すぐに役立つ!失敗例から学ぶウェスタンブロット

すぐに役立つ!失敗例から学ぶウェスタンブロット

実験失敗の原因を知ろう

ウェスタンブロットは、ライフサイエンス実験の基本的なテクニックですが、他の実験と同じく正確な結果を出すためにはある程度の慣れと経験が必要です。初心者のうちは、失敗がつきもの。自分の腕が悪いのか、または他に原因があるのかの区別がつきにくいため、ダメなスパイラルからなかなか抜け出せないこともあるでしょう。

この記事では、ありがちな失敗例を紹介しながら、その原因を解説していきます。心当たりのある例を見つけたら、ぜひ解決法を試してみて下さい。原因さえわかれば、「失敗は経験値を上げる貴重な経験」となるはずです。

アーティファクト(人工的なノイズ)が出た場合の実例集

問題A:スマイリングが起きている。

端っこがあまり流れていない、すなわち泳動の速さが不均一で、まっすぐそろうはずのバンドの両端が上がっています。口角が上がった笑顔のような形になることから「スマイリング」と呼ばれている現象が起きています。

<原因>

  • スマイリングは電位が高すぎるために起こります。高電圧で電気泳動を行うと、ゲルが発熱し、温度が上昇します。この現象はゲルの中央部ほど大きくなるので、全体の温度が不均一になり、ゲルの端部と中央で泳動度が異なってしまうのです。

<原因-2>

  • 塩濃度が高いサンプルほど一般的に移動の速度が遅くなるため、塩濃度の異なるサンプルを同時に流したり、空のウェルを作るとサンプル間の移動速度が合わず、スマイリングが起きる場合があります。
  • 全てのウェルにアプライする液量や塩濃度を揃える、空のウェルにはサンプルバッファーのみをアプライするといった方法があります。

問題B:バックグラウンドが高すぎる。

<原因>

  • 適切に洗浄されていないことが原因と考えられます。

問題C:バンドが不明瞭な状態(スメア)が認められる

<原因>

  • 各ウェルに泳動したサンプル中のタンパク質量が多すぎることが原因です。

問題D:褪色したバンドが認められる

<原因>

  • 化学発光基質の濃度が高すぎた、または露光前のインキュベーションが長すぎたことが原因です。(標的は180 kDa、褪色したバンドは約60 kDaで認められます)

よくある問題とその原因・解決法

以下にウェスタンブロットを行うときによくある12の問題を取り上げその原因と解決法を見ていきます。

問題①:ブロットが縞状になっている。

<原因>

  • ゲルに泳動したタンパク質が過剰である。

<解決法>

  • タンパク質濃度を正確に測定し、泳動するタンパク質の量を減らします。

問題②:ブロットが不鮮明、またはぼやけている。

<原因>

  • ゲルの平衡化が不適切であり、ブロット中に縮んでしまった。

<解決法>

  • ゲルの平衡化時間を確認します。

問題③:シグナルが検出されない

<原因①>

  • 抗原が不十分である。

<解決法>

  • ゲルに泳動する抗原を増やすか、または泳動前にサンプルを濃縮する、またはゲルに泳動する標的タンパク質の量を増やすために免疫沈降法を用います。

<原因②>

  • 抗原が破壊されている可能性がある。

<解決法>

  • 電気泳動用の処理によってサンプルの抗原性が破壊されていないか確認します。

<原因③>

  • メンブレンのストリッピングおよび、リプロービングが行われている。

<解決法>

  • リプロービング中に抗原が失われている可能性があります。

<原因④>

  • 一次抗体の親和性が低い。

<解決法>

  • バッファーからTween® を除きます。

<原因⑤>

  • 二次抗体が間違っている。

<解決法>

  • 適切な二次抗体であるか確認します。

<原因⑥>

  • 検出前のブロットの保存中にタンパク質が分解されてしまった。

<解決法>

  • 新鮮なブロットを用います。

<原因⑦>

  • 検出システムの問題

<解決法>

  • 一次抗体の濃度、インキュベーション時間、および温度を最適化します。
  • 試薬濃度を上げ、インキュベーション時間を延長するなど、アプリケーションに応じて最適化します。
  • 検出試薬が適切に保存されており、指示どおりに使用されていることを確認します。

