<研究者インタビュー>つながり、発信し、研究する―前編―

<研究者インタビュー>つながり、発信し、研究する―前編―

「新しい」とは何か

―諸藤先生のご経歴を教えて下さい。

京都大学の吉田潤一先生のもとで博士号を取得し、花王の研究所に2年勤務した後、学習院大学で採用され、2018年春より狩野直和教授の研究室で助教を務めています。

―どのような学生でしたか?

一言で言えば「尖った」学生だったですね。与えられた研究テーマも重要なこととわかってはいたのですが、反応開発の研究をやってみたいと思い、修士1年からは自分で考えた反応を勝手に試していました。今思うと、先生方には申し訳なかったと反省していますが(笑)。

―どのような反応を?

当時研究室で得意としていたカチオンプール法という方法に、それまで使っていなかった基質を適用してみたところ、思った通り炭素-炭素結合ができたのです。自分ではうまく行ったと思い、その結果を助教の先生に見せてみたところ、「しょうもないことをやるな」と。

これにはしばらく落ち込みまして、自分がやったのは本当にしょうもないことなのか、いろいろ調べてみたのです。その結果、確かにしょうもないことをやったのだなと理解できました(笑)。単に反応データベースに登録されていない反応を見つけたから「新規」なのではない、本当に学術的に新規であるとはどういうことなのかを、考えるよいきっかけになりました。

―自分なりの価値判断基準を見つけたということですね。

ということで学術的進歩が必要な論文誌、たとえばOrganic Lettersに掲載されるような論文を出すことを、ひとまずの目標に置きました。そこで、グループで主に扱っていたカチオン種ではなく、ラジカルカチオン種を用いる反応を考えました。これはカチオンとは全く違う反応性を示すので、新規性はあるだろうと。その後、ラジカルカチオンを使って、それまで研究室でなされてきたカチオンの化学をなぞることで、いくつかの分子変換法を創り出すことができました。

―新規性とはそういうものですね。そうして博士号を取った後、企業とアカデミアで迷ったりは?

周囲には超人的な人がいて、アカデミアというのはああいう人が行くのだろうと思っていました。ただ、周囲はみな「お前は会社には向いていない」と(笑)。何しろ人の言うことを聞かなかったので、そう思われたのでしょう。

―実際に企業に入ってみていかがでしたか?

和歌山にある研究所に配属され、無機材料の研究に従事していましたが、素敵な人ばかりで、本当によくしていただきました。限られた時間の中で成果を求められる環境で、長年鍛えられた人たちはこうなるのかと、大学とはまた違う驚きを感じました。

研究者を研究する

―ブログ「有機化学論文研究所」を始めたのはこのころですか?

会社では有機化学から離れたのですが、毎朝欠かさず有機化学論文誌のチェックを続けていました。ここまで続くというのは、ある種凄いことだなと。そうして、そういう「無駄なこと」をするなら、何か理由がほしいということで、ブログを書き始めた感じです。

―反響はいかがでしたか?

いい意味で「よくやるなあ」といってもらえることが多かったです。名前を出していたことは、その後学生さんなどに知ってもらえたことで大きなメリットになりました。マイナスなことはほとんどなかったですね。

―「論文を研究する」というコンセプトが面白いですね。

ブログで、当初から一番やりたかったのは「研究者の研究」でした。一流の研究者の論文を読み込み、どう研究を展開していったか詳しく調べたことは、自分にとっても大きな財産になっています。ただ、負担が大きいわりに、アクセスは伸びないのですが(笑)。

―おそらく同業者からの評価は高いと思います。ちなみにアクセスが多いのはどの記事ですか?

ダントツで「女子高生と学ぶ有機化学」です。やはり学部生が読んでいるのだと思います。これからは自分の研究を広く知ってもらう必要があると思っていて、そのためにまず学部生から有機化学のファンを増やしていきたいという、ささやかな活動です。

―ブログの方向性をどう考えていますか?

やはり有機化学は好きなので、楽しい感じを伝えたいと思っています。そして、自分の考えなりやりたいことなりを発信できる場にしたいです。今回のクラウドファンディングもその一つですが、将来的に共同研究のハブにできないかというようなことも考えています。人をつなぐツールとして、非常に強力だと感じていますので。

―会社を辞め、大学に戻られたのは?

会社での仕事も嫌いではなかったですし、2年という期間自分なりに精一杯取り組みました。ただ、論文を読みブログを書いているうち、自分は結局のところ研究なんでもが好きなのではなく、有機化学という分野が好きなのだ、ということに気づきました。これは非常に幸せなことではないか、であれば多少の無理をしてでも、もう一度有機化学の現場に戻ってみたいと思いました。友人は、「ああ、なんだやっと決断したのか」というリアクションでしたが(笑)。

―大学に復帰されて、いかがですか?

会社ですといろいろな部署とやり取りの中で仕事が進んでいきますが、大学は研究室内部だけで完結できるので、その点は自分に向いていると思います。ただ雑務等は想像以上に多く、先生方は偉大なのだなあと改めて感じています。学生の指導も難しいですが、日々成長する姿を見ていると、喜びも大きいです。

後編に続く

<プロフィール>
諸藤 達也(もろふじ たつや)
学習院大学理学部化学科 助教
1988年生。2016年1月京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻修了 博士(工学)(吉田潤一 教授)。2016-2018年 花王株式会社。2018年4月から現職。

 

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