英語の学会発表(プレゼン)で失敗しないためのコツ

英語の学会発表(プレゼン)で失敗しないためのコツ

英語講演という試練

学会での研究成果発表は、大学院生にとって研究生活の大きな山場と言えるでしょう。まして、それが国際学会における英語での発表となればなおさらです。最近は英語教育が充実した大学が増えたとはいえ、やはり英語プレゼンテーションを十分に練習できるところはわずかでしょう。日本語でも緊張する学会発表を、英語で行うとなれば誰しも最初は緊張することと思います。

その国際学会のあり方は、コロナ禍によって大きく変化しました。今ではZoomなどを介したオンラインでの発表が当たり前になり、ポスターセッションなども各種のツールを用いたウェブ上のやりとりで行われるようになりました。コスト面・時間面で大いに有利なオンライン学会という形式は、コロナ禍が過ぎ去ってもある程度残ることが予想されます。

オンラインでの発表は、外国人研究者との生でのやりとりという貴重な機会が失なわれますが、精神的負担はずいぶん減ります。とはいえ、自分の英語が通じるか、相手の言っていることが理解できるかという不安やプレッシャーは、やはりなくなるわけではありません。

プレゼンの心構え

初めての英語での発表で、気後れしてしまうのは全く当然です。ただこれについては、以前ある国際学会の開会セレモニーで、大会会長の教授が言っていたことが参考になるでしょう。

彼は「この学会の公用語は英語ではありません。何だと思いますか?」と問いかけ、会場を見回しました。そしてにっこり笑い「公用語は、英語ではなくブロークン・イングリッシュです。みなさん、発音や文法など気にせず、大いにブロークン・イングリッシュで語り合ってください」と言ったのです。

まさにその通りで、国際学会で語る際の最大のポイントは「発音など多少下手でも通じさえすればよい」と開き直り、自分が世界一よく知っている内容を堂々と語る、ということに尽きるでしょう。

これと関連して、「意識してゆっくりしゃべる」ことも重要です。日本語での発表でも、気づかぬうちに「早く終わらせたい」という意識が働くせいか、練習よりも早口になってしまうことがよくあります。ゆっくりと、落ち着いてしゃべっているというだけで、話し手はもちろん、研究内容に対する印象さえもよくなるものです。

「プレゼンの神様」と呼ばれたスティーヴ・ジョブスのプレゼン動画を見ると、たっぷりと間を取り、英語に不慣れな者でも十分聞き取れるほど、ゆっくりとしたペースでしゃべっていることがわかります。達人のプレゼンから学べることは少なくありません。

これと同様、決定的なデータや、ぱっと見ただけでは理解しづらいグラフなどを見せる際には、3秒ほど沈黙の時間を作るとよいでしょう。ただこれだけで、聞き手の理解度が大きく変わってきます。

緊張してしまい、演壇に立ったはいいが声が出なくなってしまうようなケースも見かけます。これはある音楽家に言わせれば、ステージで頭が真っ白になったなどというのは「単なる練習不足」だとのこと。何百回も繰り返し練習し、言うべき内容が最後まで自動的に出てくるくらいまで頭に叩き込めば、ステージで声が出なくなることなど起きないということです。やはり練習あるのみということでしょう。

原稿を用意する

先ほど、発音や文法を気にしすぎないようにと言いましたが、もちろんできる限り正確な方がよいのは当然のことです。この点は、しっかりした下準備がものをいいます。

プレゼンの準備として、まずスライドを作成し、しゃべる内容の原稿を用意する過程は、日本語でのプレゼンの場合と変わりありません。しかし、英語の講演の場合においては、原稿作りをより入念に行う必要があります。

多くの場合、まず日本語で原稿を書き上げ、これを英訳する形になると思います。英訳については、専門の翻訳業者に依頼するのがベストではありますが、DeepLなどの翻訳ツールもずいぶん頼りになります。ただし翻訳ツールは、専門用語の訳を誤ったり、訳しにくい文章をまるまる飛ばしてしまったりということが時に起こるので、チェックは欠かせません。

英文チェックを行ってくれる代表的なツールとして、Grammarlyがあります。スペルや前置詞の間違いはもちろん、日本人の苦手な冠詞のミスなども指摘し、正しい表現を提案してくれます。無料版でも十分有用ですが、有料版ではより自然な表現を提案してくれるなど、極めて強力なツールになっていますので、利用を検討する価値はあります。

その他、数値の表現などもしっかり確認しておく必要があります。たとえば6.02×10-23は、「six point zero two times ten to the minus twenty-third」となります(この後に「power」をつけるのが正式ですが、あまり使われません)。こうしたところを間違えると発表が台無しになりますので、注意が必要です。

