腫瘍の微小環境を再現する3D培養

腫瘍の微小環境を再現する3D培養

2D培養の限界と3D培養の可能性

がん研究では、これまで2D(二次元)の平面培養で成長させた腫瘍細胞株を用いて、膨大な知識を得てきました。しかし、現在、従来の平面培養した細胞株は、抗がん剤の開発モデルとしては不十分だと考えられています。

生理学的環境下では、細胞は常に細胞外マトリックス(以下、ECM)やほかの細胞とコミュニケーションをとりながら、細胞遊走やアポトーシス、転写の制御、受容体の発現といった複雑な生物学的機能をコントロールしています。In vitroで腫瘍を再現するには、これらの腫瘍を構成する全ての要因、つまり微小環境を再現することが必要です。

しかし、2D培養は生体内の環境とは大きく異なり、このような複雑な腫瘍微小環境を反映できていません。そこで登場したのが、ハンギングドロップ法などの3D(三次元)モデルシステムです。この記事では、3D培養の魅力のひとつである腫瘍微小環境の再現について解説します。

3D培養による腫瘍微小環境の再現

3D培養で増殖した細胞は、2D培養に比べ、実際の腫瘍の中で増殖する細胞に近づきます。Mina Bissell博士の画期的な研究を見てみましょう。

正常な乳房上皮細胞を2Dの単層で培養すると、複数回の継代を通して指数関数的に増殖します。しかし、Bissell博士の研究室では、Matrigel®を使った3D培養を行った場合、微小環境シグナルに反応して増殖率が下がることを発見。さらに3D培養では乳房上皮細胞がほぼ一般的なサイズの乳房腺房構造へと分化し、その内側に分泌物を含んでいることがわかりました(Petersen et al., 1992; Tibbitt and Anseth, 2012)。

また、乳がん組織から採取した細胞は、Matrigelの微小環境の中ではシグナルに反応することができず、分裂を続け、内腔を形成できませんでした。

別の研究室では、大腸がん患者より得たプライマリスフェロイドカルチャーを確立するには、細胞死を防ぐために細胞塊としての細胞同士の接触を維持する必要があることを発見しました(Kondo et al., 2011)。

これらの事実は、がんが、腫瘍細胞だけではなく周辺の微小環境も含めて成り立っている病気であることを示しています。そして、単層として確立され、長期に渡り継代された細胞株は、外部からのシグナルに反応する能力を失っている可能性が高いことを示しています。

このように腫瘍から単層として細胞株を確立することは、大変不自然な環境で生存できる稀な細胞を選択することになりかねません。その意味では、腫瘍モデルの材料として、かならずしも最適とは言えないでしょう。

一方、in vitro 3Dがんモデルは腫瘍の微小環境を模すことが可能です。その微小環境のひとつひとつの構成を操作し、何が病状としてのがんを進行させているのかが理解できる点も研究に大きく役立つでしょう。

腫瘍の微小環境に大きく影響するがん関連線維芽細胞

3D培養のメリットのひとつである腫瘍の微小環境の確立と維持において重要な役割を担っているがん関連線維芽細胞(Cancer-Associated Fibroblasts、以下CAF)の役割についても見てみましょう。

腫瘍の中のがん細胞からシグナルが発せられると、MMT(mesenchymal-mesenchymal transition)というプロセスが開始され、周辺の線維芽細胞がCAFに変化します。正常な線維芽細胞からは、間質で細胞の足場となるECMが分泌されます。しかし、CAFは通常の線維芽細胞とは異なるタンパク質プロファイルを有するECMを分泌し、腫瘍細胞の性質に計り知れない影響を与えます。さらに、CAFは腫瘍細胞の増殖、生存、移転を促進するさまざまな成長因子を分泌することが明らかとなっています(Allen and Jones 2011; Cirri and Chiarugi, 2011)。

CAFの起源は現時点では完全には解明されていませんが、CAFが腫瘍の増殖と転移に影響を及ぼしているというエビデンスは増えており、CAFは複数の抗がん剤を組み合わせた治療法において重要なターゲットとして認識されています。

このように、3D培養により腫瘍細胞だけではなく、周辺の微小環境を含めた研究が可能になります。さらに、3DがんモデルにCAFを組み込むことで、単層モデルでは発見できなかった新しい効果的な治療法を発見することができるかもしれません。

(本記事はReasons Cancer Researchers Adopt 3D Cell Culture: A Review of Recent Literatureを一部抜粋および改変し、和訳しました。)

参考文献
Allen, M and Louise Jones, J. (2011). The Journal of pathology. 223(2): 162-176
Cirri, P and Chiarugi, P. (2011). American journal of cancer research. 1(4): 482-497
Kondo, J et al. (2011). Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 108(15): 6235-6240
Petersen, OW et al. (1992). Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 89(19): 9064-9068
Tibbitt, MW and Anseth, KS (2012). Science translational medicine. 4(160): 160ps124