<研究最前線>四反田功-汗で発電するバイオ燃料電池でバッテリー不要のウェラブルデバイス開発を目指して
—先生の研究内容の一つである「バイオセンサ・イオンセンサ」に関して教えてください。
汗や尿、唾液などの体液を燃料として発電するバイオ燃料電池または酵素電池とよばれるものを開発しています。これらは酵素を触媒とした燃料電池で、室温でpHが7といった非常に温和な条件で発電できるのが特徴です。
わずかなエネルギー源から発電することを環境発電といいます。私たちが開発しているバイオ燃料電池は、尿や汗といったわずかな量の液体から発電できる環境発電デバイスへの活用が期待されています。近い将来、大量のデータを取得するために毎年1兆個規模のセンサーを社会が消費するトリリオン・センサ時代が来るといわれています。その時代に向けて、ウェアラブルデバイスに活用できるバイオ燃料電池が注目されています。
—バイオ燃料電池の研究を始めるきっかけは何だったのですか?
以前から私たちは、スクリーン印刷という技術を使ってさまざまな電気化学デバイス向けのセンサーを作っていました。ウェアラブルデバイスは一般消費者にも身近になってきましたが、電池がもっと軽くて薄いものになればウェアラブルデバイスはさらに軽く薄くなるはずだと考え、スクリーン印刷技術を使ってウェラブルデバイス向けの電池の開発を始めました。
そこから、もし燃料として汗や尿などを使うことができれば自己駆動型のウェアラブルセンサが実現できるのではないかと発想を転換させ、今の研究テーマに至っています。
—研究を進める中で魅力を感じている点や、印象に残っているポイントを教えてください。
私たちが開発しているバイオ燃料電池の一番の魅力は、体液そのものを燃料として用いることができる自己駆動型というところです。体液濃度に応じて無線伝送の頻度を変えたり、出力結果をディスプレイに表示したりできます。例えば、汗中の乳酸の濃度が上がったときに、外部電源を必要とせずにセンシングできます。
一般的なウェラブルデバイスでは電池を必要とするため、使いたいときに電池が切れていると使い物にならなくなってしまいます。しかし、我々のデバイスは測定したいもの自体が燃料になるため、電池切れを起こすということがありません。ユーザーはバッテリー残量の心配をすることなく、健康管理用ウェアラブルデバイスとして常に身につけることができると思います。また、プロサッカー選手などのアスリートに装着してもらって運動強度のモニタリングができることにも魅力を感じています。
—研究を進めるうえで課題と感じることは何ですか?
今は基礎研究の段階から応用に向けて発展的に研究を進めており、センサの安定性やパッケージングなどを考える段階にきています。センサをパッケージングするための封止技術や、電極上に酵素を固定する技術などをさらに改良することが課題になっています。実用化に向けて、センサの開発コストを抑えることにも取り組んでいます。また、私たちのデバイスは市場に類似製品がないので、ユーザーにどうやって魅力的に感じてもらうか、市場価値をもたせるかというところにも課題があると考えています。
—今後の展望を教えてください。
一般ユーザーからの要望として多いのが、汗をセンシングすることを活用した熱中症対策としてのデバイスです。汗に含まれている乳酸を燃料として発電して乳酸値を測り、さらにプラスしてイオン濃度を測るようなセンサを組み合わせて、熱中症の一歩手前の段階を検知するシステムを開発できれば、労働者向けの新しいセンサーとして発展できるのではないかと考えています。他にも、車などを運転する人の状態を測定するスマートドライブや、子どもの見守りなどにも応用できると考えています。
また、人間以外も計測対象になり得ると思います。家畜に装着して健康状態を測ったり、農作物を育てる土壌に埋めて土壌成分を分析したりするなど、農畜産業向けのセンシングシステムの開発にも貢献できると期待しています。
<参考>東京理科大学 創域理工学部 先端化学科 板垣・四反田研究室
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