必ず押さえておきたい!DNAを取り扱う際の注意点
DNAの化学的・物理的性質を知る
ライフサイエンスの研究者にとっては、なじみの深いDNA。しかし、その機能や原理についてよく知っていても、実はDNAの化学的・物理的性質についてはあまり知らないという人もいるのではないでしょうか。
DNA実験を正しく行うためには、DNAの性質についてよく理解しておく必要があります。まずは、以下の知識を覚えておくことが肝要です。
- 二本鎖DNAは熱や水素結合切断試薬で一本鎖になるが、逆の反応も起こりやすい。
- DNAは紫外線を吸収する。
- 高濃度のDNAは粘性がある。
- 長いDNAは激しい攪拌などで切断(剪断)されやすい。
- DNAはガラスに吸着するので基本的にはプラスチック器具を用いる。
では、これらの性質をふまえて、実験中はどういったことに注意をすべきか具体的にみていきましょう。
抽出前の注意点
良い状態のDNAは、良い状態のサンプルからしか抽出できません。サンプルの保存方法を中心に抽出前に気をつけておくべきことをまとめました。
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細胞や組織からゲノムDNAを抽出するためには、新鮮なサンプルや液体窒素で凍結し、−70℃で保存したサンプルを用います。これらのサンプルを用いることで、内在性のヌクレアーゼによるDNAの分解を最小限に抑えることができます。
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より良い結果を得るために、血液サンプルは出来る限り新鮮な血液か、室温保存で2日以内の血液を用います。4℃で7日間または–20℃で1ヶ月間の保存の場合、ゲノムDNAの収量は10〜15%減少します。
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血液サンプルの場合、抗凝固剤としてヘパリンではなくEDTAを加えたサンプルを用います。ヘパリンはPCRを阻害することがあります。
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もしヘパリンを含んだ血液サンプルからDNAを抽出しなければならない場合、High Pure PCR Template Preparation Kit(ロシュ社)を使用することで、サンプル中のヘパリンを除去できます。
ピベッティングの注意点
長いDNAを扱うときは、物理的に切断(剪断)されないように気をつけましょう。また、使用する器具にも注意が必要です。
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DNAが剪断されるため、激しいピペッティングは避けましょう。
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チップの先の小さな穴を通過する際、ゲノムDNAが剪断される可能性があります。ゲノムDNAの取り扱いに特化した、口径の大きいチップの利用をお勧めします。
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プラスミドDNAや比較的小さい分子量のDNA断片は、一般的なピペットを使用しても問題はありません。
保存の際の注意点
抽出したDNAは比較的安定な分子ですが取り扱いを間違えるとせっかくの実験が台無しになってしまいます。以下のことに気をつけて保存しましょう。
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ゲノムDNAは4℃で保存します。−20℃で保存すると、DNAが剪断される可能性があります。
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プラスミドDNAや比較的小さい分子量のDNA断片は、短期間の保存の場合、4℃で保存します。また、小分け分注して−20℃で保存すれば、長期間保存できます。
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トランスフォーメーション用のプラスミドDNAは、ニッキングを防止するため4℃で保存します。
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修飾DNAは4℃で保存します。
DNAサンプルの取り扱いにおける注意点
実験中のDNAサンプルの取り扱いについては、以下のことを確認してください。
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DNAサンプルは、実験準備中も常に氷上で保存します。
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エタノール沈殿後のDNAは、乾燥させすぎないようにします。風乾だけにします。
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プラスミドDNAや比較的分子量の小さいDNAは、風乾か真空乾燥を行います。
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DNAを再懸濁させるときには、Trisバッファー(例:10 mM Tris, pH7.0〜8.0)に溶解します。
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再懸濁を促すために、バッファーを加えた後、数回転倒混和するか、チューブの側面を優しくタッピングします。あるいは、4℃でオーバーナイト保存します。
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ゲノムDNAはボルテックスをしてはいけません。
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65℃で10分間加熱することで、DNAの再懸濁を促し、DNaseを不活化させることができます。
以上、DNAを取り扱う際の注意点を紹介しました。DNAの基本的な性質を理解したうえで個別の注意点を見ていけば、扱い方に迷うこともなくなるはずです。基本を押さえて実験を成功させてくださいね。
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