受容体拮抗薬を選ぶときの3つのポイント

受容体拮抗薬を選ぶときの3つのポイント

拮抗薬の選択が実験の質を決める

生体内の受容体分子に作用して神経伝達物質やホルモンなどの働きを阻害する受容体拮抗薬(アンタゴニスト)は、遮断薬や阻害剤とも呼ばれ、性質や働きの違う多数の試薬が開発されています。

臨床現場では病気の治療薬として、研究室では受容体の機能や細胞の性質を調べる実験試薬として、さまざまな種類の拮抗薬が用いられています。例えば、次のような薬剤が挙げられます。

以上は代表的な薬剤になりますが、実験試薬のカタログを開いてみると、ターゲットの種類が多いだけでなく、1つのターゲット分子に対しても複数の拮抗薬が存在していることがわかります。

正確な実験を行うためには、実験デザインに合わせた適切な拮抗薬を選ぶ必要があります。この記事では、受容体拮抗薬を選ぶときに気をつけるべき3つのポイントを解説していきます。

  1. 親和性は重要だが、それだけでは判断できない

    親和性は、薬物と受容体の間の相互作用の強さを表す指標です。親和性が高いと受容体との結合は強力になるため、低い濃度で効果を発揮することができます。ただし、結合の強さがそのまま反応の強さに直結するわけではありません。

    拮抗薬の効果は基本的には親和性に大きく依存しますが、ほかにも反応時間や効率の変動、薬物の標的部位到達能、代謝排出速度などにも影響を受けます。そのため、受容体に対して高い親和性を示すのに、弱い反応しか生じない拮抗薬も存在します。

    このような場合に注目したいのが「固有活性」の値です。固有活性は、ターゲットである受容体と薬物が結合した際に生じる活性反応を、割合で表す数値です。完全作動薬の場合は固有活性の値は1となり、完全拮抗薬では0となります。主に作動薬のときに用いる値ですが、拮抗薬を選ぶときにも覚えておいて損はないでしょう。また、EC50値を確認することも重要です。EC50値は親和性と有効性の両方に比例します。

    ただし、親和性、有効性、固有活性、EC50などの条件が同じでも、実験条件によって結果が異なることがあります。リガンド結合動態や生体反応に影響を及ぼす因子を見極め、条件をそろえて実験を行うように気をつけましょう。

  2. 選択性と特異性の高い薬剤を選ぼう

    選択性が高い薬剤は、特定の作用を優先的に引き起こします。また、特異性が高い場合は薬物作用が比較的制限された一連の細胞反応や、下流のシグナル伝達経路の活性化のみを引き起こします。

    このように選択性や特異性の高い薬剤ほど、得られた情報の解釈が容易になります。たとえば、図1(左)に示すように選択性の低い非選択的薬物を使用してしまうと、目的以外の反応(副作用)が生じてしまい、クリアな実験結果を示すことができません。また、図1(右)に示すように特異性の低い薬物は細胞に対して複数の作用を引き起こしてしまいます。この場合も結果の解釈が複雑になり、知りたい情報を得ることが困難になってしまいます。

    図1:薬物の選択性 VS 特異性

    選択性の高い拮抗薬は、少数の受容体や細胞型と相互作用し、併発する薬理学的な交差反応性をほとんど持ちません。たとえば、喘息の治療に用いられるサルブタモールは選択性の高い拮抗薬として知られています。サルブタモールはβ2-アドレナリン受容体に選択的に結合し、その選択性は肺組織への直接投与でさらに高くなります。

    一方、選択性の低い非選択的拮抗薬は、より広範な作用を有します。このため、思わぬ副作用や干渉作用が現れる場合もあります。たとえば、非選択的拮抗薬であるプロプラノロールは、β1-とβ2-アドレナリン受容体の両方に結合して両方の効果を発揮します。

    図2に4種類のアドレナリン拮抗薬の作用を示しました。同じα遮断薬でもα2a選択的作用を引き起こすフロマックスと、非選択的にα受容体に作用するフェントラミンでは下流の反応が変わってしまうことがわかります。

    図2:受容体の亜型に対する拮抗薬の選択性の重要性

    一方、特異性に関しては、拮抗薬が作用を引き起こす可能性が何種類あるかで決まります。薬物が引き起こす作用が1種類しかない場合、その薬物は特異性が高いとみなされます。

    また特異性は、薬物が相互作用する標的の数や、薬物が影響を及ぼす細胞集団の数とも関連しています。例として、α2-アドレナリン受容体遮断薬として治療に用いられるヨヒンビンは、高濃度になると、5-HT受容体、α1-アドレナリン受容体、モノアミンオキシダーゼ、コリンエステラーゼの活性も遮断します。このため、ヨヒンビンは、特異性が高い薬物とはみなされません。このように投与量によって選択性が変わる薬剤もあるので、使用濃度にも充分注意を払う必要があるでしょう。

  3. ED50とTD50も考慮しよう

    ED50は、標的集団の50%に有効な投与量を表す値です。この値は多くの化学的及び生物学的要因によって左右されるため、実験デザインによって異なります。そのため、ED50値を異なる実験系同士で直接比較することはできません。たとえ同じ実験系でもばらつきが生じることもあります。

    有効な投与量を正確に見極めるためにはED50値はあまり役に立ちませんが、自分たちの実験の信頼性を示す場合には有用です。また、毒性を発揮せずに使用できる濃度範囲を知りたい場合にもED50値が必要になってきます。

    毒性の評価を行うためにはED50値だけでなく、毒性用量の中央値データ(TD50)と致死用量の中央値データ(LD50)も決定する必要があります。LD50値は、モデル生物の種類によって大きく変動します。よって、ED50値と同様に、異なる実験系でLD50値をそのまま適用することはできません。TD50やLD50が低い薬物で実験系を構築するのは大変ですが、有効濃度を狭くとって使用するか、送達方法(例えば、経口、静脈内又は腹腔内など)を再考するとよいでしょう。

以上、受容体拮抗薬の選択のポイントについて解説しました。試薬を購入するときだけでなく、実験結果の解釈にも役立つ知識です。しっかり押さえておきましょう。