<研究最前線>実用化は目前!塗って作れる次世代の有機無機複合太陽電池とは

<研究最前線>実用化は目前!塗って作れる次世代の有機無機複合太陽電池とは

重たいシリコン太陽電池から、塗って作れる軽い太陽電池へ

現代を生きる私たちにとって、この先どのようにエネルギーを供給していくかということは切実な問題です。資源に限りのある石油燃料だけでなく、再生可能で環境にやさしいエネルギーを開発していく必要があります。

その中でも大きな注目を集めているのが太陽光発電です。地球に降り注ぐ太陽光を利用できれば、人類は、ほぼ無限に使えるエネルギーを手に入れることになります。ただ、現在普及しているシリコンを材料に用いた太陽電池には、いくつかの課題が残されているのが現状です。これを克服するため、世界中の研究者がさまざまなアプローチで、より人間の生活に溶け込みやすい太陽電池の実用化を目指して研究を進めています。

東京大学先端科学研究センター特任講師の別所毅隆先生の専門もその一つ。色素によって太陽光を受け、発電する仕組みを用いた「色素増感型太陽電池」や、2012年に発明された塗布して作製できる「ペロブスカイト太陽電池」を中心に研究しています。いままでのシリコン太陽電池とどう違うのか、また、これからどのような可能性が広がっていくのかについて、詳しくお話を伺いました。

―従来のシリコン太陽電池の課題を教えてください。

まず、シリコン太陽電池は非常に優秀な電池です。発電効率も高く、安定で、実用化もなされている。日本の技術レベルは世界最高です。より多くの人の生活に役立つために、これから克服されるべき課題となる一つの点は、その重さです。民家の屋根に載っている太陽電池は、例えば平均的な4kWの発電システムでパネルの総重量はおよそ250kg、メーカーによっては400kg程度あります。電池が重いと屋根の上に持ち上げるだけでも大変です。設置用の足場は太陽電池の重さに耐えうる強固なものでなければならず、工事に掛かる時間も長く人件費がかかります。また安定して設置できるようにしたり、屋根がつぶれないよう丈夫なつくりにする必要があったりなど、建造物の建築的な問題が生じます。つまり、設置のためのコストがかかってしまうのです。

もちろん、シリコン太陽電池の作製費自体は、安価になってきています。その意味で、製造コストだけを考えると、シリコン型太陽電池で世界のエネルギーを賄える可能性はありますが、先述の設置コストや設置技術は課題です。

一方、ペロブスカイト太陽電池は、材料を塗布することで作ることができます。ペロブスカイト自体の厚さは500 nm(ナノメートル)、髪の毛の100分の1くらいです。太陽電池の重さは何の基板に塗布するかによって決まります。極端な例を出すと、ペロブスカイト太陽電池は食品を包装するラップフィルムのような軽いて曲がるものの上にも作製される可能性を持っています。そのため、設置コストに強みがあると考えられます。

―塗布して太陽電池を作るのなら応用の幅は広がりますね!

ビニールシートのようなものにして屋根にかけてもいいですし、太陽電池のカーテンも作れます。またペロブスカイトの膜厚を制御することにより、半透明も可能ですので、住宅やビルの窓ガラスを太陽電池にすることもできます。将来的には、インクとプリンターがあればいつでもどこでも太陽電池が作れることを望んでいます。

また、原料費も安価で製造も簡単という利点があります。一般の家庭に普及していくときに、安価で設置しやすいということは重要です。設備や技術が整っていない国への普及や現地での産業化の実現も夢ではありません。

日本発の技術ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けての取組み

―ペロブスカイト太陽電池の仕組みを教えてください。

まず、ペロブスカイトとは、ロシアのウラル山脈から得られた灰チタン石(CaTiO3)に名付けられた名称です。一般的に化学式がABX3(CaTiO3の場合、A:Ca, B:Ti, X:O)の組成式で表され、AとBには陽イオン、Xには陰イオンが配置されます。1) 太陽電池への応用研究として盛んに用いられている有機金属ハライドペロブスカイト材料は、主に、A:1価有機カチオン、B:2価金属カチオン、X:ハロゲンアニオンから結晶が構成されています。

ABX3型のハイブリッド型ハライドペロブスカイトの結晶構造。有機および無機1価カチオンがA(緑色)、2価金属カチオンがB(灰色)、ハロゲンアニオンがX(紫色)

具体的には、有機物であるメチルアンモニウムイオン(MA+)、無機物である鉛イオン(Pb2+)、ハロゲンアニオンであるヨウ素イオン(I-)の配合比を調整した結果、先ほど説明したペロブスカイト結晶構造ができあがり、半導体としての性質を示します。この半導体材料を利用して有機金属ハライドペロブスカイト太陽電池が誕生したのが2012年です。この材料を光増感体として応用した光増感型太陽電池としての初期の光エネルギーの変換効率はわずか3.2%で、シリコン系の26%とは比較できませんでした。しかしながら、その後、改良を重ね、現在では最大23%を超えており、シリコン太陽電池に匹敵しうる可能性を秘めていると考えられます。

―実用化はどのくらいまで進んでいるのでしょうか。

現在(2018年9月取材時)では、まだ実用化はされていません。企業・大学・国が力を合わせて急ピッチで実用化を目指して開発を進めています。そのプロジェクトのひとつが、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「革新的低製造コスト太陽電池の研究開発」であり、私も参加しています。

