ペプチド固相合成の原理と方法

ペプチド固相合成の原理と方法

なぜペプチド固相合成が注目されているのか?

抗体と低分子の特徴を併せ持ち、これまでの医薬品では狙えなかった標的にもアプローチできるとされる次世代の創薬技術として、「中分子創薬」が注目を集めています。その中でも比較的低分子量(1,000~3,000)の「特殊ペプチド創薬」への期待が近年高まりつつあり、ペプチドの合成技術が注目されています*。現在、精製が簡便で反応の安全性が高いFmoc固相合成法が主流ですが、その背景には、世界で初めて20種類のFmocアミノ酸を製造・販売したメルクのNovabiochemが、合成技術の発展・普及に大きく貢献しています。

ファルマシア・50巻・8号・751頁参照

ペプチド固相合成法の原理

ペプチド固相合成法とはペプチドやタンパク質を合成する際に用いられる方法のひとつです。反応させたい分子を固体樹脂に結合させ、その樹脂上で試薬と化学反応させていきます。

ペプチド固相合成法には、高収率で目的とするペプチド鎖を得られる、反応後の目的分子以外の不要物や残存試薬の除去が簡便である、といったメリットがあります。合成の特徴として「最初のアミノ酸のC末端を保護する必要がないこと」、「N端側に反応点があること」があげられます。

ペプチド固相合成の方法

ペプチド固相合成の基本は、側鎖を保護したα-アミノ酸を不溶性樹脂担体に順次結合させていくことです。結合にはリンカーを用います。

固相ペプチド合成の基本スキーム(固相合成ハンドブック(1)参照)

N端にあるアミノ酸保護基を除去した後、カップリング試薬やあらかじめ活性化させておいたアミノ酸誘導体を用いて次のアミノ酸を縮合させていきます。保護基の除去と結合を繰り返し、目的のペプチド鎖ができあがったら、固相表面(C端)から樹脂を切断します。

樹脂の切断により、遊離カルボキシル基をもったペプチド、またはペプチドアミドができあがります。どちらのかたちのペプチドが得られるかは、用いるリンカーの種類によって決まります。側鎖のアミノ酸保護基は、大抵の場合、樹脂の切断と同時に除去されるような種類のものが用いられています。

N端の保護基に、酸で除去できるBoc基を用いる方法と、塩基で除去できるFmoc基を用いる方法があります。

固相ペプチド合成の保護基(固相合成ハンドブック(2)参照)

ここからはペプチド固相合成におけるBoc法とFmoc法を解説していきます。

Boc固相合成法

N端の保護基としてBoc基を用いるペプチド合成法です。一般的に、トリフルオロ酢酸(TFA)を用い、酸性条件下で脱保護を行います。ペプチド合成の最終段階、つまり、目的のペプチド鎖ができあがり、樹脂から切り出すときには、フッ化水素(HF)やトリフルオロメタンスルホン酸(TFMSA)が用いられます。

酸処理を繰り返し行うと、酸の触媒作用による副反応が生じたり、敏感なペプチド結合が影響を受けたりする可能性があります。また、フッ化水素(HF)は危険であり、高価で特別な装置が必要になります。そのため、ペプチド固相合成法においてBoc基を用いることは少なくなってきています。

Fmoc固相合成法

N端の保護基としてFmoc基を用いる方法です。ピペリジンを用い、塩基性条件下で除去します。合成では副生成物が生じますが、それらは塩化メチレン(DCM)あるいはジメチルホルミアミド(DMF)を用いて、洗浄・除去できます。また、洗浄液の吸光度を測定することで反応の進行度合いを確認することもできます。

樹脂を切断するときにはTFAを用います。酸性条件下になるのは、ペプチド合成の最終段階のみ、ということです。

Fmoc法の保護・脱保護・切断(固相合成ハンドブック(3)参照)

これまではFmoc法のためのアミノ酸誘導体や樹脂のコストが高く、ペプチド合成にFmoc法が採用されることも少なかったのですが、試薬の大量生産、ペプチド合成に妥当とされる価格設定、Fmoc法の利点に関する多くの報告、などがなされたことにより、Fmoc法は世界の研究者の間で主流となり、Fmoc法によるペプチド合成の発展にメルクのNovabiochemブランドが貢献しています。

Fmoc合成法がペプチド合成において、純度や収率の点で有益な結果をもたらしているという研究結果や、疎水性の高いアミノ酸配列を含む合成が難しいとされるペプチドに適しているという報告もあります。

ここまでがペプチド固相合成法の基本と方法です。Boc法、Fmoc法ともに使用する樹脂やリンカーはいくつか種類がありますので、目的のペプチド合成に応じて選びましょう。

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