限外ろ過を応用してPCR産物を精製する方法

限外ろ過を応用してPCR産物を精製する方法

限外ろ過を応用してPCR産物を精製しよう

ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:Polymerase Chain Reaction)は、DNAポリメラーゼを用いて、わずか数分子のターゲット核酸から数ミリグラムのDNAを増幅するアプリケーションです。応用範囲が広く、分子生物学の研究以外にも様々な領域で利用されています。

PCR産物中には未反応のプライマーやヌクレオチド、塩などが残っています。PCRで作製したDNA断片をその後のアプリケーションに利用するためには、これらを定量的に除去し、精製する必要があります。

PCR産物の精製方法は複数ありますが、限外ろ過もその1つです。限外ろ過をPCRクリーンアップに応用すると、PCR産物を濃縮精製してクローニングが実施可能。また、DNAシーケンシングなどの下流側のアプリケーションへの適合もよく、効率的に実験を進めることができます。

それでは、遠心式限外ろ過フィルターAmicon Ultra-4を用いてPCR産物を精製する際のプロトコールと精製結果のデータを以下で紹介していきます。

PCR産物の精製に用いるAmicon Ultraの選び方

Amicon Ultraは用途によっていくつか種類があります。核酸を取り扱うアプリケーションでは、塩基鎖長を基準にAmicon Ultraを選ぶとよいでしょう。

DNA濃度や遠心力(g)の強さ、および塩濃度などのパラメータが、DNA回収率に影響を与えます。PCR反応産物を精製する場合、開始物質を希釈して比較的低いg値で遠心することで収量が最適化できます。PCR産物の精製に用いる場合には、一般的にNMWLが50 KのAmicon Ultra-4を選択すると、最も良好なスピードと回収率のバランスが得られます。

DNAサンプルが塩濃度の高い緩衝液中にあって希釈できない場合や、デバイスの推奨g値より高速で遠心する場合には、DNA回収率が大幅に低下する可能性があります。こうした条件下では、目の詰まった膜のAmicon Ultra-4を選ぶことで、DNAでもRNAでも回収率を高めることができます。ただし、2本鎖DNA断片から未反応の1本鎖プライマーを最大限に除去したいときは、そのプライマーとDNA断片の分子量が一桁以上離れている必要があることを覚えておきましょう。

Amicon Ultra-4を用いたPCR産物の精製方法

それでは、Amicon Ultra-4によるPCR産物の精製のプロトコールと精製結果を見ていきましょう。

<プロトコール>

  1. プラスミドDNAをテンプレートとして用い、PCRによりDNA断片(137, 301,657および1159 bp)を作製する。
  2. デバイス間の偏差を小さくするためにPCR反応産物をミックスする。このPCR産物100 µLを2.0 mLのTE Buffer(10 mM Tris-HCL、pH 8.0、1 mM EDTA)で希釈し、NMWLが50 KのAmicon Ultra-4に加える。
  3. サンプルを2,000×gで20分間遠心し、さらに2.0 mLのTE緩衝液をサンプルに追加する。
  4. 再度2,000×gで20分間遠心。PCR産物を濃縮する。
  5. 精製したPCR産物をピペットで採取し、回収したDNAを蛍光SYBR® Green Iアッセイ(Molecular Probes社製)で定量する。

この方法で精製した結果、サンプルの最終容積は87±15 µLとなりました。図1に各DNA断片のPCR産物の回収率を示します。図1から、Amicon Ultra-4をPCR産物の精製に用いると高い回収率が得られることがわかります。

図1 Amicon Ultra-4(NMWL:50 K)によるPCR産物の回収率

一方、目的のDNA断片の長さが1000 bpより短い場合、限外ろ過によるPCR産物精製の回収率が低くなる可能性があります。この場合、膜のNMWLを小さくしたAmicon Ultraを用いる、もしくは遠心のgを調整することでPCR産物の回収率を高めることができます。図2にAmicon Ultra-4(HMWL:100 K)を用いた137 bpのPCR産物の回収率を示します。137 bpのPCR断片は2,000×gでデバイスを遠心することにより、精製後に回収されるDNAの量をできるだけ多くすることも可能であるとわかります。

図2 Amicon Ultra-4(NMWL:100 K)を用いた137 bpのPCR産物の回収率に対するNMWLおよび遠心力の強さ (g) の影響

gを大きくすれば処理時間を短くできますが、DNAの回収率は低下します。DNA断片の長さが1000 bpより大きい場合には、このような影響はそれほど大きくはありません。

Amicon Ultraのプライマー除去性能

さらに、Amicon Ultraは高い回収率を得られるだけでなく、効率的にプライマーを除去することができます。その性能を実証するために、以下の実験を行いました。

まず、未精製のPCR産物に、5'末端を蛍光標識したDNAレポーターのプライマー20 pmolを加えました。このプライマーは、二次構造が最小限に抑えられるよう設計されています。

PCR産物をAmicon Ultra-4で精製後、サンプル中の残留プライマーの量を、蛍光強度を測定し標準曲線と対比させて測定しました。その結果、プライマーの平均除去率は97.7 ±1.4 %でした(図3)。この除去率であれば、DNAシーケンシングなど、PCRを利用するその他の重要なアプリケーションにも十分利用可能なことがわかります。

図3 Amicon Ultraの未反応PCRプライマー除去率

限外ろ過条件の最適化における問題点

限外ろ過ではある程度以下の大きさの分子は透過され取り除かれます。限外ろ過をPCR産物の精製に応用すると、分子サイズの小さい1本鎖プライマーが除去され、2本鎖DNAが残ります。

しかし、PCR産物が小型で1000 bpより小さい場合や、1本鎖プライマーのサイズが大きい場合は注意が必要です。これらの場合は、プライマー除去効率が低下します。

Amicon Ultraにおけるプライマー除去に対するNMWLの影響を図4に示します。

図4 Amicon Ultraにおけるプライマー除去に対するNMWLの影響

プライマー長が50塩基に近づくほど、Amicon Ultra(NMWL:30 K)のプライマー除去性能が大幅に低下していきます。反対にNMWLが50 Kのものを用いた場合には、プライマーの除去率は高いまま。20塩基、25塩基、48塩基のいずれも高い除去率を維持することがわかります。

プライマーのサイズが大きい場合、すべてを定量的に除去するには、NMWLが100 Kのデバイスを使用するとよいでしょう。一方、小型(300 bp未満)の場合、PCR産物の精製には適しません。

このため、プライマー除去率と回収率のバランスを考えた場合、PCR産物精製には、NMWLを50 KとするAmicon Ultra-4が最適といえます。

以上、限外ろ過を応用したPCR産物の精製方法について紹介しました。紹介したプロトコールはPCR産物の精製でしたが、一般的原理はその他の核酸調製物の精製にも適用可能です。

メルクのサイトには、PCR産物の精製に便利なフィルタープレートも掲載されています。ぜひPCR産物の精製に役立ててください。