<原因⑧>

  • 露光時間が短すぎる。

<解決法>

  • 露光時間を延長します。

<原因⑨>

  • 化学発光基質の活性が失われてしまっている。

<解決法>

  • 少量の作業溶液(1mL)を調製し、暗室で1mLのHRP標識体を添加します。化学発光基質が正常であれば視覚可能な青い光が認められるはずです。

問題④:シグナルが弱い

<原因①>

  • ゲル上のタンパク質量が不十分である。

<解決法>

  • ゲルに泳動するタンパク質を増やすか、または泳動前にサンプルを濃縮する、またはゲルに泳動する標的タンパク質の量を増やすために免疫沈降法を用います。
  • フィルムの露光時間を延長します(1~2時間)。
  • メンブレンへのタンパク質の転写不良が疑われる場合には、転写バッファーのpH、メンブレンの種類や電位などの転写条件を最適化します。

<原因②>

  • 目的タンパク質の分子量が小さくメンブレンを通過してしまっている。

<解決法>

  • 目的タンパク質が低分子量(<20 kDa)の場合、孔径0.2μm のメンブレンImmobilon-PSQ(カタログ番号 ISEQ00010他)を選択することをお勧めします。

<原因③>

  • 転写条件が適切ではなくタンパク質がメンブレンを通過してしまっている。

<解決法>

  • 転写時間が長すぎる、もしくはゲル中のSDSの置換が適切ではなかったために発生しているので、転写を行う前にトランスファーバッファーによる置換の時間を長くする、もしくは転写時間を短くする。

<原因④>

  • 目的のタンパク質の量に対してブロッキングタンパク質が多すぎる(オーバーブロッキング)。

<解決法>

  • ブロッキングタンパク質の濃度を下げます。
  • 濃度5% のスキムミルクでは検出できなかったバンドが、0.5%、0.05% のもので検出できるようになることがあります。

<原因⑤>

  • 目的タンパク質に対する抗体の検出感度が低い。

<解決法>

  • より高感度の検出試薬Immobilon ECL Ultra Western HRP Substrate(カタログ番号WBULS0100) 、もしくはシグナル増強剤Immobilon SignalEnhancer (カタログ番号WBSH0500)を使用します。

問題⑤:非特異的なバンドがある

<原因①>

  • SDSによる、固定されたタンパク質のバンドへの非特異的結合。

<解決法>

  • 転写後に、ブロットを撹拌しながらよく洗浄します。
  • 手順でSDS を使用しない方法もあります。

<原因②>

  • 抗体(一次または二次)濃度が高すぎる

<解決法>

  • 抗体濃度を下げます。

問題⑥:バンドが拡散している

<原因①>

  • ゲルに泳動したタンパク質が多すぎる。

<解決法>

  • 泳動するタンパク質の量を減らします。

<原因②>

  • 抗体(一次または二次)濃度が高すぎる。

<解決法>

  • 抗体濃度を下げます。

問題⑦:バントが白く抜ける(リバースウェスタン)

<原因①>

  • サンプルのタンパク質量が多い。

<解決法>

  • サンプルが発現量の多いタンパク質、精製タンパク質の場合などアプライするタンパク質量を減らします。

<原因②>

  • HRP 標識二次抗体が多い。

<解決法>

  • 二次抗体濃度を下げます。

問題⑧:部分的に現像された区域や、何もない区域がある

<原因①>

  • ゲルからのタンパク質の転写が不完全である。

<解決法>

  • 転写中にゲルとメンブレンの間にある気泡を取り除きます。
  • ブロッキング前に、Ponceau S(カタログ番号114275)で膜を染色してタンパク質の転写をチェックします。
  • ストリッピング中にメンブレンが重なり合わないように、メンブレンを別々にインキュベーションします。

問題⑨:ポンソー染色したブロットの染色が不良である

<原因①>

  • 転写が無効である。

<解決法>

  • ブロッティングサンドイッチを作製する際、丁寧に気泡を除去します。
  • エレクトロブロッティングの間に温度が過剰になり、気泡またはゲル/メンブレンの歪みが生じていないか確認します。

問題⑩:ポンソー染色したブロットの染色が認められない

<原因①>

  • ウェスタンブロット中にタンパク質が転写されなかった。

<解決法>

  • 機器(ボックス、トップ、電源)の設定を確認します。

<原因②>

  • ゲルとメンブレンがブロット中に適切に接触していない。

<解決法>

  • メンブレンがゲルの正しい面の上にあることを確認します。

問題⑪:バックグラウンドが高く、均一である

<原因①>

  • メンブレンの問題

<解決法>

  • 手順を通して、メンブレンがしっかりと濡れたままであることを確認します。
  • インキュベーション中は常に撹拌します。メンブレンの取扱いに気を付けましょう。メンブレンを傷つけると、非特異的結合が生じる恐れがあります。
  • メンブレンを素手で取り扱わないようにします。グローブを着用しましょう!
  • 常に清潔なグローブを着用するか、メンブレン用ピンセット(カタログ番号XX6200006P)を用います。

