未来を切り拓く創薬DX!多角的な視点から探る最新トレンド―後編―
(※前編記事では、創薬DXにおけるデータの重要性、人材の育成などについて3名のパネラーによる議論が行われた。後編では、創薬DXの未来についての議論を紹介する)
創薬DXの未来像
成田 ここまで創薬DXというテーマでお話をいただいていますが、さらにこの先DXが進化していった先、製薬会社や創薬ベンチャーにはどういう未来が描けるのか、夢物語的な部分も含めてお話しいただけますでしょうか。
小松 創薬DXの夢というのは、すでに一部始まっているのかもしれません。決してキラキラしたものでも、眼を見張るようなものでもないかもしれませんが、実験を加速するために、デジタルツールが当たり前のようにいろんなところに入り込んでいるというのが、おそらく創薬DXの未来なんじゃないかなと思います。デジタル要素が各所に浸透して結果的に創薬のスピードが上がる状況はもうすでに起こり始めており、これが今後さらに加速するのだろうと思っております。
牧口 基本的には小松さんと同じ方向性ですが、探索などのフェーズでは、コスト削減のためにAIが使われていくということになると思います。臨床などのフェーズになったら、臨床試験の患者さんをどう確保していくのかなど、精度面を求められるようなAIの使われ方もなされそうです。創薬領域の方では、ある程度のデータが溜まったターゲットでは、勝手に全て対応するリガンドが計算され、さらにデータベース化される、といった進展が今後見込まれるのではないかと個人的には思っております。
玉木 お二人に言いたいことは大体言われてしまった感じですが(笑)、AI創薬というのは化合物を作って検証するというサイクルを、いかに賢く進めるかというところに収束するのかなと思います。
今のAIと創薬 DXというのは、ゲームチェンジャーだと思うんですね。2倍3倍向上するとかいうレベルではなく、最初に達成した人が全部かっさらってくぐらいの変化が、DXに求められていると思っています。なので「創薬DXでうまくいった例を教えてよ」とか言っていると、もうそのうまくいった人が全部持って行ってしまうのではないかと。完全なる正解はまだ誰にも見えていないと思いますので、そこに向かっていく力をみんなで集めていくというのが大事なのかなと思っております。
成田 ありがとうございます。ボタンを押せばパッと新薬候補が出てくるみたいなシステムを思い描く人もいると思いますが、そうするとただの早いもの勝ちになってしまいますね。データとか計算資源とか人材とか、いろんなリソースを活かして自分たちの特徴を打ち出し、世の中に新しい薬を送り出すというプロセスは多分変わらないと思いますので、そこをどう勝ち抜いて行くかですね。
では、会場から講師の方に対して質問はありますでしょうか。
創薬エコシステムとアカデミアの未来
質問者 アカデミアの研究者を支援している者です。最後の質問にちょっと関係するんですが、今の創薬のエコシステムは、アカデミアやベンチャーで見つけた種をメガファーマが育てるという形で動いていますが、今後AI技術が進んでいくと、このエコシステムはどのように変わっていくのでしょうか。また、その時アカデミアの役割として、どんなことが期待されるのでしょうか。
小松 計算資源などの話になってくると、どうしても資金力勝負というような部分も出てきます。ただAIは、新しいものを創り出すという方向もありますけれど、やはり最適化の過程に主に用いられていくのではと思います。ユニークな発想を打ち出し、新しい道筋を開いていくのは、まだ人間の活躍する場所かと思います。
大規模な研究の効率化は、資金がある企業側がやるとして、小規模だけれども尖ったアイデアについては、アカデミアには今以上にチャンスもあるのではないかと考えております。
牧口 やはり新薬のテーマを創出するというところ、そして新しい技術を創り出すというのは、今後もアカデミアの重要な役割と思っています。先ほどちょっとFEPの話をしましたが、10年前にはとんでもない金額がかかったので、企業でやる人はいませんでした。その研究を進められるのは、やはりアカデミアだと思います。まだ姿の見えない新しい技術が、将来必ずリターンをもたらすと信じながら研究を進めていくのは、アカデミアでなければできないことです。私はアカデミアの技術を社会実装することをモチベーションに動いてきた人間でもあるので、今後ぜひそういうところに期待したいと思っております。
玉木 私のような若造がアカデミアに対してどうこうと偉そうなことはあまり言えないのですが、今後AIやロボットが進歩してゆけば、アカデミアの単位でできる研究のスケールも上がってくると思います。そういった意味で、大企業やベンチャーに取れないようなリスクのある研究や、基礎研究寄りの話などのシーズは、アカデミアからどんどん現れてくるのでは、と思っています。
一方で、今はアカデミアと産業とサイエンスが非常に密接に連携していると思いますが、AIやロボットによる自動化が進んだ時に、本当にサイエンスが産業と連携してくるかというのは、まだちょっとまだ見えません。たとえば10年ぐらい先、人間には説明できないけれども優れたものをどんどんAIが生み出すようになり、説明できるものはもう時代遅れになっている――というようなことになったら、アカデミアの位置づけもかなり変わってくるのかなと想像します。
成田 そうですね、AIが何らかの答えを出しても、それを判断するのは人間です。アカデミアなり企業なり、人間の立場や見方が違うと、そこには違う答えが出てくるはずなので、その役割分担によってバランスが取れるのではという風に思います。
最後に一言
さて本日はお三方から、創薬DXについてお話をいただきましたので、最後にみなさんに一言ずついただけたらと思います。
玉木 創薬DXに関して、大企業やスタートアップ、アカデミアも含めた日本のエコシステムは、やはりちょっと海外に比べて出遅れていると思います。偉そうな言い方にはなりますが、日本人としてはもう少し力を入れてエコシステムの改善を進めていくべきだと考えています。
牧口 実は私も玉木さんと似たようなことを思っていまして、ゼウレカを設立する時には、創薬を国内で守っていかないと国防に関わるというような意識もありました。なので、日本の創薬力をしっかり担保するような仕組みを、どうにか作れないかという発想でサービスを考えています。やはり集まるべきところは集まって、互いにコミュニケーション取りながら、日本全体の創薬力を上げていきたいと。
DXに手をつけていない企業もまだまだ多いと思いますが、やはり一歩を踏み出さないと何も始まりません。まずは玉木さんのところでも僕らのところでもいいので、「ちょっと話を聞いてくれませんか」と言っていただくだけでもいいと思っています。
小松 DXとはいろいろな要素技術の組み合わせでソリューションを得るものですから、自社だけではなかなか進めにくいところです。一社で抱えるには大き過ぎるテーマなので、お二人のおっしゃる通り、いろいろなところが手を組むことが必要かと思います。
当社はソフトウェアを世界各国で発売していますが、その反応を見ていても、日本の動きがちょっと遅いと感じます。創薬DXのスタートポイントは、まずは我々が提供する汎用ツールでもよいかもしれませんし、データがスタックしているということであれば牧口さん、抗体関連で斬新なモデルを組みたいならば玉木さんの方にお問い合わせいただければよいかもしれません。我々はちょうど三社違う形のソリューションを持っている会社ですので、もちろんFRONTEOさんも含め、一緒にやっていきながら創薬DXで日本を良くしていければと思っております。
成田 みなさんAIを使っていますが、それぞれ違うカラーなので、組み合わせでうまく運べるのかなと思います。ただAIの計算能力には人間は絶対に追いつけませんので、もう本当に早くやらないといけないと、私たちも危惧しているところです。本当にちょっとしたスモールスタートでもいいので、問い合わせをいただき、情報交換させていただけたらと思います。では本日はどうもありがとうございました。
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