私たち研究者が実用化に向けた基礎的な技術を研究し、それを企業が実用化に適したサイズの太陽電池をつくって品質テストを行う。このサイクルをなるべく早く回していくことが大切だと感じています。日本発の技術、日本産のエネルギー源として、国のエネルギー政策としても意義あるプロジェクトだと考えています。

―実用化に向けて改善すべき点を教えてください。

ペロブスカイト太陽電池が登場した当初は、光エネルギー変換効率が低く、耐久性にも問題がありました。しかし、現在は改良され、エネルギー変換効率はシリコン太陽電池のそれに近づきつつあり、耐久性改善の研究も活発に行われていることから、代替になりうる性能に近づいていると感じています。

懸案事項の一つとして、材料として主に鉛が使われていることが頻繁に取り挙げられます。鉛には毒性がありますから、大量の鉛が環境中に溶けだしてしまうと大問題になります。しかしながら、ペロブスカイト太陽電池に用いられている単位面積当たりの鉛の量は、自然界の土壌の厚さ1 cmに含まれる量とほぼ同じです。2) 具体的な計算をすると、ペロブスカイト太陽電池1 m2に含まれる鉛の量はおよそ0.4 gです。一般的な魚釣りに使われる鉛の重りに比べてずいぶんと少ないのが現状です。

私たちは、カリウムを添加してペロブスカイト材料を改良した結果、変換効率20.5%のペロブスカイト太陽電池を開発することに成功し、2017年にScientific Reportsにその成果を発表しました。3) 従来のペロブスカイト太陽電池は、セシウムやルビジウムを含有することで20%以上のエネルギー変換効率を得ることを容易にしましたが、それらは高価でした。一方、地殻中にふんだんに存在し、かつ人体にも含まれている元素であるカリウムの活用方法を見出したことにより、より安価で安全な高性能ペロブスカイト太陽電池の開発に至りました。

―なぜカリウムを使おうと考えられたのでしょうか。

先述の通り、私たちの研究の前にセシウムやルビジウムで成功した報告があったのです。よって他のアルカリ金属類を試してみました。結果として、ナトリウムも有力な候補でしたが、カリウムが最も優れたエネルギー変換効率を示したため、カリウムを使って高性能な太陽電池を作ることに注力しました。

最初は光エネルギーの変換効率は16%ほどだったのですが、実験条件を細部まで改良することにより、最終的には20.5%まで高めることができました。20%を超えるかどうかが、実用化を考えられるラインだと言われているので、目標を達成できたときはほっとしました。

―カリウムを使う利点は何ですか?

ペロブスカイト太陽電池の問題点であるヒステリシス(Hysteresis)を著しく減少させることです。

 一般的にヒステリシスというのは、履歴現象または履歴効果と呼ばれ、過去の事象が現状に影響を与え、元に戻っていない状態を表します。太陽電池の場合、光照射下における発電特性は、通常なら、電圧を上げていくときと、下げていくときで、出力される電流は同じ値を取るはずです。しかし、ペロブスカイト太陽電池では、電圧の掃引方向によって検出される電流値が異なる現象、すなわちヒステリシスの事例が多く報告されています。

なぜ、ペロブスカイト太陽電池でヒステリシスが生じるのか、いまだに完全には解明されていません。ですが、カリウムを使った電池ではヒステリシスを改善することができました。

このことは、太陽電池の実用化を考えると、電力の出力値が安定するという利点になります。一方、基礎研究の面から見ると、ヒステリシス現象が、カリウムによって改善することがわかったので、ヒステリシスが起こるメカニズムを考える大きなヒントになります。

この現象を発見できたことが、カリウムで研究を続けていくモチベーションになりました。

―現在はどのようなことを目指して研究しているのか教えてください。

エネルギー変換効率が25%を超えるペロブスカイト太陽電池の作製を目標にしています。そして、貧困に苦しんでいる国で産業として太陽電池の生産が行われるようになり、その国の経済発展に寄与できれば、うれしいです。私たちが開発した太陽電池が、世界中の人々に当たり前のように使われる日が来るといいですね。そのときには、日本の一般家庭の電力料金が無料の社会を築けると思います。

プロフィール

別所 毅隆(べっしょ たける)
東京大学先端科学技術研究センター特任講師。博士(工学)。
1980年生。2009年3月芝浦工業大学大学院工学研究科博士課程修了。2009年7月スイスローザンヌ工科大学客員研究員、2011年10月ソニー株式会社先端マテリアル研究所研究員を経て、2015年10月から現職。

参考文献

1) 雑誌名:ペロブスカイト関連化合物―機能の宝庫〔季刊 化学総説No. 32〕1997年7月10日初版、編集者:社団法人 日本化学会、発行所:学会出版センター

2) Nam-Gyu Park, Michael Grätzel, Tsutomu Miyasaka, Kai Zhu & Keith Emery.  Nature Energy, 1, 16152 (2016)

3) Zeguo Tang, Takeru Bessho, Fumiyasu Awai, Takumi Kinoshita, Masato M. Maitani, Ryota Jono, Takurou N. Murakami, Haibin Wang, Takaya Kubo, Satoshi Uchida & Hiroshi Segawa. Scientific Reports, 7, 12183 (2017)