発音練習

伝わる英語プレゼンのためには、やはり発音が重要であるのは言うまでもありません。そして大変残念なことに、日本で使われている化学英語は、本場での発音とかけ離れたものばかりです。

おそらくみなさんも、初めて外国人研究者の講演を聴いた時、使っている専門用語が全く聞き取れず、衝撃を受けた記憶があるのではないでしょうか。溶媒のキシレンは「ザイリーン」と発音されますし、Pd(0)は「パラジウムゼロ」ではなく「パレイディアムズィーロウ」です。教科書で習ってきた化学用語は、国際学会の場では全く役に立ちません。

以前であれば、近くにネイティヴスピーカーでもいない限りは、「正しい発音」を知ることはなかなかできませんでした。しかし近年では、各種の読み上げソフトやツールが利用できるようになっており、発音練習の強力なアシスタントになってくれます。

単純には、グーグル翻訳のサイトに英文を入力し、スピーカーのボタンを押すことで読み上げてくれます(一度目は素早く、二度目はゆっくり読み上げてくれる)。他には、たとえば「音読さん」は、各言語(英語でも英米豪印などに対応)の読み上げが可能である他、音の高低や速度も調節でき、音声ファイルとしてダウンロードすることもできます。

また、iPhoneのメモ機能も、設定を行えば英文読み上げツールとして利用可能です。これを使えば、電車内やちょっとした空き時間でも発音のトレーニングを行うことができます。

実は、こうしたツールを組み合わせ、自分では一言も発しない英語プレゼン動画を作る試みも行われています。見ていただければわかる通り、少なくともたいていの日本人よりはるかにネイティヴに近い、流暢な英語スピーチが作成されています。

もちろんこのやり方でオンライン講演を済ましてしまえと推奨するものではありませんが、無料または極めて安価なツールで、ここまでのものができるのも事実です。発表する側も聞く側も楽でメリットがありますから、将来はこうした形での「講演」が当たり前になるのかもしれません。

このようなツールに加えて、さらに素晴らしい講演原稿を完成させるためのスパイス―講演によく使われる決まり文句がありますので、これらを組み込むとよりそれらしく仕上がります。たとえば次のようなものです。

”On the first slide I show you outline of my talk.”(最初のスライドで、私の講演の概要をお見せします)
”On the next slide, you see ~“(次のスライドでお見せするのは~)
”Let me summarize my talk.”(ここまでの発表をまとめます)

最大の難関―“質疑応答”

しかしいくら翻訳・読み上げツールが進歩しようと、演者がどうしても自分の力で乗り越えねばならない難関が、講演後の質疑応答です。その分野のエキスパートである聴衆からは、「この条件は検討したか」といった比較的答えやすいものから、研究自体の意義を問う厳しいものまで、ありとあらゆる質問が飛んできます。

できる対策は、想定される質問を考えておき、答えを用意しておくことです。それに合わせたスライドも用意しておき、答え方も入念に練習します。

もちろん、全く想定しない質問も飛んできます。こちらが緊張しきっているところに、早口で難しい質問が飛んでくると、意味が取れないことも少なくありません。こうした時は、”Sorry, could you speak a little more slowly, please.”などと聞き直しましょう。

だいたいの意味がわかった時でも、”So you are asking if ~?”などと、自分の言葉で聞き直してみるのも手です。こうしたやりとりの間に呼吸を整え、答え方を考える時間を稼ぐのも、実は重要なテクニックです。

答えられそうな質問ではあるが、その場ではパッと言葉が出てこないこともあります。その場合は、語彙力不足を詫びて”Can we discuss this after the session?”とでも述べ、後でゆっくりと話すというのもひとつの手です。

とはいってもやはりうまく答えられず、会場にいる共同研究者が横から助け舟を出すような状況もよく見かけます。というより、初の英語講演で質疑応答を流暢にこなす学生など、ほとんどいないのが実際のところでしょう。次はもう少しうまくこなせるように……という闘志を燃やしながら帰路につくのも、国際学会出席の意義かもしれません。

国際学会での講演は大いなる試練ではありますが、自分を大きく成長させてくれる機会でもあります。自分の英語が通じたという喜び、海外の高名な研究者からコメントをもらうなどの感動は格別です。臆することなく、研究者人生の晴れ舞台を楽しんでください。

参考文献

英語での科学講演について、参考になる本がいくつか出版されています。スライドの構成、発音、ボディランゲージ、受け答えの要領、講演における各種の決まり文句などが詳しく記されており、大変有用です。これらの本は、研究室ごとに一冊ずつ常備しておいてもよいと思います。

「日本人研究者のための絶対できる英語プレゼンテーション」 Philip Hawke, Robert F. Whittier著、福田忍 訳 羊土社
「オラフ教授式 理工系のたのしい英語プレゼン術77」 カートハウス・オラフ、上野早苗 著 講談社

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