<研究者インタビュー>平山祐-蛍光プローブ開発に至るまで
鉄イオンを高選択的に検出するプローブ開発で、ケミカルバイオロジー分野において注目を集める平山祐先生。研究者になるまでの経緯や、若手研究者へのメッセージを語っていただきました。
メジャーリーガーからタイムリーヒット
―現在の研究分野であるケミカルバイオロジーを選んだきっかけは?
実を言うと、その分野が特に好きだったわけではなく、ちょっと消極的なきっかけです。小学校のころから野球少年で、京都大学でも野球部に所属していました。ちょっと自慢させてもらいますと(笑)、現在メジャーリーグ(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)にいる平野佳寿投手とも対戦して、タイムリーヒットを打ちました。当時ピッチャーだった糸井嘉男選手(現・阪神タイガース)からもヒットを打っています。
そういったわけで、かなり真剣に野球に打ち込んでいたのですが、研究でもその時の姿勢が生きているのかもしれないですね。何事にも真剣に取り組むこと、目標に向けて計画的にものごとを実践していくのは大事なことだと、今も考えています。
そのくらい野球に打ち込み、4年生の10月まで部活がありましたので、受け入れてくれる研究室も少なく、「10月から頑張ってくれれば」とおっしゃって下さった山本行男先生にお世話になりました。ケミカルバイオロジーという言葉がまだ普及し始めたばかりのころで、筋運動に関与するタンパク質のイメージング色素を創る仕事でした。
修士1年のころはまだ野球部でコーチをしたりで、ほとんど実験せず、今思うとよく怒られなかったなと(笑)。修士1年終わりごろから結果が出てきて、研究が面白くなりました。博士課程進学を悩んでいたころ、山本先生から「君は研究者に向いてると思うよ」と背中を押していただきました。また、先輩からも「博士の学位は取っといた方がええんちゃう」というアドバイスをいただいたこともあり、進学を決意しました。というわけで、最初からこの道に進もうという強い意志があったわけではないのですが、人との出会いの中で徐々に進路が定まっていったように思います。
「好きなことばかりに打ち込める仕事」
―アカデミックの道に進むことを決意したのは?
博士課程2年のころ、就職活動も始めていたのですが、並行して学振(学術振興会特別研究員)に応募しました。これに受からないようではアカデミックの研究者は無理だろう、通ったら考えてみようと。そのころ、ある国際学会で会った先生に「こんな好きなことばっかりやって生活できる仕事はないぞ」と言われたのが、背中を押してくれたように思います。自分がこれだと打ち込めるものを見つけ、それを一生続けられる、というのは研究者の醍醐味ですね。
博士課程では、いろいろと新しいことにも手を出しながら、さらに専門性を深めていきました。金ナノ粒子をタンパク質に導入して電子顕微鏡で観察する、タンパク質に導入したペプチドタグに結合して光る希土類錯体などなど。多くのテーマを手がけましたが、全てに意味があったと考えています。幅広いことに興味を持ち、専門性を高めていくのが私のスタイルなのかもしれません。
―早くから多くのバックグラウンドを身に着けていくのは重要ですね。イメージングの仕事はいつごろからでしょうか?
私が修士1年の頃に着任された多喜正泰先生(現名古屋大学ITbM)が、蛍光イメージングを手がけておられ、隣で面白そうだなと思って見ていました。やはり光るというのは見た目にもインパクトがありますので。幸い、蛍光イメージングの研究を行なっているクリストファー・チャン教授(カリフォルニア州立大学バークレー校)にポスドクとして受け入れていただけたので、そちらに留学しました。そちらでは銅を検出するプローブの開発を手がけました。マウスに自分で注射するような、それまでに全くやっていなかったことも多かったですが、それも楽しく取り組んでいました。
留学して1年ほど経ったころ、「ちょうどよい公募が出ているから受けてみたら」と恩師の山本先生から勧めをいただいたのが、今の研究室にやってきたきっかけです。縁といえば縁ですが、しっかりとネットワークを持って研究に当たるのも、研究者として大切なことかもしれません。以来、研究費などにも恵まれて、楽しく研究を行なっています。
―論文のカバーピクチャーなども、自ら手がけておられますね。
大学院生のころに3Dモデリングソフトにはまり、いろいろ描くようになったことが役に立っています。ただカバーピクチャーはお金も時間もかかるので、あまり今後はのめりこまない方がいいかなと思っています(笑)。
―苦労などはありますでしょうか?
おかげさまで蛍光プローブの開発にも、さらなる注目が集まってきたように思います。最近は共同研究が増えすぎて、ちょっと対応が大変になっていますが(笑)。こちらで作った試薬を送るのも、海外相手だと大変ですので……。ただ、こうした苦労は研究者としては喜ばしい限りですね。
知識で負けても、発想で勝負を
―将来目指す研究者像はどのようなものですか?
自分自身がどうこうというよりも、アカデミックや産業界で活躍できる人材をたくさん送り出したいという思いがあります。今の大学は優等生タイプの、コツコツやるタイプの人が多いので、もうちょっと研究の中で遊んでみたらいいのに、と思ったりもします(笑)。「ちょっとこういうことをやってみたらこうなったんですけど」と自発的に動く姿を見るのが、教員としての醍醐味ですね。
―そうしたことも含め、若い研究者にメッセージはありますでしょうか。
教員はいくつものテーマを見ていますので、各テーマに数分の一の力しかかけられません。しかし学生さんは100%の力を自分のテーマに注いでいますし、当事者にしかわからない観察もできるわけですから、もっともっと積極的にいろいろなことを考え、試してほしいと思います。大きなテーマの立案ができれば最高ですが、そこまで行かずとも小さな工夫やアイディアはたくさん出せるはずです。先生に知識では勝てなくても、発想では勝てるはずですから。
<研究者のおすすめ本コーナー> 平山祐編
将来のために読んでおいてほしいと思うのは、『人を動かす』(デール・カーネギー著)です。同じ著者の『話し方入門』もよいです。相手の知りたいことに沿って話すことができるようになると思います。
プロフィール
平山 祐 (ひらやま たすく)
岐阜薬科大学 薬化学大講座 薬化学研究室 准教授。
1980年生。2009年3月京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了(山本行男 教授)。2008-2010年 日本学術振興会特別研究員(DC2およびPD)。UC BerkeleyのChristopher J. Chang研究室での博士研究員を経て、2010年より岐阜薬科大学薬化学研究室 助教。2016年より現職。
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