NMR溶媒を扱うコツとDouble Water Peaksについて

NMR溶媒を扱うコツとDouble Water Peaksについて

NMR溶媒を取り扱うときの4つのコツ

NMR測定では、水素原子を重水素に置換した溶媒を使用します。普通の溶媒を用いると、溶媒の水素原子のピークに埋もれて試料のピークが見えなくなってしまうからです。この重水素化されたNMR溶媒の多くは吸湿性が高く、取り扱いに注意が必要です。この記事では、NMR溶媒を正しく扱い精度の高い結果を得るためのコツと、重水素化溶媒で見られる「Double Water Peaks」について紹介します。

まずは、NMR溶媒を扱うときのコツを見ていきましょう。精度の高い実験結果を得るためには、次のようなことに気をつけてみてください。

<NMR溶媒を取り扱うときの注意点>

  1. 表面の水分を除去する
    ガラス器具を約150℃で24時間乾燥させ、不活性ガス雰囲気下で冷却します。サンプルを調製する前に重水素化溶媒でNMRサンプル管をすすぎます。これによってガラス表面に残った水を置換することができます。簡略化する場合は、窒素雰囲気下でサンプルを調製するだけでもよいでしょう。

  2. 不純物の混入を防ぐ
    清潔かつ乾燥したガラス器具とPTFE製の器具を使用します。サンプル管に入れた試料と溶媒は振とうではなく、ボルテックスミキサーで混合することをおすすめします。振とうするとサンプル管のキャップに付いた不純物が混入するおそれがあるためです。実験器具に残った溶媒蒸気が不純物の原因になることがあります。典型的な例として、スポイトキャップに残ったアセトンが見られます。

  3. 残留溶媒を除去する
    プロトン溶媒は共蒸発させることによって取り除くことができます。少量の重水素化溶媒を使って、真空下で短時間(5~10分)の乾燥を行った後にNMR試料を調製します。クロロホルム-d、ベンゼン-d6、トルエン-d8などの溶媒を用いると残留水分も共沸によって除去されます。

  4. TMSの蒸発を防ぐ
    TMS含有溶媒を長期間保管するとTMSが揮発して濃度が低下することがあります。このような溶媒はSure/Seal ボトルに入れて保管するとTMS量の減少をほぼ防ぐことができます。あるいは、アンプルに入った使い切りのTMS含有溶媒の使用をおすすめします。

重水素化溶媒で「Double Water Peaks」が見られる理由

NMR溶媒中で「Double Water Peaks」は昔からよく観察されており、1960年代の文献にも報告が見られます。ですが、この現象がなぜ起こるかという理由については、あまり広く知られていないようです。

重水素化クロロホルム、アセトン-d6、CD3CNおよびDMSO-d6のようなNMR溶媒では、製造プロセスや保管状態が原因の微量水分が必ず混入してしまいます。重水素化溶媒中で、水は「HOH、HOD、DOD」の3つの形態をとります。純粋なNMR溶媒のプロトンNMRスペクトルでは、HOHとHODピークの両方が観察されます。DODは観測されません。

プロトンNMRスペクトルにおいて、HOHはシングレットとして現れます。しかし、HODは、核スピン量子数I=1を有するD核とのカップリングのために、トリプレットとして現れます。観測されるHODピークの結合定数は、約1〜2 Hzです。HOHとHODのプロトンに関する化学的環境は類似していますが、完全に同一ではありません。そのため、HOHとHODのピークは近い化学シフトをとりますが、重複はせず、一般的には0.03 ppmほどの差があります。

以下に示したNMRスペクトルには、アセトン-d6のHOHおよびHODピークが見られます。このスペクトルからは、報告されている化学シフトおよびカップリング定数が読み取れます。

アセトン-d6溶媒のプロトンNMRスペクトル(Varian Mercury 400MHzにて測定)

アセトン-d6残留ピークは、2.04 ppmを中心とするクインテット(結合定数:2.11 Hz)として現れます。13C に由来するサテライトピークが、約150 Hz離れた、アセトン-d6残留ピークの両側にかろうじて見ることができます。H2Oピークは2.82 ppmにシングレットとして、HODピークは2.78 ppmにトリプレット(結合定数:2.07 Hz)として現れます。

以上、NMR測定の溶媒の取り扱いについて紹介しました。重水素化溶媒の性質を知れば、よりクリアな解析結果を得られます。シグマアルドリッチのサイトには、NMR測定に便利な各種重溶媒中の化学シフト一覧(PDFファイル)も掲載していますので、参考にしてみてくださいね。

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