研究者に伝えたい、研究費獲得のために大切なこと
研究費を獲得するために大切なこと
研究を続けていくには、予算を獲得し途切れさせず運用しなくてはいけません。そのためには、若手のうちから将来のキャリアを見据えた戦略を考えておくことが重要です。トップ研究者として実績を築いてこられた3人の先生方のお話から、研究費獲得のために大切なことを3つまとめました。
※この記事は2017年度生命科学系学会合同年次大会(ConBio2017、2017年12月6日~12月9日)の大会3日目、12月8日(金)に行われたメルク株式会社主催のランチョンセミナー(第1会場)で行われた3人のパネリストの先生方の討論の内容をもとにまとめています。
パネリスト プロフィール
合田 圭介 先生
東京大学大学院 理学系研究科 教授
University of California, Los Angeles 工学部 兼任
内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT) Program Manager
世界経済フォーラム(ダボス会議) Young Global Leader
APL Photonics (AIP Publishing), Associate Editor
武内 寛明 先生
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学系専攻
生体環境応答学講座 ウイルス制御学 講師
鈴木 仁人 先生
国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター 主任研究官
その1:研究者同士のネットワークを広げ、コミュニティ内で信頼を築く
論文や実績が少ないからどうせ出しても通らない…そんなふうにあきらめるのはまだ早いかもしれません。大切なのは研究者のコミュニティ内で信頼を築くこと。先生方のお話を聞いてみましょう。
武内先生
「あるプロポーザルを出したいけれどもその前提となるような成果がまだ出ていないというときでも、学会やその分野での交流を通じて、熱意や整合性、妥当性がコミュニティの中で認知されていれば、業績が出ていなくてもグラントを取ることができるかもしれません。強調したいのは、グラントを申請する側も、審査する側も人間であるということです。そこではその人個人の信頼が前提となっているのです」
鈴木先生
「科研費の獲得には、自分がよい研究成果を上げていくということや、申請書でわかりやすい文章を書くことも大事ですが、審査員となる研究者が申請者を個人的に知っているかどうかというところも重要で、申請の段階で、武内先生の言われたように申請者の信頼性が担保されている状態だと話が早いと思います。また、若手のうちは自分ひとりの力だけでなく、自分とは異なる技術を持つ研究者や、自分より確立した研究者を巻き込んでチームとして戦うことができれば、ベテランの研究者たちとも戦いやすくなります」
研究者同士のネットワークがあれば、研究費獲得に有利なだけでなく、共同研究や情報交換が行えて、有利に研究を進められます。では、どうやってそのようなネットワークを築いていけばよいのでしょうか。鈴木先生が具体的にアドバイスを語ってくれました。
鈴木先生
「例えば、私は、大学院生のときは学会などで毎回質問をしていました。そうすると、こいつはよく質問するなと思われて、名前を覚えてもらえます。大きな学会でも、積極性をもってすればアピールは可能だと思います。ポスター発表などで面識のない研究者と直接接することもできます。また、TwitterやFacebookなどのSNSで多くの異分野の研究者とつながっておくことも、新たなネットワークの形成やその維持に役立っています」
積極的に行動すれば、ネットワークを築くチャンスはいろいろなところにありそうですね。SNSの有効利用は効率的にたくさんの人と交流できそうです。
その2:独創的な研究とトレンドを組み合わせる
ただがむしゃらに自分の好きな研究だけを行っていても、研究費獲得にはつながりません。自分の哲学をもって独創的な研究を行うと同時に、トレンドを読み需要がある研究も行っていくことが、研究費を途切れさせない秘訣のようです。
合田先生
「米国ではよくファンディング・パレットという言葉が使われます。例えば3つの大きなプロジェクトを同時に進めていくことを想定したとき、そのうち1つはハイリスク-ハイインパクトなものにして、もう1つはローリスク-ローインパクト、すなわちトレンドを追うような形のものにします。そして最後の1つはその中間的なものという風に組み合わせることで、資金に困ることのないようにするのです。