<原因②>

  • 抗体(一次または二次)濃度が高すぎる。

<解決法>

  • 一次抗体または二次抗体のいずれかの希釈率を下げる、またはインキュベーション時間を短縮します。

<原因③>

  • 適切なブロッキング剤が用いられていない。

<解決法>

  • 別のブロッキング剤と比較します。

<原因④>

  • 非特異的部位のブロッキングが不十分である。

<解決法>

  • ブロッキング剤の濃度を上げます。
  • ブロッキング時間および温度を最適化します。ブロッキング剤にTween®-20 が含まれていない場合、Tween®-20 を添加します。Tween®-20 の濃度は0.05% が推奨されています。

<原因⑤>

  • 抗体がブロッキング剤中のタンパク質と交差反応している。

<解決法>

  • 別のブロッキング剤を用います。一次抗体を、その他のタンパク質を含まないブロッキング剤で希釈します。
  • アビジン‐ ビオチンシステムを用いる場合は、メンブレンのブロッキングにスキムミルクは使用しません。
  • 新しく調製したブロッキング剤を用います。

<原因⑥>

  • 露光時間が長すぎる。

<解決法>

  • ブロットをフィルムに露光する時間を短縮します。
  • フィルムの露光時間を最短にします(最初の15秒の露光で十分な場合もあります)。露光時間が短すぎると不便である場合は、抗体濃度を下げます。
  • フィルムに再度露光する前に、ブロットをカセット内で5~10分放置します。

<原因⑦>

  • 洗浄が不十分である。

<解決法>

  • 洗浄回数や、使用するバッファーの容量を増やします。
  • バッファーにTween®-20 が含まれていない場合、Tween®-20 を添加します。例えば、PBS-T (カタログ番号524653)、あるいはTBS-T(カタログ番号524753)を使用します。
  • ブロッキング剤のTween®-20濃度を0.1%に上げます。
  • Tween®-20含有バッファーでの洗浄でも不十分な場合、塩化ナトリウム(最大0.5 M)およびSDS(最大0.02%)を添加したPBSあるいはTBSなどのバッファーで、二次抗体反応後に30分間振とう洗浄を行います。

<原因⑧>

  • バッファーのコンタミネーションまたは細菌の増殖

<解決法>

  • 新鮮なバッファーを調製します。

<原因⑨>

  • ブロッキング機器の汚染

<解決法>

  • すべての機器を清掃するか、交換します。

問題⑫:バックグランドが染みだらけ、または斑が入っている

<原因①>

  • 抗体(一次または二次)濃度が高すぎる。

<解決法>

  • 抗体濃度を最適化します。一次/二次抗体の濃度が高すぎると、高いバックグラウンドが生じる場合があります。

<原因②>

  • HRP 標識抗体の凝集の形成によって小斑点が生じる。

<解決法>

  • 標識抗体を、孔径0.2μm のメンブレン(カタログ番号SLGVJ13SL)でろ過します。

<原因③>

  • 適切なブロッキング剤が用いられていない。

<解決法>

  • 別のブロッキング剤と比較します。

<原因④>

  • 非特異的部位のブロッキングが不十分である。

<解決法>

  • ブロッキング剤の濃度を上げます。
  • ブロッキング時間および/または温度を最適化します。
  • ブロッキング剤にTween®-20が含まれていない場合、Tween®-20を添加します。Tween®-20 の濃度は0.05%が推奨されています。

以上、ウェスタンブロットのよくある失敗例とその解決法を紹介しました。失敗したときこそ、実験の精度を高めるチャンスです。しっかりと原因を分析して、ひとつひとつクリアしていきましょう。

なお、市販のキットやシステムをうまく利用し効率化を図ることもおすすめです。メルクのSNAP i.d. 2.0システムは、ウェスタンブロットと免疫組織染色(IHC)実験を効率化するシステムです。

このシステムを用いることで、ブロッキングから抗原抗体反応までの各工程で4時間以上必要だった待機時間が約30分に短縮します。複数のブロットとスライドを並行して処理できるようになるため、すべての実験に均一の条件を簡単に適用できます。選択肢のひとつとして、ぜひチェックしてみてくださいね。