超遠心不要、細胞タンパク質を4つの画分に分けて抽出する方法

超遠心不要、細胞タンパク質を4つの画分に分けて抽出する方法

タンパク質抽出を効率的かつ円滑に行うツール

プロテオミクスにおいて重要な課題の一つは複雑なタンパク質混合物の精製です。これは発現量の少ないタンパク質を検出可能にするため、また、機能タンパク質の濃縮により下流の解析を円滑化するために必要なステップです。

そこで便利なツールのひとつが、ProteoExtract® Kit(以下、PEK)です。再現性および信頼性が高いタンパク質サンプル調製法として使用可能。哺乳類細胞の全プロテーム及びプロテオーム画分の解析、あるいは哺乳類細胞の正常状態と疾患状態または疾患誘発状態の比較を行うディファレンシャル・プロテオミクス研究にも有効です。

PEKは用途に応じてC-PEK、S-PEK、M-PEK、TM-PEKの4種類に分けられます。

C-PEKはComplete Mammalian Proteome Extraction Kitの略称で、哺乳動物細胞・組織から総タンパク質を迅速かつ容易に抽出します。2次元電気泳動や質量分析に使用可能なプロテオームサンプルが得られます。

S-PEKはSubcellular Proteome Extraction Kitの略で、細胞内局在に基づいて哺乳動物細胞からプロテオーム画分を迅速かつ簡便に抽出できます。S-PEKで得られたサンプルは活性アッセイ、マイクロアレイおよび1次元、2次元電気泳動に使用可能です。

M-PEKはNative Membrane Protein Extraction Kitの略で、哺乳動物細胞および組織から膜内在性タンパク質または膜結合タンパク質を分離します。2ステップの簡単な操作により非変性の状態で、活性・機能を保持したまま抽出できるよう設計されています。

TM-PEKはTransmembrane Protein Extraction Kitの略で、哺乳類細胞および組織から、GPCRなどの複数回膜貫通型タンパク質を、界面活性剤を使うことなく、穏やかかつ効率的に抽出できるキットです。

この記事では、この中から特にS-PEKについて紹介します。

S-PEKの特徴

S-PEKは動物細胞または組織からプロテオーム画分を迅速に再現性良く抽出するよう設計されたキットです。再現性が非常に高く、超遠心の必要がないため簡便で、抽出したタンパク質は機能解析に利用可能などの特長があります。また、所要時間は2時間、実際の操作時間は45分程度と迅速に抽出を行うことができるのも魅力です。

S-PEKでは1つのサンプルから、細胞の局在に応じて段階的にタンパク質を抽出し、細胞質、膜・オルガネラ、核、細胞骨格マトリックスの4つに分画・抽出できます。タンパク質は非変性状態(細胞骨格タンパク質画分を除く)で抽出され、得られたサンプルは1次元、2次元電気泳動やウェスタンブロッティング、酵素活性反応、タンパク質マイクロアレイなど、幅広いアプリケーションに使用可能です。


S-PEKによる分画プロトコール

S-PEKの使用事例

以下の図はS-PEKを用いて転写因子NF-κBの核内移行を追跡した例です。

TNFαで刺激したA431細胞において、転写因子NF-κBが刺激後に核に移行するタイムコースを解析しました。各バーはS-PEKキットで分画した細胞質、膜・オルガネラ、核、細胞骨格画分を抗NF-κB(p65,RelA)抗体でウェスタンブロットして定量した結果を示しています。

転写因子NF-κBの核内移行を追跡した例

出典:S Saika S, et al. Expression of Smad7 in mouse eyes accelerates healing of corneal tissue after exposure to alkali(2005) American Journal of Pathology 166, 1405-1418.

S-PEKで分画抽出したタンパク質のコントロール抗体

S-PEKを用いて分画抽出したタンパク質には画分ごとのマーカータンパク質があります。それを検出するためのポジティブコントロールの例として、以下の抗体を参考にしてください。

抗体 マーカー 交差種 アプリケーション
Anti-Hsp90α Mouse mAb (EMD-17D7) 細胞質 human WB, IP, ELISA
Anti-Calnexin Antibody, clone AF8 細胞質 human WB, FC, IP, ICC, IHC
Anti-PARP Cleaved Form Antibody human WB
Anti-Vimentin/LN6 (Ab-1) Mouse mAb (V-9) 細胞骨格 chicken, human,
porcine, rat,
(not mouse)
WB, IF, PS, FS

細胞質、膜、核、細胞骨格画分のタンパク質マーカー

 

以上、PEKを用いたタンパク質抽出と、S-PEKの特長について紹介しました。PEKにはここに紹介した以外に、用途に応じてC-PEK、M-PEK、TM-PEKがあります。標的タンパク質の状態や目的に合わせて適切なツールを選択しましょう。