確立されたトレンドの後追いだけでは自分のキャリアを切り開くことができませんから、挑戦も行っていく。公的な資金ではトレンドが重視されますが、私立の財団では、先が読めないけれどもインパクトがある研究に多額の研究費が出たりします。グラントの性格を見極め、10年、20年の長いタイムスパンで、どのようなファンドを取ってどのようなキャリアを形成していくかということを連動させて考えることが大切です」
鈴木先生
「研究費を獲得して自分の好きな研究を行うためには、研究に独創性がなければいけません。誰も行っていないような独創的な研究をいきなり行うのは難しいのですが、研究課題自体にそこまで独創性がなくても、新しい実験手法や新しい技術に基づいた研究機器を用いて解析を行えば独創性は生まれます。同じ研究課題でも見せ方が変わるのです。あるいは、独創性のある技術を持った研究者と共同研究を行うこともひとつの方法です。このように研究課題の方向性を変えずに独創性を加えていくことは可能なのす」
武内先生
「研究に独創性をもたせるには、自分のphilosophy、それも単に研究としての哲学ではなく、自分がどうありたいかをしっかり持つことができているかどうかが大事なのではないかと思います。研究費獲得のときも、流行り廃りではなく、なぜそのようなことがしたいのか、その発想が自分の積み重ねから出てきたものなのかという理由の部分が、このチャレンジをサポートするに値する研究者かどうかを判断する拠り所になっていきますので、日ごろから自問自答し自分のphilosophyを意識していくことが大切だと思います」
トレンドと独創性の両方が大切なんですね。研究費の獲得にチャレンジすることで、自分の研究を客観的に分析できて研究者としてどうありたいかを見つめなおす絶好の機会にもなりそうです。
その3:若いうちから計画的に、長期スパンでキャリアを考える
目の前の実験に追われて忙しい日々を送っていたら、あっという間に「若手」ではなくなって、応募できるグラントの難易度が上がっていた…そんなことが起こらないためには、どうすればいいのでしょうか。先生方のアドバイスを聞いてみましょう。
武内先生
「若手の皆さんの中には、自分のやりたい発想やアイデアがいろいろと頭の中にあるという人も多いと思います。自由発想型と位置づけられる文部科学省の科研費を獲得すれば、そのようなアイデアを前面に主張して独自研究を進めることができますが、キャリアを築いていくためには、政策に特化する目的志向型に切り替えていく必要があります。最初のスタートアップから若手研究のカテゴリーまでは、留学先での仕事や研究内容で差し当たっての科研費は獲得できるのですが、その次の科研費、例えばスタートアップが1年目で、若手研究へ2年目にシフトしたときに、そこから2年、合計3年が経った段階で、自分の仕事を日本から成果として世の中に発信するというところまで行かなければ、その次のステップのハードルが高くなってしまうかもしれません」
合田先生
「まずは、あまり金額は気にせずに小さなビルドアップを意識して、将来的に自分がやっている研究がトレンドになるように組み立てながら予算を取ってくる、というのが良いかと思います。10年、20年の長いタイムスパンで、どのようなファンドを取ってどのようなキャリアを形成していくかということを連動させて考えるということですね」
武内先生
「合田先生がおっしゃるように、小さなものから積み上げていって、最終的に大きな道筋をつけていくことが大切です。しかも、それを最初の段階からよく考えておくことが重要ではないかと思います。何の考えもなくとりあえず留学したり、若いときの勢いでそのまま行けるだろうと思ってやっていくと、落とし穴に陥ることが多いのです。自分にとっての明確な課題を設定して、最初のチャレンジの段階で独自の研究指針を作っておくことが大事だと思います」
以上、研究費獲得のために大切なことをお届けしました。研究費獲得のためにはよい研究成果を上げていくということはもちろん大切ですが、3人の先生方のアドバイスの中には、それ以外にも重要なことがたくさんありました。さっそく今日から、将来のキャリアを見据えた行動を始めてみてはいかがでしょうか。
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