PCRによるマイコプラズマ感染の検出法
細胞培養とマイコプラズマ感染
マイコプラズマによる培養細胞の感染は、実験に大きな影響を与えます。通常、マイコプラズマによる感染で哺乳動物細胞が死滅することはありませんが、例えば「細胞代謝を変化させる」「染色体異常を引き起こす」「細胞増殖を遅らせる」「細胞付着を妨害する」などが挙げられます。そのため、培養している哺乳動物細胞がマイコプラズマに感染しているかどうかを確認することには重要な意味があります。
以下は組織培養においてよく感染する代表的なマイコプラズマの種類です。
- M. hyorhinis
- M. arginine
- M. orale
- M. fermentans
- Acholeplasma laidlawii
マイコプラズマはバクテリアに分類されますが、ほかのバクテリアと異なり細胞壁を持ちません。そのため、細胞壁形成を妨げることでバクテリアの成長を阻害するタイプの抗生物質はマイコプラズマに効果がありません。また、マイコプラズマは不定形で、大きさは0.15~0.3µm程、糸状もしくは球形の形で存在し、0.22µm孔のフィルターではほとんど捕捉することができません。他のバクテリアによるコンタミネーションは多くの場合、光学顕微鏡下で発見できますが、マイコプラズマはサイズがごく小さいため感染が拡大するまで気づきにくいという問題があります。
マイコプラズマの感染を早期に発見するため、定期的にサンプルを確認することは適切な研究を行う上で非常に重要です。マイコプラズマの検出は、マイコプラズマ培養法、DNA染色法、PCRによる検出法がよく用いられています。
この記事では、簡単かつ確実にマイコプラズマを検出できる、PCR検出キットを用いた方法を紹介します。
PCR検出キットによる検出方法
LookOut™ マイコプラズマPCR検出キット(製品番号 MP0035)を利用すると簡単かつ確実にマイコプラズマ、アコレプラズマ、およびウレアプラズマを検出することができます。細胞培養や生体物質に含まれるコンタミの高感度検出に最適な方法として利用されています。
このPCR検出キットを用いた検出プロトコールについて「サンプルの準備」「PCR」「検出」の3つのステップに分けて解説していきましょう。
サンプルの準備
細胞培養の上清をそのまま用いるか、以下の手順で準備を行います。
- 細胞培養上清を100µL取り、滅菌されたチューブに移します。
- 蓋をよく締めて、95℃で5分間ボイルするかインキュベートします。
- 5秒間ほど軽く遠心し、細胞片などを沈殿させます。
この状態で2〜8℃で1週間保存することができます。なお、長く培養した細胞の場合、培地にPCR阻害物質が含まれる可能性があるので、GenEluteTM Blood Genomic DNA Kit (製品番号 NA2010-1KT)を用いてサンプルを調製することが推奨されます。
PCR溶液の調整とPCR
次にPCRを行います。PCR溶液は各25µLが推奨されています。PCRは対象のサンプル、ポジティブコントロール、ネガティブコントロールの3種類について行います。
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キットのRehydration Bufferを新しいPCR用チューブに移し、JumpStart™ Taq DNA ポリメラーゼ(別売:製品番号 D9307)を添加し、指で軽くタッピングします(ボルテックスはしないでください)。分量は下記の通りです。
・目的のサンプル用、ネガティブコントロール用
Rehydration Buffer 22.5µL、DNAポリメラーゼ 0.5µL・ポジティブコントロール用
Rehydration Buffer 24.5µL、DNAポリメラーゼ 0.5µL -
目的のサンプル数+ネガティブコントロールに使う本数に応じてキットのTest Reaction Tubeを取り出し、手順1で準備したRehydration BufferとDNAポリメラーゼ混合液23µLをそれぞれのチューブに添加します。使わないチューブはしまっておきます。(Test Reaction Tubeにはprimers, dNTPs, internal control DNA, and gel loading buffer/dyeがコーティングされています。)
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ネガティブコントロール用のチューブにはDNAフリーの水を2µL添加し、サンプル用のチューブには先に準備したサンプルを各2µL添加します。チューブの蓋をしっかり閉じてPCRに備えます。
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ポジティブコントロール用にキットのPositive Control Reaction Tubeを1本取り出し、手順1で準備したRehydration BufferとDNAポリメラーゼ混合液の25µLをチューブに添加。チューブの蓋をしっかり閉じます。使わないチューブはしまっておきます。
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各チューブを指で軽くタッピングしてよく混合します(ボルテックスはしないでください)。5分間室温でインキュベート後、次のステップに進みます。
サンプルの用意ができたら以下の条件でPCR反応を実行します。
DNAの検出
最後に検出をおこないます。
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先に1.2%のアガロースゲルを準備しておきます。
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アガロースゲルに各PCR産物を8µLローディングして電気泳動します。PCR反応液中にローディングバッファーが含まれているため、そのままローディングすることができます。
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電気泳動が2.5cmほど進んだら停止させます。取り出したゲルにエチジウムブロマイドなどを用いてDNAを検出します。マイコプラズマは260bp付近に見られます。
下の図は、コンタミを起こしたサンプル(ポジティブサンプル)と阻害したサンプルを上記の手順に従って検証した結果です。PCR産物をアガロースゲル電気泳動後に検出しました。マイコプラズマDNAを含むポジティブコントロールおよびポジティブサンプルは259bpにバンドが見られました。
以上、PCR検出キットを用いたマイコプラズマの検出方法について紹介しました。マイコプラズマによるサンプルの汚染を最小限に抑えるためにも、定期的にサンプルを確認し、感染の早期発見と対処を行うようにしましょう。
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