<注目ベンチャー>病気を「視る」薬を創る

<注目ベンチャー>病気を「視る」薬を創る

2010年に大学発の技術を世に送り出すべく創業し、蛍光プローブの製造・販売を専門とする五稜化薬。唯一無二の製品で世界市場でも成功を収めています。そして現在同社は、新たな診断薬事業へと羽ばたこうとしています。

診断薬への飛躍

―ケミカルバイオロジー分野も変化のさなかにあると思いますが、今後蛍光プローブの果たす役割も変わっていくのでしょうか?

「生命現象を視る」という役割そのものは変わらないと思いますが、いろいろな面で技術は進んでいます。そして究極的には、蛍光プローブが人類の幸せに結びつくかどうかというところまで、たどり着かないといけないと思っています。医療分野における蛍光プローブの役割には期待が高まっており、当社も医療用途への展開を大きく進めています。

―医療用途とは、どのようなものでしょうか?

浦野泰照先生(東大薬学部教授)の開発したがん細胞検出用蛍光プローブを、乳がんや食道がんの診断薬へ展開することを目指して、現在力を入れて取り組んでいます。今までもがん細胞に親和性のある蛍光プローブをがん検出に使う研究がなされていますが、迅速に癌部位を光らせることや、正常部位と癌部位を明瞭に見分けること等に課題がありました。例えば、蛍光プローブ自体に蛍光性がわずかにでもあると、このわずかな蛍光がノイズとなり、微小ながん部位から発せられる弱い蛍光シグナルが埋もれてしまうため、微小ながん部位を発見しにくいという問題点を抱えることになります。当社の蛍光プローブは非蛍光性となっており、がん細胞に多く発現している酵素と出合うことで、瞬時に蛍光性に変化します。そのため、課題であった迅速性や明瞭性をクリアした診断薬となると期待できます。

図 ヒト乳がん手術摘出検体にgGlu-HMRGをスプレーする前(左・中央)とスプレーした後3分(右)の色調変化。

がん部位は矢印で囲まれたところ。
右図の右下付近で緑色に光って見えるのがgGlu-HMRG の蛍光。
(提供:福岡県済生会福岡総合病院 乳腺外科 上尾先生)

―どのような使い方を想定しているのでしょうか?

乳がんに関しては、切除した検体に蛍光プローブをスプレーし、がん細胞の取り残しがないか迅速診断する「ナビゲーションドラッグ」という使い方を考えています。臨床研究でも、がん部位に対して高い感度と特異性を示すという結果が得られています。また、食道がんへの適用も進めていて、こちらは患者さんの体内で直接用いて、がんの早期発見を目指すものです。

―医療の現場で使う診断薬となると、いろいろな面で研究用試薬とはだいぶ違ってくるのでは?

診断薬事業の開始は会社としても大きなターニングポイントで、これに合わせて当初「五稜化学」であった社名も、2015年から「五稜化薬」に変更しています。北海道大学構内にあった会社も2017年から現在の場所に移し、診断薬を製造できる態勢を整えました。診断薬事業は、研究用試薬と比べて、部横断的な連携がより一層求められていることを感じながら、一丸となって取り組んでいます。

―心構えも、今までとは全く違うのでは?

患者さんの直接役に立ち、命を救う製品を送り出せると信じて、自信を持って作っています。多くの患者さんに、広く届いてほしいですね。病気を「視る」ことができれば、正しい治療につながりますので。

―まさに「人類の幸せに結びつく」研究で、会社としても大きな一歩ですね。日本発の画期的な診断薬、大いに期待しています。

ベンチャーという環境

―これから企業で研究職に就きたいという学生さんにアドバイスはありますか?

やりたいことを究めてほしいと思います。何のために研究をするのかは、ひとりひとり違うはずです。上の人から言われたことをただこなすのではなく、広い視野で、「自分」は何を研究したいのか、「自分」の研究の目的は何なのか、志や信念を大切にして研究に取り組んでいただきたいです。そうすると、今まで見えなかった景色や世界がみえてきます。未だ見ぬ新世界を切り開くワクワクやドキドキを楽しんでいただけたらと思います。企業での研究でも、そういった心は強みになるかと思います。

―大学と企業の研究に、違いを感じるのはどのあたりでしょうか?

企業での研究は、自分たちの作ったものが世の中に出ていくというのが、やはり大きな違いです。それがいろいろな分野で使われ、自分自身では知り得なかったこと、到達し得なかった深みにまで届いてゆくというのは、大学の研究にはない喜びです。

世の中に無いものを見つける研究をする大学と、世の中にいち早く研究成果を広める企業で役割は異なりますが、新しい発見を市場という出口に繋げるための役割分担だと考えています。どちらかが欠けても成り立たず、お互いがパートナーの関係といえるでしょう。

―ベンチャー企業ならではのよさはどのあたりでしょうか?

やはり発表されたばかりの研究にすぐさま取り組むことができる、フットワークの軽さがよいところでしょうか。大企業に比べて、ひとつの成否の影響が大きいので、「石にかじりついても成功させる」という精神で取り組んでいます。

こうしたベンチャーですと、マネジメントや製造工程、原価や価格設定の計算、パッケージデザインなどいろいろなことに関わります。安定感があり、ひとつのことに専念できる大企業に比べて苦労はありますが、反面でいろいろな経験を積めるのは、キャリア形成のためにはとてもよいと思えます。

―進路を考えるにあたり、学生さんのみならず多くの人に参考になると思います。どうもありがとうございました。

 

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五稜化薬の診断薬事業