいります。
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